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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 前編
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第十二話 「放課後魔法科学クラブ活動」



 定期試験も無事終わり、【フライドチキン共和王国召喚勇者第八期】の面々は今日も今日とて授業を受けていた。


広聴室の一番前の席に居るのは天王寺由貴、ガネリオのガリ勉真面目組。


その後ろには女子四人組(シーナ、ラジュ、ミア、浜須賀)が固まって座り、


そのすぐ後ろにはウーメル、泰晴、続いてジェシー、カナが座る。


さらに同じ列で少し空いてケント、ワッキー達も居る。


授業を全く聞く気のないジェシーとカナはさっきからおしゃべりを続けている。




「え、セブンイレブンって日本にもあるの?」

「え、セブンイレブンってアメリカにもあるんですかっ?」

「いや、そりゃあるだろ。エーエム・ピーエムかセブンイレブンの大体二択じゃね?」

「えっ!?AMPMもあるんですかっ!?」

「あそこのソーダ美味いよな」

「ウチはセブンイレブンだったら、おにぎりもいいけどブリトーかなーっ!」

「えっ、日本のセブンイレブンっておにぎり売ってんのかよ…ズリー…」

「えっ?おにぎり売ってないんですかっ!?じゃあ逆に何買うんですかっ!?スープ春雨とか?」

「何だそれ?丸ちゃんラーメンならあった気もするけど…」

「あっ、それは世界共通なんだ…」

「えっ、他にアメリカには何があるんですかっ!?」

「いや、今の聞いたら逆にアメリカ何もないだろ…、値段高けぇし…」

「それもどうやら世界共通っぽいですね…」

「「はぁ…」」




二人は揃ってため息をついた。


というのも二人共ここ最近、夜食に【ウーパーイーツ】を頼みすぎて金欠なのだ。


基本学食だけでは足りないジェシーと、デザートなら確かに欲しいっ!と悪ノリしたカナはそうして異世界の美味しそうな食べ物をバカスカバカスカ次から次へと頼み続け一か月でお給金を使い果たしてしまったのである…。




「おいそこ!授業中うるさいぞ!」


「「はぁーい…。」」


「な、なんだその気の抜けた態度は!」




二人の魂の抜けた完璧にハモった返事に教官はオカンムリである。


教官に注意されても二人は「そうは言われましても、ねぇー?」みたいな態度で互いの顔を見合う。




「「はぁーーーー……。」」


「きっ、貴様らさっきから溜息ばっかつきおって…!!!全く―」


「あのー!!!この魔導学の演繹法を用いた効率的な魔工智能の学習システムの具体例をもう少し詳しくお聞きしたいんですけど!!」




助け舟も兼ねて1番前の席に座っていた天王寺が素早く手を上げて質問した。




「よ、よろしい。いい質問だね。実は魔工智能におけるプログラミングでは省略、あるいは短縮詠唱に用いられるような―」




教官は熱心な天王寺の質問に気をよくしながら朗々《ろうろう》と答え始めた。 




「今天王寺何語喋ってた?」


席の後ろの方ではワッキーが余計な事をケントに聞いていた。


「しっ、黙ってろお前!」


天王寺の殺気を察知したケントは慌ててワッキーの口を押さえる。


案の定ケントは【思考無線そーっとリスナー】で天王寺の(後であいつら二人ヤキ入れる…)という声を聴いていた。




キーンコーンカーンコーン、レーラーシーソー




午後の授業が終わるとそれぞれ自由時間。


泰晴とウーメルは王城内の訓練施設で筋トレなり、教官に戦闘訓練を付けてもらうことが多い。


女子四人組はそれぞれ部屋に戻って魔導書を読んで勉強したり、ファッション雑誌をチェックしたり


ワッキー、ケント、カナ、ジェシーの四人は時々全員で遊びに出かけることも多いが、今日はそれぞれ別行動のようである。


天王寺が教室を出ようとした時ガネリオが彼女に声をかけた。




「天王寺、もし今日の授業で分からないところがあるなら良かったら俺にこれから付き合わないか?」


「はっ?」




天王寺からすれば男の人に曲がりなりにも何かに「誘われる」というのは初めての経験だった。


それでもすぐさま何事もなかったかのように天王寺は取り繕いながら「いいけど、具体的になんか案があるの?」と返した。




「うむ。実は俺は放課の時間に週に一度キャモル副団長にレポートを見てもらっていてな、時々は近接戦の手ほどきも受けているんだ。

彼はゴリゴリの理論派だから、天王寺にとっても分かりやすいんじゃないかと思ってな。」


(なるほど…、そういうことなら、確かに今日は特に予定もない。)




