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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 前編
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第十九話 卒業試験 Aチーム アンタレス迷宮

Bチームが激しく【コカトリス 白亜合成種】と戦闘を繰り広げる少し前、Aチームの泰晴、ウーメル、ワッキー、カナもまた無事大森林を抜け、アンタレス迷宮に到着していた。


迷宮内には様々な罠が仕掛けられており、

石槍が地面から飛び出してきたり、

狭い通路に岩の玉が奥から猛スピードで転がってきたり、

ミミックの宝箱にカナが食われたり、

と迷宮定番トラップのオンパレードであったが四人はなんとかそれらを切り抜けていた。




「はぁ、はぁ…、いいかカナ、もう絶対に余計な壁のスイッチに触るなよ…、ハァハァ…」




転がってきた大岩から必死に逃げてきた所で、息も切れ切れのウーメルがカナにそう言った。




「そ、…、(息切れ)、それはフリですか?」


「「な訳ねぇだろ!!!」」




思わずツッコミのかぶるワッキーとウーメル。




「なぁ、それよりさ、多分なんとかって宝石が置いてある場所までもうすぐだぜ?」




ヘトヘトの三人をよそに泰晴が飄々と地図を片手に壁におニューのナイフでマークをつけながらそう言った。




「ねぇ、(息切れ)…、なんで砂崎君はあんな余裕そう…、(息切れ)…、なんですか…?」


「どうせ体のつくりが違う、はぁはぁ…(息切れ)…、気にしたら…、(息切れ)負けだ…ゼェゼェ」


「そりゃ…まぁ、ワッキーとは、出来が違うん…でしょうけど、ウチ荷物持ってもらって…、それで鼻歌歌って…、(息切れ)…、ますよ彼?」




息を整えながら四人はさらに迷宮の深部へ向かっていく。


ようやく四人の呼吸が落ち着き出した頃に着いた部屋は行き止まりであった。




「おかしいな…」


「来る道間違えたか?」




泰晴とウーメルは辺りの壁や床を調べていく。


と、カナは壁の一部のレンガが周りのレンガから浮いていて、ボタンのように押せることに気がついた。




「あのー…、コレってもしかして…」


「「やめろ!!不用意に押すんじゃ―」」




泰晴、ウーメルの制止も虚しく、レンガを押した事で作動した石床の魔法陣が四人をテレポートで別の場所へと転送した。






       【側溝の斥候 ワッキー】



「こんのバカっ!!!!!なんでこんなトラップだらけの迷宮で考えもなしにスイッチを起動しようと思えるんだよっ!?」


どうやらカナが押したレンガは転移魔法の起動スイッチになっていたらしい。


俺、ウーメル、カナは泰晴とはぐれて、薄暗い迷宮のどこかに転送されてしまったらしい。


ウーメルが壁に取り付けられた松明たいまつの照明に火を灯す。


洞窟の様なそこは地下闘技場、学校の運動場位の広さ…




ウーメルがつけてくれた明かりを頼りに辺りを見回して状況を確認しようと洞窟の奥を覗いた瞬間息を飲んだ。


石灰のペンキを塗ったような、毛皮に包まれた【ミノタウロス】がこちらを伺っている。


雄牛の頭には朔月状の角が猛々しく伸びており、肩の付け根から猪とさらに犬歯をギラギラと光らせた犬の頭、計3つの頭が各方向を感情のない目で見つめている。


体躯の大きさは大型トラック一台分立てたよりやや大きいだろうか…


「な、なんか…、あまりに普通のモンスターと様子が違いませんか…?プルプル」


カナが震えた声で小さくミノタウロスにバレないようそう言った。


「カナ、これはまず間違いなくお前が昨日フラグを立てたからだぞ…」


ワッキーはスタートダッシュの為に魔力をフルパワーで脚に込めながらも苦笑いを浮かべている。


向こうは目が悪いのかまだこちらをはっきりとは視認してないようにも思える。


「えっ!?私のせいですかっ!?どう考えたってワッキーが「あいつら余裕ーマジ雑魚ー」みたいな調子乗った発言したから【ミノタウロス】が怒ってこうなったんですよっ!」


