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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 前編
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第十話 【猛進の僧侶 ガネリオ】


俺の名はガネリオ。

早速だが一つ小噺をさせてもらいたい。

これは一定の人間には共感される話だと思っている。


今朝の事だ。

俺は朝起きて顔を洗って、歯磨きを済ませ、コーヒー用にお湯を沸かす。

コポトポと豆を挽いて既にセットしてあるビーカーにお湯を注ぐ。

朝はバナナとトーストかクッキー、これは新聞を読むのにどうしても糖分を摂っておいたほうが効率が良いからに過ぎず、決して自身の食の趣向を加えた献立ではない。


そして俺はコンドーの自室のベランダデッキで新聞を広げる。

生前は都内32階建てのマンションに住んでいた俺のその28階の部屋のベランダが俺の定位置となっていたが。っとこれは自慢が過ぎたな失敬失敬。


このフライドチキン共和王国とかいうふざけた名前の異世界の王国には城のいくつかと大聖堂以外に目立って大きな建物はない。

なーろっぱ等とケントやワッキーがはしゃいでいたが、確かに異国情緒、それも西ヨーロッパ中世期の全体的な外観は否めない。

その王国に呼ばれた俺達には昭和の旧校舎もいいところな寮が貸し与えられ、そこで生活している。

まぁ、太宰や三島由紀夫なんかの大先生の時代の生活ぶりをより深く知るためには悪い経験だとは思っていないが…。


ちなみに調べたところによると他の国ではもう少し機械的技術を取り入れた建物や生活水準が確立されているらしい。

そのうち行ってみたいものだが、別に現状スマホもテレビも(それは時空間と電気の魔法で動いているらしいが)あるので今は考えないことにしている。


寮は三階建てで、一階の端にある食堂にはテラスがある。

が俺はそこはあえて利用せず自室のある三階の共同作業部屋、家庭科室のようなところを主に使って朝の時間を過ごす。

今こうしているみたいにな。


新聞は魔法烏まほーどりと呼ばれる種族が配達している。

一度明け方、薄明の中を黒と青の麻布のショルダーバッグを提げ、同じ真っ黒な翼のそれが空を飛び回りながら何匹も新聞を配達しているさまを見た時は少し感動を禁じ得なかったことを認めよう。

ちなみに彼らは「まほー、まほー」と夕方に鳴くらしい。

全く人をバカにしている。何せ俺は唯物論者で、現実主義者だからな。

異世界人になった今でもだ。



さて、新聞の見出しは…


【フライドチキン共和王国財務大臣、新興宗教ダイマから不正献金か!!??】


【今話題のイケメン異世界心理カウンセラー〚単独インタビュー!!〛】


【ネオ盆栽〚大特集増量8P!!〛新流行型は‘’捻りのドライアド‘’か‘’彫りのオークツリー‘’か!!!】


【サイア製鉄、アシルェマ製鉄スチールを見事買収なるか!?異世界政経電雷元専務の暴露!!!】



異世界すぎてさっぱりわからんな…



 さて本題に入ろう。俺は綺麗好きで、基本トイレットペーパーはきちんと三角に折れていなければ落ち着かない派の人間だが、この派閥の人間には共通の悩みがある。

それは、大の時トイレットペーパーを一度千切って使用したあと、次のトイレットペーパー切りづらくね?って話だ。

え、なんで?と思ったそこの君は是非とも俺の部屋には立ち入らないでほしい、どうせ風呂場のシャンプーとリンスのボトルの底がヌメヌメしていることだろう。


一応そんな汚部屋で暮らしている衛生観念のえの字もない君にも理由を説明しておくと、一度排泄物を拭き取った手でトイレットペーパーを押さえている上の蓋さわれなくね?と言うことだ。

なんならその後手を洗うまでに蛇口の取っ手に触るのも躊躇われる。


そこで俺は画期的な解決策を考えついたのだ。

それはたった今その大を捻り出している最中に既に拭く用の紙を切って折りたたんで太ももの上にでも置いておくという技。

どうだ?素晴らしいだろう?

