第二十一話 卒業試験2 合否判定
【砂の勇者 砂崎泰晴】
「お願い…、もうやめて…」
俺の意識を戻したのは一人の女性の声だった。
どこか懐かしい感じのする声。
目を開けると、そこは古い貸家みたいな場所。
オレンジの明かりがかすかに付いているだけで薄暗い。
なぜかどこに何があるのかがよくわかる…、
あの通路の右手、あそこがトイレで、
冷蔵庫には確か俺の好きなカステラも入ってるはずだ。
なんでそんな事が分かるんだろうか、既視感に襲われながら自分は夢を見ているのだと思った。
夢にしてはやけにリアルだ…
と考えていたら急にお腹が痛くなり始める。
目の前には影で顔の見えない男が俺を見下ろしている…
俺はじっとそいつを見つめ返す。
「なんだ、その目は?」
男は言った。酷く苛立って、尊厳を傷つけられたかのように―
「………、んあっれ?」
なんか、さっきまで夢を見ていた?
「あっ、砂崎君起きた!?」
あれ、カナ…、なんで俺の顔なんか覗き込んで…
「よかったー!!無事だった!!」
おまけに泣いてくれている。
そういやミノタウロス三体を相手してたら、変な二人組に襲われて…
「よぉ、起きたか泰晴!気持ちよさそうに寝ちゃってさ!ニヤニヤ」
ウーメルもカナくらい嬉しそうに俺を見ながら、けれどカナとは違ってどこか楽しそうだ。
「まぁまぁ、今回は一番の功労賞だしいいんじゃないの?ニヤニヤ」
ワッキーもおんなじ表情をしている。
気がつくとがたがた揺られていることに気がついた。
馬車の荷台の上か…、何があった?
どのくらい寝てた?
…、よっと…、って痛だっ!?!?!?
体を起こそうとすると全身が雷で撃たれたように痛くて起き上がれない。
「あ、まだ起きちゃダメだよ!王国に戻って検査をするまで安静にしてなさいってマミさんが言ってたよ!」
マミさん?って誰だ?
「そうだぞ泰晴、今はそこで大人しく休んどけーニヤニヤ」
「いやー、さすが勇者様は羨ましいですなーニヤニヤ」
なんでコイツらこんなにニヤニヤして…、そこまで来てようやく気づいた。
確かに俺の後頭部がようやく意識を取り戻し、その接触面が木の板でないことでないことを告げている。
てかさっきからカナの顔が真上にある時点で気づくべきだ…
【究極癒し魔法:膝枕】その美しい彼女の姿を自分だけが下のアングルから、かつすべすべの太ももの上に頭を置きながら見れるという究極の―
みたいなエフェクトがつきそうなくらい俺は衝撃を受けていた。
カナも二人にいじられてかなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめている。
良かった…
俺勇者とか言われてんのにあんまり活躍できてなかったからちょっと凹んでたけど、これで俺魔王討伐まで頑張れるわ
「あの…」
カナがそっぽを向きながら何かを言おうとしている
「あんまジロジロは見ないでくんないかな…」
ッ!?ツンデレッ!?!?!?
まだ追撃の手を緩めないのかよ!?!?
「ご、ごめん…、その見惚れ…」
「あっ!てかねっ!そっ、その!あの後どうなったの!?ウチ転移魔法のトラップ発動させちゃったじゃん!?」
…。
…。
まいっか。
「いや、あの後転移先にミノタウロスが三体いてさ…」
「三隊!?!?」
ウーメルおっきな声出すなよ…
後多分漢字違うぞ、そんなんさすがの俺でも相手できねぇから…
「ウチ等がそっちだったら死んでましたね…」
「いやてか、生きてる泰晴がやべぇよ…」
「化け物だなコイツ…」
おいやめろよワッキー、俺をモンスターを見る目で見るな
「でも、最後倒したのは俺じゃないんだ…。途中までは俺が相手してたんだけど…」
「え?じゃあまだボスモンスターいたの?」
ワッキーが顔を青ざめさせて言った。
気持ちはわからなくもない…
あの二人組、多分王国位なら制圧出来そうな程の魔力を持っていた…
「モンスターというか、多分あれは魔族だと思う…、人の形をしていたし。
二人組の内の一人が、ミノタウロス三体を一撃で仕留めたんだ。」
俺の言葉に三人共絶句している。
俺が多分恐らく小一時間相手して半分体力を削れたかどうか怪しいミノタウロスを一撃…
「お前等はあの後どうなった?」
「いやー、あの後は―」
ウーメルが気まずそうに事の顛末を話してくれた。
ウーメル達が転移した先にはミノタウロスが待っていた。
もれなく以前の中間試験と同じくモンスターの様子は随分と変だったそうだ。
そしていつも通ーりカナとワッキーがバカをやって大ピンチになりかけたところ、この地域一帯のモンスターの異変を察知したャメル副団長が派遣した【騎士団の第三隊分隊長マミさん】が颯爽と現れ、助けてくれたらしい。
「なんか、糸を操る魔法みたいらしくて!すごかったんですよっ!!」
カナが嬉しそうに補足する。
ワッキーも「女戦士に助けられたのはさすがに役得だった」と頷いている。
ミノタウロスを倒した後、俺を探しに来てくれた三人が迷うこと無く迷宮を出れたのも彼女の能力のおかげだという。
その彼女は一足先に事態の報告があると言って王国に戻ったらしい。
「で、どうやら試験は再試になるらしいです…」
カナが心底げんなりして言った。
「まぁ、取ってこいって言われた石も結局見つかんなかったしなー…」
「あ、それならほら」
ウーメルの言葉に俺はポケットに入れてあった光る琥珀と黄玉を人数分取り出した。
「あれ!?!?泰晴見つけてたのかよっ!?!?」
ワッキーもカナも一気に嬉しそうな表情になる。
「ミノタウロス達に出くわす前に、石台の上に置かれてたのを見つけたんだ。
ポッケから落っこって無くて良かった。」
「「これは!?!?!?いけんじゃね!?!?!?」」
王城に着いて、俺の幸せ膝枕タイムが終わると、ゴリハラ教官が寮の入り口で待っていた。
他のメンバーも皆すでに無事に帰還していて、なんと全員、卒業試験達成条件の石を持ち帰ったってさ。
「試験、見事だった。今日はまずゆっくり休むと良い」
そうゴリハラ教官に言われ、俺たちはそれぞれベッドにつく。
卒業試験の合否内容等については後に詳しく説明すると言われた。
俺達を最も指導してくれていたゴリハラ教官は凄く嬉しそうにしていたが、なぜか帰り際、苦い顔をしているようにも思えた。
やはりあのモンスターの異常な様子が気になっているのか?
まぁ、とにかくほぼ一週間ぶりのベッド、堪能するとしますか!