「いや、待て待て待て、俺はキチンと泰晴〝が〟ボッコボコにしたって言ったぞ!!」


「言ってませんでしたよっ!!ミノタウロスさんっ、悪いのは全部ワッキーなんです信じてくださいっ!!」


「おい、やめろ!なんかちょっとあいつ俺の事ロックオンしてるし!!!なんでっ!!(泣)」


「バカ!お前ら大声出すなよ!!」


ウーメルが諌めた時にはすでに遅かった。


俺とカナの方を【ミノタウロス】がジロリと左右の二つの頭を向けて注視する。


「ひぃいいいいいいい!!!!!なんか首がゴキゴキって言いましたよ今っ!?!?!?!?」


「おい、お前らいつもの夫婦漫才はその辺にしとけ!!!来るぞ!!!!」


ウーメルが俺とカナの痴話喧嘩を素早く制止した。


刹那、【ミノタウロス】がこちらへ棍棒に異常な魔力を纏わせ、振り上げながらとてつもない速さで距離を詰めてくる。


その速度は高速を走る車を凌駕していた。


反応の遅れたカナと俺の前で盾となりウーメルが自身の長槍でその突進を受け止める。


辺りに衝撃波が爆風の様に広がった。


「ちっ、こんな敵ばっかじゃねぇかよおおおおおおおおお!!!!!!」


すかさず気を引き締め、姿勢ダックインを低く【ミノタウロス】の脇腹横を走り抜け、【ミノタウロス】を囲むようにトラップを張り巡らせていく。




グ愚るるるぁぁぁぁあ亜亜褸アアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




「おまけに頭三つとか…、ケルベロスだけにしとけよ…」


「なんでなんですかっ!?!?

頭三つにするのは魔物界隈では流行ってるんですか!?!?

だとしたら流行りに何でもかんでも乗っかる独自性の無い底辺ユーチューバーかなんかなんですか!?!?!?」


突進の続け様に左の猪の頭をウーメルに振り下ろしたそうにしている【ミノタウロス 左頭・猪】!


しかし俺のスキル【デコイ】に引っかかって、視線は自然と自身の体の回りを走る俺に惹きつけられてしまっている。


カナはすでに素早くステータスを向上させる下位魔法の詠唱をいくつか終えている。


ひとまず奇襲を成功させなきゃだ。




【支援魔法:つむじ風の加護】素早さ上昇

【支援魔法:防風】耐久力アップ


【物理攻撃:木牛もくぎゅう流馬りゅうばの矢】ワッキーの動きを読んだミノタウロスが口から矢を吐くッ!!!!!


【火属性魔法:火弾かだん・遅れすみれ】すかさずその隙を突いてカナが火の花壇から、弾け飛ばした種子。種子は発火しながら爆発し、ミノタウロスを怯ませる。




ダメージは無いが、【ミノタウロス】は攻撃の邪魔をされ頭にきている!


【ミノタウロス】は今度は下位魔法の火の球を打ち続けてくるカナを狙って棍棒を振り下ろす。


カナは素早くそれを避けながら魔力の溜めをしていたウーメルからミノタウロスの注意をうまくそらす。


「時間稼ぎ助かった!!!行くぜっ!!!!!!」



【火属性魔法:火焔一番槍】ウーメルはカナに気を取られているミノタウロスに炎を纏わせた槍で斬りかかる。



ミノタウロスの蛇の尾の一つが焼き斬れた。


しばらくの間俺とカナでミノタウロスのウーメルへの注意を逸らし、死角を消している蛇の尾を焼き切り落としていく。


大樽に入った酒でもあればもうちょい楽に攻略できたかもなんて思うのは俺がゲームをやり込みすぎたからだろうか…


それにしても、泰晴がいなくて圧倒的に火力の足りないこのパーティーでもなんとかなりそうだ…


っとこれはフラグか…、危ない危ない、冗談冗談




【魔法:シビレわな・改】俺が授業中魔改造しまくった罠。

【支援魔法:ガーベラ】カナがウーメルの攻撃力を上げる、テンションバフつき!

【火属性魔法:火焔十文字槍】ウーメルが動きの鈍ったミノタウロスの心臓を一突き。




「ちょっ!倒せたじゃないですか!!!ハッハッハーーーーー!!!!!!」


【ミノタウロス】が膝をついたのを見てカナが嬉しそうにはしゃぐ


「「ちょっ!!!馬鹿!!!!フラグ立てんな!!!!!」」


ウーメルと俺が揃って突っ込んだ時にはすでに手遅れだった。


せっかく俺がさっき自分のフラグをへし折ったってのにっ!!!!!!!


