第二十二話 チートスキル【デスゲーム】
【新たな関西弁の勇者 辰川翔也】
「おはよう…」
good morning the world class hero. how's the feeling?
the guy said with very clear tones and accents.
so as you know through profiling us, we are very alike but...
「うん、それでね少しゲームをしようと思うんだけど、どう?
意識はもうはっきりしてきた?」
「……、うっ…っと…」
「少し魔法が効きすぎたかな?」
まだ意識はハッキリしn…、とりあえず辺りの状況を探る。ここどこ?
異世界に居る夢を確か見てたんやったっけ…
日か当たってへん…、地下室…?
「おい、余計なこと言ってないで早く始めろ」
最初の声とは別の、男の一人が苛立った様子でそう言った。
「わかってるよ、うるさいなー。で…、なんだっけ?」
「おい!」
「わーかった、わかったよ!てかわかってるでしょ!?順番が大事なんだって!!!」
ぼやけたままの視界…、お腹がくっそ痛い…、何日もご飯食べてないみたいな…
さっきから喋りかけてくる女は少し苛立たしげに急かす男の方を見ている。
「あ、意識も少しは戻ってきたかな…?」
女に最大限注意を払いつつ、出来うる限り現状を整理し情報を集める。
出入り口、自分の状態、これまでの経緯…、5メートル先に分厚いガラスの壁、その奥におる人達は…
「屠殺所定番、豚も真っ二つの巨大チェーンソー、で、これスイッチ、ポチッ!!」
ギュルギュルギュルギュル…、すりガラスの向こう、両手をフックにくくりつけられた男女数名…
左端の人がナニカ叫んでる…、なんであんな一生懸命に叫んで…、…、……、いやあかんやろ!!!死ぬやんっ!!お前何してっ…
「アイツ、あの男はクズ。死んで当然のクズ。けど、救いたかったら、そこにある銃で私を撃ち殺しなさい。」
意識がはっきりしてきた。昔の剥き出しのストーブの薄暗いオレンジに照らされたタイル貼りの密室、足元に転がる本物らしき銃、目の前の見知らぬ女。もう一人誰か居た気がしたが、今は部屋には彼女しか居ない。
「早く決めないと、今回全員死ぬらしいわよ。」
冷たい女の口調、焦っているようにも見える。そもそもここ寒すぎへん…、東北の冬の夜みたいに…
こいつを撃って殺したら、あのチェーンソーは止まるのか、あの感じだともうすぐに男の鼻の先が真っ二つに割れる。
その後ろにざっと10人は最初の男と同じ様に吊るされている。なんで俺こんな事に巻き込まれて…、
分厚いすりガラスの端、5メートル先に黄色と黒で囲われた赤い停止ボタンが見える。あれが何かになるんだろうか…
プシュー…
かじかむ手足で辿り着いたボタンが機械に一瞬停止を命じた。
何したらこんな事になるん?
視線の怪しげな目の前の女を見る。
正直状況の説明が欲しい。
女の方が今銃の近くにいるということが少し拍動を早めてて、さっきの停止ボタンで一緒に作動した大きな電光表示板のカウントダウン10分の音がドップラー効果でも起こしたみたいに歪んでたわんでいく。09:58
「早く殺しなさい。私はもう何人も人を殺した殺人鬼なのよ。」
いきなり何を言うてんねやろうか。
荒れた肌、ボサボサの髪の毛、異様に細い引っ掻き傷の血の跡がついた手足を放り投げ、押せば吹き飛びそうな裸の女は壁にもたれ掛かって言った。
その隣の四十インチ魔導水晶から粗い映像と音声が流れてくる。映し出されている場所はこの部屋か?
そこに別の参加者と目の前の女がいる。録画されたもの?
「でも時間は余り無いから君の耐性を鑑みてルール説明を始めちゃおうかな。
ご存知の通り私達は皆、皆ってとりあえず今ここにいるのは三人なんだけど、君と同じ様に女神にチート能力を与えられてこの異世界に転生してきた…
でね、まぁ最初は心を入れ替えて真っ当に人々の為に生きようかーとか私なんかは思ってた口で、あ、そこにいる新田君とかね。
残りの二人は現実世界があんまり上手くいかなくてちょっとキモいぐらいに世間を恨んでるんだけどさ…」
「あ、そうそう、私達のチート能力って結構渋めでさ…、いわゆるハズレってやつ?
まぁ普通にスローライフ冒険者とかやってくくらいなら問題はないんだけど、とにかく使い勝手悪くて、でまぁ成り行き上この三人でつるむことが多いんだけどねー…」
「で、まぁそれで今回勇者様としたいゲームがあって、って言っても別に私達が凄く有利!とかってわけでもないから、そんなイカサマ疑わないで、できれば私達の目線に立って楽しんでほしいかなーって思ってるんだけど…」
「じゃあさっそくゲームの概要説明ね!
私達がいわゆる親役に当たる。で、まぁきっと勇者様はこんなゲーム初めてだろうし…、公平にゲームをやりたいからあえて先にアドバイスを送るなら私達の目線に立って楽しんでほしーかなーって…
でね、あそこに10人、私達が調べて出てきたでかい蛆虫。
首にフックをかけて吊るしてあるの見える?えっ?鬱血とかはする?あ、どうなの?そう。で…」
「ルールは簡単、この私設の何処かにいる私を見つけて撃ち殺すこと、せいぜい頑張ってー!」
「アハハハは、ザマァ!皆真っ二つで死んでやんの!!!時間内に隠し部屋にいる私見つけんのなんか無理だっつーの!!ぶぁか!!!」
「死ね死ね死ね!!!!!!クズは皆死んでくださいどうぞー!!!!!」
目の前にいる女のこれまでの切り抜き映像かなんかは、そこで途切れ、画面は真っ暗になった。
やりたい放題異世界でやってたんやな…
「別に異世界来てんだからこれくらいいいでしょ」
女は調子良く鼻で笑うように言った。自虐的な仕草が痛々しい。
オレンジの光に女は何もかも諦めたかのように目を瞑っている。手の中にある暗闇で色の分からない封筒に黒い手形が引きずったようになすりつけられていた。




