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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 前編
16/124

第十四話 「王女の鬱憤 火曜だって夜ふかし」

https://44557.mitemin.net/i914226/

挿絵(By みてみん)


   【側溝そっこう斥候せっこう ワッキー】




「あ、お飲みになって!今日は…」


「今日はトワイライトニングでございます。ハニービスケット王女様。」




王女様が向いた方に立っているメイド服に包まれた給仕が高そうな茶葉の入ったメイソンジャーを掲げながら、微笑んで、そう言った。

メイソンジャーには無駄に凝った魔法の刻印。

ゲームならそれだけで容量をキャラ装備並みに持ってくだろ…




「さて、皆様はわたくしに借りができたわけですけども…」




フライドチキンよりもむしろそっちのほうがメインの美味しそうな名前の王女様は澄ましてそう言った。

ナニコレ。



先程、ケントがいきなり「泣いている人の声がする…」とか厨二めいた発言をして

「可哀想に…、転生して病状が悪化したか…」と思いながら仕方なく付いていき、


地下牢とか中世の倫理観とか基本的に理解できない現代人の俺等が一番言ってはいけない所へいってしまい、


挙句その地下牢の見張りの衛兵に見つかりかけた所をこの王女様が注意をそらして逃がしてくれた。


確かに借りはできてしもうたわけなんだが。わけなんだが。





「先程はありがとうございました。まずは許可無く王城内を歩き回ってしまった事についての非礼を謝罪させて頂きたい。」


王女様の言葉にガネリオは社会人らしい誠意ある謝罪の言葉を述べる。


もちろんティーカップにも手を付けれないでいる。


俺は飲むぞ!


茶葉の豊かな香り…ズズッ


うまっ!


あの後…、地下牢から地上に続く階段に着いたあと、俺らは全員彼女の専属のおじいちゃん執事に見つかって、有無を言わせぬままなぜかここ、王女様の私室に連れてこられた。


フカフカの絨毯、エグい程高そうな調度品、三メーターはありそうな仕切り扉の向こう側にはどーせ天蓋のベッドとかがあるんだろ。


城の、普通のマンションにして四階ほどの高さのその部屋の、信号機位ある部屋の扉は半分開け放たれて、夏を感じさせる夜風が入り込む。


「あら、好きなところへ好きな時に、好きな格好で出向くのは全生物に与えられた当然の権利ですわよね?」


「ですわよね」ときたか。


現実世界では絶対に聴くことのなかった語尾ランキング第三位だ。


ちなみに一位は「だってばよ」だと俺は思っている。ロマンが有り余っている。異論は認める。


そしてこのお嬢様、違った、王女様は恐らく可愛い顔をして中々お転婆を極めていやがる…


あれだな、ネジが狂ってる系だ。目がくりくりっとして清楚な感じだが、恐らく「パンがなければお菓子を」タイプに違いない。


と観察していると王女様と目が合って、俺はとっさにそらしてしまった…


…。ほら、初対面の人と目が合うと失礼って言うじゃん?、うん。


言う言う。


「王女様、御立派で理想的権利ですが、あまりおはしゃぎになられますと国王様の頭痛が悪化いたします。」


今俺達四人が座らされている丸テーブルの隣、キャラメル色のティーワゴンの上でお茶を淹れていたさっきの給仕が茶化すような、諌めるような声の調子でそう言った。茶だけに。


部屋の扉の横には、さらに三人のメイド服の給仕が並んでいて、王女様も給仕も皆顔面偏差値がヤバいくらい高い。


「さて、謝罪の言葉よりも皆様から欲しい言葉があるのですけど…」


白々しく伏し目がちに王女様は言った。


「なんでしょうか?」


天王寺がそう言うと王女はもじもじしながら「でも…」というジェスチャーをする。


「助けてもらった礼になるかはわかりませんが、なんでもおっしゃって下さい。」


ガネリオのその言葉を待っていたかのように、王女は顔を上げて全員を見回しながら「なんでも?」と聞いた。


最後に俺の方を見て再び小さな声で「なんでも?」と尋ねる。


目がうるっとしている。まずい。


唇もうるっとしてる。まずい。


肌もなんかもちもちと瑞々しい。まずい。


丸テーブルを囲むように座っているので、隣同士の俺と王女様は自然と距離が近い…。不味すぎる。


「な、なんでも」


しまった!!