二人は並んでキャモル副団長の待つ、広聴室とは別の部屋へ向かった。







王城四階、偉っそうな備品が置かれた副団長室―


コンコン


「失礼します。」


「おう、入れ」


「「失礼します。」」



キャモル副団長は窓から差し込む夕日を背中に乗せて、執務室のようなその部屋でテーブルの上の書類に目を通していた。



「なんだ、ここはデートスポットじゃないぞ?」



(!?)一瞬たじろぐ天王寺。



「はは、キャモル副団長もそういうジョークを言うんですね。実はこれまでの授業で未だ釈然としない部分がありまして、どうやら天王寺も同じ様な悩みを抱えていると思ったので一緒に誘ったのです。」



ガネリオは飄々と答えた。



「なるほど。まぁ、お前たちの元いた世界とは根本的な概念、世界の成り立ちそのものが少し違うからな、違和感を覚えるのも無理はない。

具体的にはどういった部分が分からないんだ?」



キャモル副団長は察しよくガネリオに話を続けるよう促す。



「はい。実は今日の授業で魔工智能についての具体的な使用例がいくつかでたのですが、その中で―」



ガネリオは順序立てて自分の理解の及ばない点、元いた世界とこの異世界の相違点をつらつらと訪ねる。


彼の言葉は自分の中にあった言語化できてない部分を明瞭化してくれていると天王寺は感じた。



「なるほどな。まぁ、物理法則に始まり言語体系、信仰まで、根本をたどれば近しい部分があれど、幹は地を介して二つに分かれているようなものだ。その枝、葉、成る実もまた角度を変えればちがうものと捉えることが出来るというのを理解しておくのは大前提だろう。その上でメタ的な解釈を通じて本質を見ていかなくてはならないのは俺達も同じだ。」



キャモル副団長のなんだか哲学的な話に天王寺は若干戸惑う。それを察してかキャモル副団長は天王寺の方を見て言った。



「この世界はどうだ?馴染めそうか?」



直球の質問に天王寺は少し面食らったが、これまでの日々を思い出しながら前向きに答えた。



「はい、学校の勉強を科目ごとやなくて、より実用的、実践的な分類で学んでいくっていう発想は私には元々なかったので驚いてますけど、楽しいです。」



天王寺にとってはこの答えは自分でも予想外だった。



(杖を振れば火が飛び出すなんてのはアニメの世界の話で、ジェーコムの中だけだと思ってた…

けどこの世界はそれを理論、体系化し、具現化する際の細かな所まで詰めていこうとしてる…。でもなんで?)



天王寺の疑問は最ものかもしれない。


もちろんその魔法に対する代償が大きいというのが主な理由だ。


具体的に言えば計算量が半端じゃない。天王寺が知っている数学や物理の知識はもはや当たり前のものとしてこの世界の魔法式を解くのに必要なのだ。


簡単に言ってしまえば火の球を飛ばすのに熱量保存法則、流体力学、エネルギー論を使い必要魔力を計測し、


そこからさらに射出時の計算には高校物理の応用とも言える重力加速度、空気抵抗、空間分の魔素、魔粒子の密度まで細かく計算しなくてはならない。


勉強が元々好きな天王寺やガネリオはむしろ新たな限界への挑戦としてこれを楽しんでいるが、筆者、学生読者諸君は勿論のこと、ジェシーやカナ達からすれば甚だ御免こうむる話だ。


後「天王寺はテンパるとなまりが強くなる癖があるな…」というのをこの時ガネリオは確信していた。



「そうか。まぁ、フライドチキン共和王国もついに魔工智能の投資、研究開発を本腰を入れてやる事に決めた。細かい部分よりもまずは大まかな流れを理解しておくことのほうが重要かもしれんな。」