【特殊魔法:ダイダロスの工匠こうしょう】雄叫びをあげ、倒れたミノタウロスの皮膚が燃えると中は木炭だけになっている…


「へっ?」


カナが後ろを振り返ると先にはもう一体の別のミノタウロスが地面にある真紅と石灰色の魔法陣から出てきたところだった。



【呪術魔法:パーシパエーの呪い】ミノタウロスの大蛇が何本もカナに襲いかかる。



「お前はマジで余計な事しかしねぇなぁ!おいっ笑!!」


「ウーメル君はそう言いながらもウチに振り下ろされるミノタウロスの大蛇の尻尾をしっかりと薙いでくれます!!!」


「カナ!お前っ!笑!勝手に人にナレーションつける余裕あるならもう助けねぇぞ!!!!!」


「あぁあぁぁあじょ!!冗談ですっ!!!ありがとうございまぁぁぁぁす!!!!!!!」


カナはそう言いながらなにやら新調した魔導ローブの下に隠し持っていた魔導書の切れ端をいくつか宙に放り投げた。キメ顔で。


「おい、それは…!!」


俺は驚いた声を上げる。


「ふふふ、刮目するがいいですよっ!!!いつもウチが足手まといだと思ったら大間違いですっ!!!栞ちゃんに貰った中位魔法用の魔道具ですっ!!!


大いなる風の精よ、天に満ちるその力、請い招きて従う魔導の徒、ここに在り。願わくはその恩寵をもって―



魔導書は風を連れながらミノタウロスの周りをカナの珍しく真面目な声をした詠唱に合わせてくるくる回っている。


幸いさっきからミノタウロスが暴れている音でカナの詠唱はかき消され、版権問題に深く触れることもない!多分っ!



「喰らえーーーっ!!!!!!!!」


【エアロ・ラル・ステニグル】カナの魔力では魔法は発動しなかった。


「…。」


「…。」


「…。」


「…。グルオァァアア亜亜亜亜アアイアアアア!!!!!!!」


ミノタウロスが腹の底に響く地割れのような雄叫びを上げ、辺りに尻尾を振り回す。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁいあああああ!!!!!!今回ー!!絶対絶対絶命じゃあぁぁぁぁぁあなぁぁぁいあいでずかぁぁぁぁぁあ!!!!なんかなぁぁぁあいんですかぁぁぁぁぁ!?????ひぃぃぃぁ!ゃぁ!!!」


「いや!!それよりもおま!!!あんだけカッコつけて詠唱しといて不発に終わった事についてなんか言うことあるだろうがぁぁぁ!!!!!!!」
















    【砂の勇者 砂崎泰晴】




おそらくは猛毒…


カナが発動させた転移魔法テレポートトラップの転移先で俺が相手していた三体の【ミノタウロス】の足元には紫色の毒々しい魔法陣が浮き出ている。


おそらくそこから全身に、何かしらの状態異常から致死に瞬時に至る魔法が広がったんだろうな…


一体誰が…


考える暇もなく、迷宮深部のさらに奥から二人組の声が聞こえてくる。




「移世界民や魔法滞在者がヤクザのパシりになるというのなら、なしてまずヤクザを消さんのじゃ」




年寄りの女の声…




「おいおい、やめろよ婆さん。せっかく貴族連中が国民を騙して自分達の非力ぶりと資金洗浄の罪をそいつら移世界民になすりつけて懐柔しかけてんだぜ?野暮って話さ。」




こっちは男、低い深みのある声だ…




「成る程な。飼い殺しにされた挙句、税として持ってかれた努力の代価の半分は王国の政治家貴族連中がオネーチャンのおっぱい揉むのに使われて、自分達は幸せですゆーわけじゃな。」




会話に注意をはらいながらも、彼らが果たして味方かどうかを判断する材料を探していた。




「だから、それを言うなよ。ちょっとはインフラ整備に使われてるだろ?

毎日毎日ぎゅうぎゅうの電車と、渋滞を用意してくださってんだから…

まぁ、そうでなくとも俺はお前等には同情してんだぜ?

