第十五話 「王女の鬱憤 ティータイムとゲームセンター」
【落ち葉の治癒魔術師 尾千羽カナ】
「はて、なんでウチはこんなところで楽しくプリクラを撮っているんだ…?」
「あっ、シャッターがしまりますわよ!」
ハイッ!ミノタウロスのチーズッ!!!!!
困惑も極まれる中、ウチはジェシー、天王寺さん、そしてあろうことかウチを召喚した王国の王女様とゲームセンター内のプリクラでプリを撮っていた…
半刻前―
「さっ!着きましたわよ!今巷で一番話題のゲームセンターですわ!!!!」
ハニービスケット王女様が綺麗で豪奢なスカートを翻してこちらを振り返って楽しそうに言った。
「ジェシー、これは一体どういう…」
「私が知るかよ」
「王女様が皆で同年代がやっているような遊びがしたいんやって」
何だか嫌そうにしながらも天王寺さんはまんざらなさそうにそう言いました。
「ちなみに本日は私達だけの貸切ですから、思う存分楽しめます!!!」
あ、ヤバい、トチ狂ってる系だ。
考えてる事が顔に出てしまっていたのかウーメルがウチの横腹を小突く。
いや、でも普通ゲームセンターは貸切にしないですよね?
ゲームセンターのオーナーと店主が並んで店前に来て挨拶してくれてますけど、多分あの人達人生でこんな事するなんて絶対予想してませんでしたよ?
冷や汗だらだら書きながら笑顔が引きつってたじゃないですか。
しかもウチらはこの後ゲームセンター貸し切るのにかかったお金を考えながら、百円をケチってUFOキャッチャーですよ?
取れたうまい棒も内心土下座中ですよ?
バカなんですか?死ぬんですか?
「まぁ、そういうな。めったにない外出らしいからな、邪魔をされたくないのだろう。」
ガネリオさんは相変わらずイケボです。
まぁ、それについては確かに可哀想だなーとも思わなくもないですが。
つい先日のこと、ガネリオさん達が朝帰りをして食堂に入ってきたので皆で何事かと尋ねたら、実は王女様と夜な夜なUNOにトランプをしてきたと説明されました。
まるで浮気現場を押さえられた夫の凄い苦し紛れの言い訳にも聞こえますが、王女様はそれはそれは不遇な人生を送ってきて、滅多に外に出ることも出来ず、友達もあまりいないのだとか。
「ケントみたいな人生ですね」
「だな。」
「全くだ。」
「うぉおい!!お前ら起こるぞっ?いい加減怒るぞっ!?」
それでお泊り会でトランプに勝った王女様のご褒美に、週末、皆でゲームセンターに行く約束をしてきたそうです。
その時は皆さんも是非とのことでウチらもついてきたわけですが…
「えっ、これで撮った写真に文字を書くんですか?」
マジか…、多分カップラーメンも食ったことねぇんだろうなこの王女様。
ウチが回想シーンを挟んでいる間に撮れた写真に落書きコーナーへ皆で移動してくると、王女様はただでさえ丸くて大きい瞳をさらに丸くさせています。
エイリアンかよ…
「うん、なんか逆に書かないとかもあるけど、ま、とりあえず日付とかー、後は―」
ウチがプリクラとはいかなるものかを説明している傍らで天王寺さんは案外楽しそうにラクガキしています。
天王寺さんて真面目でこういう所以外と来なさそうなのに…
ラクガキの内容を覗くと…
『貸し切ってみた☆』『ウチらBest Isekai Friends Forever!!』
…。
以外と楽しんでる…。
男子チームのワッキー、ウーメルくん、ケントは向こうの方でゾンビのシューティングゲームをやっています。
「おいおいおい!!!ケントぱねぇ!!!ノーコンティニューで3面までいったぞ!!!!」
「両手撃ち!強ぇえーーーー笑!!!!!!」
「おいおい、火傷するぜベイベー」
ガネリオさんと砂崎君はあっちでエアホッケー
「おい!泰晴!!魔法で磁力を操るのは禁止だろう!?!?!?」
「勝負事に卑怯もクソもないってーの!!いくぜっ!!!!おらっ!!!!」
と、皆のアホぶりに気を取られているとプリクラ完成!