そう泰晴に一度話をしたら「糞みてぇな話だな。」と一言で片付けられてしまった。


 さて話にウンではなくオチがついたところで、次にこの泰晴という男の話をしよう。

この男は中々怜悧利発的で、成績は常に一番、見た目や話す素振りから恐らくまだ高校生位だと断定できるが俺はこいつに一度も学科も実技においても成績で勝ったことがない。

俺は自慢ではないが中高大と割と真面目に勉強したほうで、おまけにラクロスに関しては大学卒業後社会人になっても続けていたから体力にも自信がある。

おっと、この異世界での授業に関して一体どういうものなのか説明をしておかなければ彼の凄さが伝わりにくいかもしれないな。


 王国での約二ヶ月にわたる合宿を経た俺の見立てによるとまずこの世界で中心となるのは魔力の顕現と、それに伴う技術的側面の向上だ。

例えば火炎属性を持つ『インフェルノ』というライブステージの火柱を自由に振り回すことのできる中距離型魔法を使おうとする。

この際、その炎は流動体なのだから当然速度、密度、応力、流体に対する加速度、圧力、粘性率なんかを考えねばならないだろう。

そこを綿密にすることは無駄な魔力の消費を減らすことに繋がり、それに準じてより効率的な戦いもできるようになる。

無駄な魔力支出はそこまで魔力総量の多くない俺にとっては致命的になりかねないからだ。

王国に仕えるいわゆる宮廷魔術師もこの辺をより感覚的、宇宙的に観測、研究しているのだが、当然こんな計算式を一々「火属性魔法『インフェルノ』!!」とか言いながら魔法陣に書き込むほど皆、俺含め野暮ではない。


が、しかし解らなければ使えないし、例え使えてもいざという時に誤作動が発動して味方をバーベキューにしてみましたなんて話になっては困る訳だ。


よって俺は今日も異世界ニュートン流体のクラスを取っている訳だが、どうも泰晴や他の面々は少し話が違うらしい。(俺が希望している職種は僧侶で、これは当然の事ながら中後衛に当たる。戦闘時にも比較的時間をかけた魔法が使えることが多いため授業もそのカリキュラムに沿って構成されている。)

奴らはノリでその細かい部分まで微調整を効かせて魔法を扱うことができる。


俺は生前、いや今もゴリゴリの理系で理論派の為、頭で論理的に理解できなければ魔法が上手く発動しないのだろう。(と教官に説明された)

年齢や世代のせいだろうか?

いや、泰晴の強さについては俺達同期のみならず、王国関連の人たちでさえも舌を巻くほどだ。

先の『インフェルノ』という中級火属性魔法、習得できたのは俺、ウーメル、泰晴、浜須賀の四名だけだった。

俺は四人の中で一番魔法の発動時間が長かったが、泰晴はその炎を見事に大きな鳥の形にまで変えてしまった。

王国中でもそんな事が出来るのはほんの僅かな限られた連中のみだという。

よくよく聞いてみると彼は砂属性の魔法に適性があるらしく、空中に撒いたマグネシウムに限りなく近い物質を任意の形に操ることでその炎の鳥を出現させたらしいが当の本人はそんなこと全くわかっていない。

あげく、「炎ってやっぱ龍じゃね?今回鳥になっちゃったけどさ」だそうだ。

会話がハイレベルすぎる。

これについて俺は今日レポートを書くつもりでいる。

懇意にしている王国専任魔術指導士キャメル副団長、彼もまた根っからの理論派な為、俺はよくレポートを見てもらっている。

彼は俺の知識の至らぬところを埋めてくれる。

異世界における言語や感覚は違えど、‘’分かりあう‘’という点においてはそれは障害にはならない。

彼も俺と同じくキッチンに使用済みコップが2個以上置かれていると気になって洗ってしまう派だそうだ。


そういえば、かつて一度ハナビエ・ストッキングス方程式について熱く食堂で語ったところ同期一同には「はぁ?」みたいな顔をされた。

「異世界で学んだ理論をいきなり話すなよ変態エリート」とさえ言われたが、いや現実世界でも常識だろう。

唯一カナだけは楽しそうに話を聞いていたが「あれだよね、ニュートンって地球はそれでも廻ってるの人だよね、ウチも知ってる!」と最後にご教授頂いた始末だ。それはガリレオだ。


 さて、やはり話にりんごのようにオチがついたところでそろそろ授業に向かうとしよう。

この前の定期試験以降、キャメル副団長の授業は過酷を極めている、俺もそれに応えなければならない。


なにより、これを読んでる読者の諸君も高校物理がまさか戦闘用ロボットの右手に取り付けられた機関双銃の射出軌道にまで応用されていたり、神・光属性魔法がこの世界で量子揺らぎの理論確立に用いられようとしているなどといった話は聞きたくないだろうからな。





















魔法弾:この異世界における最も基本的な攻撃手段で、一般的に3Dプリンターガン位の威力が出る。属性付与可。

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