キャモル副団長はそう言うと「他に何か質問はあるか?」と二人に尋ねた。


ガネリオはこれからさらに僧侶の魔法メインの戦闘訓練を付けてほしいと頼んだがこれは今日はこれから騎士団会議があるとの事で断られ、二人は副団長室を後にした。







二人はせっかくだからこのまま王城内の図書室へ向かうことにした―




「それにしてもやっぱりキャメル副団長は賢いんやな。なんか私らが元いた世界のことをもはや知ってるみたいな話しぶりやったけど…」




天王寺は上目遣いでガネリオに聞いた。黒髪のおかっぱメガネの下でやはり新雪のような真白な肌がもっちりしている。


もちろん本人はあざとさを強調したい訳では無い、ガネリオの背丈は180ちょいあるので自然とそうなってしまうのだ。


ガネリオは藍色と卵殻色の僧侶服のネクタイを正しながら嬉しそうに答えた。




「キャモル副団長は凄いお人だ。恐らく元の世界であれば悠々と博士号、教授の役を担っていただろう。これまでの転生者の話から俺達の元の世界についても深く知っている。だからこそ説明も分かりやすい。」




(ガネリオは少し傾倒しすぎてるような気もするんだけど…)




苦笑気味の天王寺はそれでも「確かに説明は上手やったな」と返した。


気がつくと二人は王城の図書室に着いていた。


そこには王立図書館や、私市わたくしいちえいの図書館ではお目にかかれない魔導書を閲覧することが出来る。


特にこの世界では転生者の事についてはまだまだ知られておらず、それらに関する文献等はここくらいにしかない。


他のメンバー、特にバカ四銃士と呼ばれているワッキー、ケント、カナ、ジェシーは分からないが、少なくともガネリオや天王寺はこの世界と元いた世界の繋がり、あるいは行き来する方法がもしあれば知っておくべきだと考えていた。


異世界に来て、中世も良いところの文明レベルに驚いて感覚が麻痺し、全員目の前の訓練に追われているが、そもそもまずはこの状況を把握しなければと考えるのは二人にとっては自然なことであった。


その一方で、転生者はあくまで全員転生者、()()()()()()()


つまり全員元の世界で一度死んでいるという事実が、その自然な疑問を追求する気力を奪っていることもまた確かであった。


それでも二人はまずこの国の地理地形、この世界に住む人々が信じている宗教的、或いは一定の科学的根拠に基づく世界の成り立ち等を調べていく。




「この異世界には超三大陸、アイサ大陸、エポルエ大陸、アシレマ大陸があり、アシレマ大陸は五十の王国と周辺の二十の小国で出来ており…」




天王寺は既視感きしかんを禁じ得ない地形図に戸惑いながらもどんどんページをめくっていく。




「あれ、ガネリオに天王寺!」




二人に声をかけたのは王城の図書室にケント一緒に来ていたワッキーだ。




「あれ、バカ二人がこんなところに何の用?」


「いや、天王寺さん酷くないっ!?俺等これでも一応本の虫なんだがっ!?天王寺こそ放課後も勉強クラブとは相変わらずのガリ勉…―」


「そういえば今日授業中私の質問になんか言いたげな様子だったけど、今話聞こか?」




間髪入れずにワッキーの腕を逆十字に固める天王寺




「痛だっ!!痛ぃっ!!嘘嘘、嘘です冗談です!」


「ガネリオは何調べてるの?」




もはや慣れた光景にツッコミをいれるのも忘れケントは同じく図書室の閲覧台でディアゴスティーニよりさらに二周りは大きそうな魔導書を開いているガネリオに話しかけた。




「ん、あぁ。これは…この世界のいわば化学ばけがくの本だろうな。」


「へー、何が書いてあんの?」




ケントはなんとはなしに覗き込む。




「主に火属性魔法とそれ対抗する魔法式だな。」


「へー、例えばどんなのがあんの?面白い?」




何気なく聞いたケントは尋ねてからしまったと気づいた。




「あぁ。俺達の元いた世界とは可燃性そのものに対する概念が違う部分が面白いな。いや根本は同じだが、これらはより実用的な…」


「わ、わかったから…、もうちょい分かりやすい具体例とかー…」


「ふむ。そうだな、例えば前の世界では1平方メートル辺りの火に対して、鎮火に必要な水の量は0.5平方メートル弱だな?」


(う、うん…多分…)