…ってあれジェシーどこに…
「こぉおおおおおおおおおお…、ふんぬりゃっ!!!!」
ジェシー、いくら貸切とは言えさすがにお菓子のUFOキャッチャー持ち上げたらダメですよ。
「ハニービスケット王女様!もっかいウチらとプリとろー!!!」
世間知らずの王女様はキラキラ一軍女子四人組の格好のバービーちゃんにされちゃってます。
ハニービスケット王女様がもう一回プリクラを取りに行ったので、ウチは色んなアーケードを見て周ります。
この異世界は思ったよりも文明が魔法の力を借りて現代の日本に近かったりします。
けれどバスケットボールのシュートをするゲームはゴス調で作られていて、ガーゴイルがブロックしようとしてたり、
ギターヒーローならぬシタールヒーローがあったり、
太鼓の達人みたいなのは無駄に魔法の光のエフェクトがうるさいです。
景品はどこか温ったか味のある手作りの麻のぬいぐるみだったり、
お菓子だったり…
ジェシー、いくら景品のお菓子が限定モノだからといってワニワニパニックを本気の戦鎚で殴っちゃダメですよ。
って、あれ、このパンチングマシーン整備要のランプがついて…
…
…
景品の巨大スポンジケーキタワーが無くなってる…。
てか魔法で誤魔化したけど、この異世界、何ちゃっかりゲームセンターとか、スマホとか、中世のナーロッパ設定どうした?
そんなこんなで皆でゲームセンターをひとしきり堪能した後は、王女様がお昼御飯をご馳走してくれることに成りました。
二等地区からまた一等地区に戻って、王女様が皆に是非にも食べて欲しいというレストランに向かいます。
「あー!!!腹減ったー!!!私まだちまちま前菜から出してくる料理って食べたこと無いんだよね!!!」
ジェシー、まだ食べる気ですか?
さっきタワーロールケーキほとんど一人で食いやがって、ハニービスケット王女様ドン引きしてるじゃないですか?
「あっ、そういや俺もねぇかも…」
珍しく砂崎君が話題に乗っかってきた…
「カナはある?」
…、
…、
えっ!?ウチ!?なんでっ!?なんでウチっ!?なんて砂崎君がウチに会話を振るのっ!!?
「な、無い…かなー?」
「だよな!やっぱ性に合わないっていうかさー、ラーメンとかみたいに全部上に乗っけてある方が分かりやすくていいよな!」
いやその考えでラーメン食べたことはなかったけど…
「いや、ラーメンは前菜に餃子、副菜にチャーハンがつくだろ?デザートは杏仁豆腐だし…、あっ、あーしコース料理食べたことあったわ」
ジェシー、あれはコース料理じゃないから
「安心して下さい!ここの料亭はとーっても美味しいんですから!!!」
え、お嬢様今もしかして料亭って言いました?
で、しかもどうせ貸し切るんでしょ?
一体お通しのほうれん草をどーやって味わえばいいのか…
「ねー、そこってやっぱり凄い高いんじゃないの?」
シノンちゃんがド直球に質問します。ド直球過ぎます。
聞いたらもう味は分からなくなるというのに…
【ドラゴン・スRィムジン】という多分…、元の世界で言うこれ、リムジンだよな…。
乗ったことなぇからわかんねえけど。
デフォルメされた可愛いー竜の形のリムジンで、中は全てウォーターベットみたい…
に皆で揺られながらお腹を鳴らしつつ、どんな料理が出るかをあれこれ皆で質問します。
車内にはウェルカムドリンク的なものがあって、スライムジェリーの炭酸、おいし…!!
「私のおすすめはパープルオークトリュフを使ったプリンで、値段は一個百万くらいでしたっけ?」
ぶっ吹ーーーーーーーー飛沫ーー!!!!!飛沫スライムジェリー!!!!
「おいっ!きったねぇぞカナ!!!!!」
「もー、何してんの…」
あ、由貴ママ、ありがと拭いてくれて。
「まぁ、値段を聞いたらそのリアクションもわからなくはない…。」
「確かにな。俺ら庶民とは感覚が違い過ぎる…。」
ウーメル君とガネリオさんは何だか同調してくれてますが、いや待って、プリン一個百万!?!??