なんてったってこんな社会不適合の婆さんがなんだか真っ当な事言ってるような気がしてくる…

いやな渡世、異世界じゃねえか全く…、なぁ?」




二人が洞窟の奥から姿を現す。


さそりの影が地面を走り抜け、二人組の方へと駆けていく。


小柄な一人はローブを深く被って姿はよく見えない。背筋を曲げて、杖をつき、恐らく老婆の声の方だな。


もう一人はオニキスゴーレムの数珠じゅずをつけた毛深い腕腕、シルバースライムの指輪をつけた大きな手。


その手でソバージュの黒いくるくるの髪をかきあげている。


編み込まれた髭、

褐色の肌にはスライムのしずくのペンダント、

オーガの牙の首飾り、

漣のサファイアと、紫炎のルビーが耳元でそれぞれ映えて、魅惑に。


ご丁寧にミミックの商標登録の刻印まで入っている。


ギャランドゥは強い香水を恥ずかしげも見せずに纏い、ニヤリと笑うたびに金歯が光る。


大仰おおぎょうなスカルの真鍮のバックルと黒のサラマンダーレザーのパンツ、

羽織っているジャケットとブーツにはL(Lilith's)V(Venom)と刻印が大きく目につく所に入っている。


深い男らしい、世の女の腰を砕いてしまいそうな程の力強い声で、【宝石商】と呼ばれた男は隣にいる鳶色とびいろのマントにすっぽり身を被った老婆の声の方に声を掛けた。




「おい【占術家】、こいつでほんとうに間違いないんだろうな?」


「のはずだよ。」




長く、息をラクダの絵が描かれたタバコと吸い込んで、吐き出す煙はぐにゃんふわんと揺らいでいる。


最大限、二人の動きに注視しながら、なんとかこの場を切り抜ける方法を探っていた。


自分が同期の中で、或いは王国でもそこそこ出来る方なのは知ってる。


けれど、これはレベルが違い過ぎる。


仮にこの二人と対峙するならもっとレベルを上げてからじゃなきゃ…




「見てるものに囚われちゃ、後ろを取られるぜ?」




そう【宝石商】と呼ばれた男が背中越しに言ったやいなや、脊髄にはさそりがその硬く細い足で這い上がってくるような気味の悪い感覚が伝う。




!?!?!?初動無しでこの速度!?キャモル副団長ですら目で追えたのに!?


素早くバックステップで距離を取り、剣を構え直す。


後ろの老婆にも注意を払わなきゃ…




「おいおい、つれねぇな。安心しろよ、別に殺しゃしねぇから。さっきもミノタウロスから助けてやったろ?」


「その節はどーも。で、何の用?」


「そりゃー…、アレだよ、アレ」


「アレ?」


「ま、とにかく大人しくしてろよ。すぐ終わるから。」


男が煙を吐いて…、


そらキタ!!!!!


俺は背後に男が現れるのを予測して上空に跳び上が…


あれ?


なんで地面が頬に…




「おい、こいつ本当に【記録点セーブポイント】なのか?俺は心配になってきたぜ…

それに俺達が言えた義理じゃねえんだろうが、こいつここで何してんだ?」


「迷子じゃろうな」


「迷子ぉだぁ!?!?!?おいおい、頼むぜ…

で?どうやって統一世界線に戻すんだよ?」


「だから、【羅針盤】を打ち込むんじゃろ。ほっ」


マントから覗く老婆の俺に向けられた片手は萎れて枯れきっていて、いくつもの数珠が巻かれ、その下にタトゥーが彫られていた。


意識が遠のいていく…


老婆の腕から魔力の残滓が滲み出ている。


俺の体を包むようにいくつもの円形魔法陣も現れてる…、けれど指一本、細胞一つ動かせる気配がない…


毒?


だとしたらいつ…


「おい、死なねぇだろうなこいつ?」


「むしろお前さんの毒で死ぬんとちゃうか?」


「いんや、そんな物騒なもんは使ってねぇな。神経麻痺と快眠、起きたら三日便秘後くらいスッキリだ。」


「そほーか。まぁ、なに、砂属性魔法の適正があるようじゃし、後10、20レベも上がれば()()()使いこなせるようになるじゃろ。」







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