第二十九話 「見おろし給え」
「congratulations!!ã€
「look, down.... you are very allowed to do so.. boys♧
君達のお陰で丁度ショーがクライマックスを迎えたよ、見おろし給え。」
翔也達が使った出口の先はビルの屋上に通じていた。そこからはモモノタレ街が見下ろせる。その奥ではキャラメル街と、もう一つ北レグナソル市街が山火事の物凄い勢いで燃えているのが見える。
翔也達を祝福するその魔人は、紫の幔幕を被せた大きなソファーにでっぷりとした腹を惜しげもなく夜風吹く空にボヨンボヨンさせて、形良く左手に持たせたワイングラスを揺らしながら横になっている。
「まさか…」
【魔人パクリカ・レプリカ】の言葉に蓮大は目を見開いた。嫌な予感と脂汗、夜風にさらされたそれらは冷えて心を蝕む。
「察しの良い部下がいらっしゃるのですね、さすがパクリカ様。」
ふんっと、偉そうに鼻を鳴らすでっぷりとした様子の【魔人パクリカ・レプリカ】の隣には長いヒゲをねじりながらご満悦の表情でもう一人。
状況を上手く飲み込めない翔也でさえ彼ら二人の魔人の雰囲気に得も言えぬ恐怖を覚える。
「君達がさっき居たゲーム会場は試験用の転送魔法陣であの大火事の中からここに移したんだよ。」
ヒゲの魔人が言った。チート能力、【エンドレスデスゲーム】の使い手だ。
「city lights, your fire, how many times Dante want us to see.....
ゲームマスターの能力のおかげであの火はよく燃えているね、火樹銀花…だっけ?」
ワインを一掬い、唇に含ませ【魔人パクリカ・レプリカ】も相槌を打つかのように会話を拾った。
「さて、一人何のことかわかっていないそこの転移者の彼に種明かしでもしましょうか?」
ヒゲの魔人がこれから言うことをすでに蓮大はわかっていた。魔人に力を与えられたゲームマスター三人の能力…
最初の女は対象を蓮大を簡単に拉致できる程の状態異常にさせる能力、二人目の男は恐らくあの火事を引き起こした火を操る能力、そして三人目のガスを使う能力…
それぞれの順で使えば街の防衛、消火に当たるはずの人間を動けない状態異常【昏睡】にし、街の燃え移りやすい木造建築の集合住宅に火をつけ、魔法都市ガスを街に充満させて火の勢いを爆発的に強くする事が出来る。
その結果的惨状が、眼下の景色。
「それにしてもー、さっきのスピーチは見事でした…。
『他人の生命を踏みにじって生きるような人間にはなりたない…』逆はどうなんでしょう?」
ヒゲの魔人は楽しそうに言った。
能力はゲーム参加者の生き残りに付与される、つまりこの数十万人規模の大虐殺を止めたければ…
「君達の全滅が最適解だったね、勇者♧」
ビルの屋上風は強く服をバタバタといわせ、そんな最中、オーディオルームでクラシックのレコードを掛けたときのような【魔人パクリカ・レプリカ】の声が響く。
「well, take care the rest. urania...俺はそろそろ御暇するとしよう。」
巨大なビルの摩天楼に【魔人パクリカ・レプリカ】のその巨体は、プールにでも飛び込むかのように吸い込まれる。ビルの壁一面にパクリカのその姿が映り、子供が道端で手を離した赤い風船のように彼は再び闇へと消えた。
「蓮大さん…、とにかくゲームお疲れ様でした。こちらの方はどうするおつもりですか?」
蓮大は翔也の方を向いた。
ヒゲの魔人が言いたいこともまた明白だ。異世界転生者、それはつまり『魔片』に最も適した材料であるという事。
「なんだよ、言いたいことあるなら言えよ」
翔也の目には『何でお前コイツラなんかと付き合ってるん?』という否定的な気持ちが籠もっているように見えた。
以前部活を辞めて、地元の友達とつるみだした頃、コンビニ前でたむろっている時にそんな目を向けられたことが蓮大には忘れられなかった。
自分は部活動で汗水垂らして練習終えて、その間自分はそのチャラチャラした奴等と煙草吸って、自分はすっかり世界のヒーローかなんかですか?そんな目だと感じた。
「別に特になんもないわ。ただ、なんでこんな状況にこいつあっさりついていけてんねん…」そう翔也が言い終わる前に蓮大は目の前の自分の影を否定しなければならなかった。
「無いなら結構!!」
くっそ…、コイツ本気で蹴りよった…
「なんだ、お前魔法もろくに使えないのか?」
だから魔法ってなんやねん…、そんなもん…
「まぁそれでも良い、一生そのままそうやってろよ!!
お前そうやって俺も何もかも舐めてただろ?だから今お前は俺にボコられてんだよっ!!
偽善者ヅラしやがって、結局あのゲームマスター共を殺してりゃ山火事で大勢の人が死ぬこともなかったのになぁ!!」
くっそ…、なんの話やねん…。それにしてもこいつ容赦無…あかん意識が…
瞑るまぶたの抵抗が、悠然と立ち去るかつての同級生の高そうな革靴の踵を霞めさせていった。