「パープルオークトリュフは時価で取引されますので、変動は御座いますが大体そのくらいかと。」
【ドラゴン・スRィムジン】に同乗していたハニービスケット王女様の専属おじさん秘書がなんか付け加えてますがそんな事はどっちでもいいですよっ!
「ほうれん草の煮浸し一戸建て分買えますよっ!?!?!?」
「また例えが貧乏だな」
「ワッキー、うるせぇですよっ!?」
「でも確かによく考えたら、魔導書に換算して軽く150冊位は買えるぞ?」
「ケントは黙ってて下さい」
「何でっ!?!?!!泣」
やがて着いたのは見上げれば首が痛くなりそうな高層ホテル
さすが一等地区…
ロビー、ホテルマン、三ツ星レストラン、全てに圧倒されつつ、乾杯。
こういうところでは乾杯ではなく、トースティング(?)と言うとジェシーは教えてくれましたがなんのことか全くわかりません。
【サファイア・リヴァイアシャン・パン(ノンアル)】の入ったグラスを掲げ、
王女様の「今日という1日に、冒険者の皆様の旅路の幸運に、チアーズ」と言うのに「チアーズ」と返せていたのはウーメル君、ガネリオさん、ケント、ジェシーだけです。
「ケント…、裏切ったなお前」
「えっ?なんのこと!?」
そういえばケントも転生前の文化圏がウチとは違いました…
「てかさ、あれ?こういうのって外側から使うんだっけ?」
よかった、やっぱりケントで安心しました。さすがにテーブルマナーくらいはウチもわかります。確か右から順に左まで使っていくんですよね?
さて、料理が運ばれてきて大人組は少し酔っ払い始めました。
「そういえばもうすぐ卒業試験だよねーダルー」
シーナちゃんがめんどくさそうに言います。
「この前の定期試験みたいにまた異常ステータスのモンスターが出てきたりして…」
ケント、やなこと言わないでくださいよ…いまだに夢に見るんですから…
「いやいやいや、ナイナイナイ笑あれはマジでやばかったしな」
「なんのことですか!?」
「あー、そうか王女様にはまだ話してなかったか俺等の勇姿…実はさ」
「以前定期試験で凶暴なモンスターの、それも亜種に出くわしたんですよっ!!」
王女様が話に興味を引いたところで、ウーメル君が言う前に私が言ってやりました!
「おい!笑おいしいとこもってくなよ!!!」
「おい!待て待て!!私が話す!」
「ちょっ!なんでジェシーが話すんですかっ!ジェシーなんて戦闘早々にやられて腹出して寝っ転がってただけじゃないですかっ!」
「誰の身代わりに攻撃受けてそうなったと思ってんだ!!!ゴルァ!!!!!!!!」
「王女様、実はイレギュラーの場面で最も大事なのは慌てずにいつも通りの―」
「「ケントは黙ってろっ!!!」」
「…とまぁ、そんな訳でケルベロスの亜種を見事俺と泰晴で討ち取ったと」
ワッキーが得意気に鼻を鳴らす。
「ぶっちゃけなんもしてないワッキーのここまでの俺すげぇ感に一同はドン引きです。」
「カナ氏?冗談やで?…プルプル泣」
ワッキーが半泣きになってる。
「へぇー!!!皆さんお凄いっ!!!」
王女様は素直に感動している。
ディナーは最後に一個百万円のプリンを心ゆくまで楽しんで、【スRィムジン】で王女様に寮まで送ってもらいお開きです。
寮の前に車が停まって、別れの挨拶を交わすと最後に王女様が言いました。
「卒業試験は王国が〝少なくとも騎士団としてやっていける〟というレベルを基準に設けられたものだと聞きました。
このレベルが皆さんにどう聞こえるのかはわかりませんが、騎士団というのはいわばこの王国にとって剣であり、盾なのです。
国民は彼等を尊敬し、信頼しているからこそ、魔物からの脅威に怯える事無く日常生活を送ることが出来るのです。
それだけの強さが、皆さんにはきっとあると信じています。ご武運を。」
ちょっとオーバーです。