これは敵の高等な誘導尋問!!!!


いつの間にか催眠術をかけられていたのか!?!?


「ひと晩中?」


ひ、ひ、ひ、ひと晩中!!????!!!!!!!!!!?


な、なんのことだ!?!?!?!?


敵はこしゃくにも瞳術を使用してこちらを見ている!!!!


しまった!視線誘導ミスディレクション


上目遣いの前かがみだとッ!!!!?????


胸元に自然と目がいってしまうだとッ!!!!!!!!!!!!!!!


「ひと晩中?」


「ひ、ひと晩中…」


まずい!!!これは罠だ!!!!!!


しかし気づいた時には遅かった。


王女はにやりと笑うと両手を挙げて二回パンパンッと打ち鳴らす。


部屋の扉がガチャリと開いて、先程までそこに立っていたはずの給仕が寝間着を持って入ってきた。


寝間着を持って入ってきた?


え?どういう展開?


「今夜はたーっぷり、楽しみましょうね?」


俺とワッキー、それからガネリオはそのまま促されるまま別の部屋に連行され寝間着に着替えさせられ、さっきの部屋に戻される。


部屋の中にはすでに同じ様に寝間着に着替え終わった天王寺と王女様。


そして、部屋の中央に敷きつめられた布団が五枚、と、見たことのある沢山のオモチャ…。


これは…、まさか!!!!!!!!?!?!?!?





       【猛進の僧侶 ガネリオ】




「ウノ!!!!あと一枚!!!」


さっきまでドリルロールのツインテールだったはちみつ色の髪を丁寧にターバンの中にしまい、

さっきからジェンガを1時間ほどやって、

お次にUNOをかれこれ二時間程心置きなく楽しんでいる女王さ…、王女様はそう宣言した。


「あっ、くそ!!!ガネリオ!?ドロツー無い!?このままじゃ連敗なんだけどっ!?」


なんでこいつはこの状況に一切疑問を持たず、楽しくUNOで上がることに没頭できるんだ?


隣で焦った顔をしているのはケント・オルカという男だ。


授業態度も成績もそこそこではあるが、特殊なスキルと豊富な知識でそれを補い、狙撃手スナイパーとしては教官も一目置く存在…。


そんな男がもう深夜すぎのいい時間にさっきからUNOに本気を出している。


ケントには恐らく相手の考えていることを読み取る、或いはそれに近いスキルがある。


俺は彼はそのスキルを周囲に隠しているのだと思っていたが、さっきからそのスキルを使いまくってとにかく上がるのに必死だ…


だが、まぁ勝負事には俺も熱くなるタイプではある。


「悪いが…、リバース三枚でUNOだ。」


残りは俺、ハニービスケット王女、そしてケントの三人…


「あっ!!くそ!!男の友情はどこ言ったんだよっ!」


なんだそれは…。


「あら、じゃあわたくし上がりね!」


「あっ、え、ちょ…」


ケントがうろたえている。


「どうやら数字しか無い上に、色も違うみたいだな。上がり。」


俺は男の友情を踏み台に勝利を掴んだ。


「くっそーー!!!!俺四連敗なんだけどっ!?!?なんでっ!?!?」


「知らんわ!」


天王寺がツッコミをいれる。相変わらず鋭いな。


というか、相手の思考が読めてどうやってこんなに負けることができるんだ?


俺の勘違いだったのだろうか?