知らねぇよとツッコみたいワッキー


「学校の机を八個正方形になるよう並べたとして、これが火の大きさやったら、必要な水の量は机一個分てこと。」


すかさずフォローを入れる天王寺。ケントは平方メートルを理解してないだろうという天王寺の予想は図星であった。


「おけおけ」


「そして消火器に使われる中身には強化剤というものがある。これはエステルの加水分解を狙ったものなのだが…」


「わかった、わかったよ!それで!それが魔法式とどう関係あるの!?」


ケントがこれ以上話がややこしくなる前に要点を聞き出そうとする。




「まぁ、そうせかすな。


【ミノタウロス】の闇属性の炎、これは一度燃え始めると消すことはなかなか難しいらしい。

理由を読み上げるぞ。


【異世界における流儀 火属性魔法編】


これは【ミノタウロス】が炎を体内で生成する仕組みにある。

【ミノタウロス】の魔牛脂は可燃性が高く、仮に【大喧化おおげんか反応】を期待して水属性魔法による消火を試みても、逆に【エーステル化】が起こるからである。

その理由としては闇属性魔法は【魔法壁】に近い【遮断】という性質を持つことが多く、

さらに周囲の魔素を中心に木属性魔法を強制的に作用させるというもう一つの性質が作用するからである。

ご存知の通りこの時点でエーテルを媒体にさらに光属性魔法が新たに発動する事で、周囲に無条件で【加速】を付与させるという点も厄介な点である為、冒険者はこの事をよく留意しておかなくてはならない。


また報告例が少ない為、理論の成立には至っていないものの、

この世界に存在する【不死鳥フェニックス】が操る神属性の焔は水属性が付与され、こちらは永久に消えることがないとされている。

理由としては先の【ミノタウロス】のような下位モンスターでは働きの弱い【デッドエンドロピー保存の法則】が働く為と考えられる。

(※このデッドエントロピー保存の法則については〚マウスズース・ファラデウェルスの神魔編〛で後述。)

また最近の流行として〚ウルトラスーパーストリングセオリー〛を仮定してみても、神属性魔法の火属性、水属性はそれぞれ【不死鳥フェニックス】と【巨大海竜リヴァイアサン】に由来する特殊な魔素・魔粒子が触媒になる為、例えば【エステール化】と【大喧化おおげんか反応】が同時に起こるといった現象もまた理論づける事ができるだろう。


だそうだ。」


「…。」




目が点のワッキー。




「…、つ、つまり?俺等の言語で解説オナシャス。」




ケントも目を点にさせながら聞く。




「恐らくは…、だが、このエーステル方式というのは恐らくエーテルとエステルを扱う方式のようだな…

この世界ではエーテルが存在するのか…?

だが恐らくはエステル化とけん化反応のことを言ってるこの二つが同時に起こるなど、無茶苦茶だな…。」



(俺等の言語じゃねぇ……。あっ、でもエーテルは知ってる単語だなー)と思いつつも口には出さないケント。



「さらに相対性理論における観測者の影響が観測対象へも直接影響するという点、物理における不可逆性に対する冒涜だ。」



(あっ、「不可逆性」は俺もなんか知ってる)と思いつつも口には出さないワッキー。



「「天王寺さん、翻訳オナシャス」」




白旗を上げたワッキーとケント。




「つまり、ミノタウロスの使う火属性魔法に無闇矢鱈に水属性魔法を使っても効果は薄いし、

神、光属性で炎のエフェクトがつくなら水属性も付与されてるってこと!」




天王寺がフォローを入れる。




「な、なるほど…、それは確かに特定モンスターには属性ダメージ倍で強そう…」


「た、確かに」




納得したケントとワッキーに今度はガネリオが「なんで今の天王寺の説明で理解できるんだ?」と首を傾げる番であった。

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