「さっ!次は何をやりましょう!!」


王女様はゲームを止める気は一切ないらしい。


普段から聞かん坊なのだろう。扉の側に立っている三人のメイドも呆れた顔でよもや制止する気力すら残っていなさそうだ…


「では、ダウトなどはどうでしょうか?」


「いいですね!やりましょう!トランプを取っていただけるかしら!!」


「もちろんです。」


俺は沢山、アルプス山脈程にも用意されたゲームの中からトランプを取り出し、シャッフルを始める。


「あれ、ガネリオまだカード残ってるぞ」


ケントが箱の中から一枚のトランプを取り出す。


「それはカードを無くした時様のだ、だから何にでも使えるように白紙だろ?」


「あれ?でもこれ絵柄が書いて…ゼロって…、ほら」


0《ぜろ》のトランプ?見たこと無いな…、異世界だからか?


「あら、印刷ミスでしょうか?」


さっきトランプの封を開けたから新品のはずだしな


だが、どうやら異世界でもトランプの絵柄は同じらしい


箱のラベルも確認したが、偽物防止のシールも貼ってはいなかった


「ま、いっか、早くゲームやろーぜ!」


ケントは興味を失くしたのか0《ぜろ》のカードを箱に戻した。


「それと、せっかくですから一位の褒美を決めるというのはどうでしょうか?」


「いいですね!何にしましょうか!褒美の方はなんなりとおっしゃって下さい、我が国のありとあらゆる宝具、食べ物、書物、見つけて差し上げますわ!」


シャッフルをしながら、このありがたい申し出を有効活用する以外無いと俺は感じた。


「では、もし俺が買ったら王女様には正直にいくつかの質問に答えていただきたい。」


「成る程。わたくしにお答えできることであればなんなりとお答えしましょう。ちなみにですけれど、何がお聞きになりたいのですか?」


カードを配りながら俺は天王寺とワッキーに目配せをする。なるべくゲームで助っ人をしてくれというメッセージだ。


ケントは…、


…、


…、


まぁいいだろう。あまり助けになるとは思えない。


「先の地下室で行われていた事について、それからこの国の政治状況についてです。」


「成る程。王女である私の知っているこの国の詳しい内情が聞きたいと。」


王女様は言いながら手札のカードを並べ替え始めた。


「ハートのエース。そうです。俺達が居るここはどういう所なのか、それをまずは知っておきたいのです。」


「スペードの2。それ程隠し立てするような事でも、まして複雑な話でもありませんくてよ。」


「ダイヤの三。きっと王女様なら他国の内政にもお詳しいんでしょうね、私が勝ってもガネリオと同じ条件でお願いします。」


珍しく天王寺が不敵に、好戦的な目をしている。


やはり女同士は譲れない何かがあるのだろうか。


「スペードの四。えーっと、えっと俺は…、何にしよ、いきなり欲しいものとか言われてもなー…」


「ダウト」

 

王女様が自信アリ気に宣言する。ケントは「いきなしっ!?」みたいな顔をして場に出たカードを手元に戻す。


「別に、ものじゃなくてもなんでも良いんですよ?私が勝ったら…なんにしようかなー…?」


寝間着の薄い布、夏の少し汗ばむ夜、王女様は少し体勢を崩しながらケントとワッキーを上目遣いで見る。


どうやら三対二の構図がすでに出来上がってしまったらしい…、ケントもワッキーもさっきから「おっふおっふ」と狼狽している。


同じ男として気持ちは分からなくもないが…


「ハートの目が四個。我々は人間を拷問にかけるような倫理観の王国に仕えているのか、どうか。この辺りはなぜか授業でも公には語られませんでしたから知っておきたいのです。地下牢に居た衛兵もまた貴方には近づいて欲しくなさそうていましたし。」


「クラブの五。そうですね、父は過保護ですから。

わたくしがお城の外に出る事もあまりして欲しくはないようですし、

極力政略戦争にも巻き込みたがりません。」


「ダウト。」


「残念、本当の事ですわ。」


天王寺の手札が増える。


「クラブの六と七。今日の外出はたまたまですか、それとも私達に何か用があったんですか?」


天王寺が少し怒った口調で…、いやゲームに真剣過ぎて低くなった声で尋ねている。


王女は「くすっ」と笑って、メイドに目で合図をして布団の上の彼女のジュースを注ぎ直させ、自分は大きめのマカロンを一つ口に入れる。


成る程。そういうことか。


俺もせっかくなのでマカロンを一つ頂戴することにした。これは…、ずんだか。悪くない。


「ハートの七とクラブの八。ちなみに投獄されていたあの者は【魔人パクリカ・レプリカ】の手下で、この国の第三地区のさらに外、スラム街を根城にしている【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】達が連れてきた魔族の者です。」


その言葉を聞いてケントが少し驚いた表情をしている。


確かケントは捕らえられているのは人間だと言っていた…。


「スペードの九、十、十一!!!!あれは人間の声だったと…」


俺とケントの間に流れる空気感に勘づいたのか王女がもう一つマカロンを口に放り込みながら補足する。


「ダウト。あまりに智能が高い魔族の、特に魔人の中には人間や亜人と全く同じ背格好のものもいますわ。それと、その心の声を聞くスキル、わたくしには使えませんことよ。」


ケントが手札と額の冷や汗を増やす。


「スペードのクイーン。【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】は聞いたことがありますが、【魔人パクリカ・レプリカ】というのは聞いたことがありません。」


「ダウト」


俺の出したカードはスペードのクイーン。王女様は意外な顔をして場のカードを手元に加えた。


「ハートのキング、クラブのエース。父である国王が皆様に討伐をお願いした魔王は正確には魔片王という名前で知られています。その魔片王に仕える三人の直属の幹部の内の一人が【魔人パクリカ・レプリカ】ですわ。」


「ダイヤの二、スペードの三、四。成る程、魔王倒すんやったらそいつを倒すのが一番早い、そういう事ですか?」


 天王寺の手札が再びいい具合に減ってきている。対して王女様はさっきので手札がまだ結構残っている。これなら行けそうだ。


「ダウト。」


ワッキーがダウトをかける。天王寺はにやりと笑って場のカードをワッキーに渡した。


ケント、ワッキーと場にカードを出して、俺のターン。


「クラブの五、六、七。捕らえた魔人に拷問を掛けていることを公には知られてはいけない理由、それはこの国が表面的にはその【魔人パクリカ・レプリカ】と友好関係にあるから…ですか?」


俺のカードが残り一枚になったのを見て全員がダウトをかけるか考えた。


「ダ、ダウトォ!!!!!」


ケントがたまらずに叫んだが、残念、俺のカードはクラブの五、六、七だ。


「くそおおおぉぉぉ!!!!!」とケントの手札は最早無いカードが無いんじゃないかというくらいに増えている。


「ハートの八、スペードの九。そうです。我が国の政治を担う貴族院と亜人院あじんいん、どちらにもパクリカとは直接関係は無いにしろ彼が組織した【幸魔こうまかい】から多額の政治献金を受け取っているのは明白な事実でしょう。十年前、不正献金を国民に公表しようとした母の死がすべてを物語っています。

その日以来、度を越して私を城外へ出したがらない父の態度もまた。」


誰も、ダウトコールをしなかった。


「スペードの十。なんて言っていいんか分からないんですけど、でも、私にできる事があったらなんでも言うてな。」


「お、俺も」


「ワイもや」


天王寺もケントもワッキーも全員心からそう言っているように思える。


それぐらい真剣な眼差しだ。


全員気付いていたからだろう、王女様が世間知らずなのはこの城から滅多に出ることを許されないからだと。


部屋に飾られてある沢山の雄大な景色の絵画、しかし出てはこない旅の土産話。


このくらいの歳で、タピオカもカラオケも知らなければ、まして今晩、鏡台の魔導水晶スマホを一度として気にする様子さえない。


異世界よりきた王室の人間からすれば身元のあやふやな俺たちをわざわざ地下牢の衛兵から逃がし、


あまつさえこの国にはない布団や様々なテーブルゲームを自室に用意して、


王女様がしてみたかったこと。


ただ、同年代の友達と夜ふかしがしたかった…。


ケント、ワッキーと場にカードを出す。


俺は黙って場のカードを全部手札に加える。


どのみち四は持っていない。


「ハートが5つ!!!!あがり!!!!」


王女様が楽しそうに最後のカードを出した。





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