第二十一話 自分は何者?
【新たな関西弁の勇者 辰川翔也】
☆これまで☆
・全くもって進捗の無い翔也の魔法特訓をそこそこに切り上げ向かう貴族の邸宅
・現れたのはボケたジジイ二人、これで伯爵というから困る
・案内された部屋で紅茶を頂きながら雑談中
「いやー、たまには散歩なんてのもいいもんだな!」
普通人を迎えに来る時に二人で二人乗りのオープンカー満席にしては来ぉへんけどな
「セルジオさんのお屋敷は広いから大変でしたよハハハ」
セガラはんは褒めつつ、嫌味を言いつつ、ほんまに上手いなそういうとこ。
「あ、これヂェムちゃんというエルフから預かったお菓子です。つまらないものらしいですがどうぞ。」
「おぉ、気が利くな!わざわざ良かったんだが…、おっ『天疋屋』じゃないか!
恥ずかしいが、この年になっても甘いものに目がなくてな、後でゆっくり…」
「…グイッ、今食べましょう、紅茶にもきっと合うかと…」
「いやいや、せっかくのご厚意だ。後で一人でゆっくり食べさせていただくよグイッ」
厨二少女は食い意地が張ってるのかなんなのか、差し出した菓子折りを離そうとしない。
なんなんこのアホなやり取り。
「失礼します。本日のお茶菓子の方お持ちいたしました。」
執事さんの配膳により、大手土産争奪戦争は一時休戦となった。
「それで、今回はどんな厄介事だセガラ。久々に顔を見せたのは何も昔話のためだけではあるまい。」
「話が早いなセルジオさんは。その事なんだけど…」
ここでセガラはんは何やら目配せをする。内密に話したいことでもあるんやろか。
「そうだ、今はうちの庭園のバラが早咲きしてね、ロッドに案内してもらうといい!女の子は花が好きだろう?」
わかりやすくお払い箱にされ、俺と厨二病少女はご自慢の薔薇園に向かった。
「あの辺が確かロックローズとかなんとか、あれがグレイシアブルーなんとか、だ。」
そう言って案内役を仰せつかったロッドという男は早々に煙草に火をつけ、椅子に座り、持ってきた瓶酒を煽り始めた。
いや、一応客人ちゃうんか俺等…
「薔薇とか…、好きなん?」
「…。」
あんまりに気まずいんで隣にいる厨二病に話を振ってみるも返事なし。
こういうのほんまどうしてええかわからんから困るわ…。
「好きな花とかないん?思い出の花とか…」
「…。」
あかん、死ねるこの空気。思い出の花はやりすぎたか?確かこういうときは当たり障りのない軽目の話題から入っ…
「実は…、ここに来るまでの記憶がないのです。」
いきなりヘビーなんぶち込んでくるやん
「小さい頃の兄や母と遊んだ記憶や、思い出したくもない黒歴史は山程あるのですが…」
まだヘビー級のフック決めてくる?
「私は何者なんでしょう…」
カンカンカーン、ノックアウト!!!
こんな問いに答え出せるやつは最強!!世界王者バンダム級!!
言うてる場合ちゃうわ…、え、でもなんて返せばいいん?記憶障害ってことやろ?健忘症?あかん知識がなさすぎる…、というよりその質問には知識があっても答えられる気がせんな。俺等ってなんなん?
あまりにも気まずい沈黙が流れる中、タイミングよくセガラと何とか伯爵が屋敷からセグウェイに乗って悠々と現れた。外の砂利道でも使えるのは便利やな。
「おまたせー!」
「いや、お待たせして申し訳ない。それにしてもどうですか、うちのバラは綺麗でしょう?
あっちに咲いているのはうちのひいひいひいじいさんの頃から大事に育てている薔薇でして、品種改良を加える前にすでに蒼い蕾を付けていたことから吉報の訪れ等と花言葉がついたりもしてましてな…」
「あ、はい。とても良い香りがします。」
素朴な答えやな。俺も花のことなんか分からんで。
その後皆で夕飯のデザートを買いに出かける事になった。正確には俺、セガラはん、ロッド卿の煙草が切れたので買い足しに行くのが主な目的だったが、まぁそんなことはどうでもいい。
ガレージには高そうな外車がタイヤを水平にしてずらりと並んでいた。
さっきの地面からちょっと浮くセグウェイにしろ、この車にしろ、なんなん異世界人は地面からどうしても浮きたいん?
外車があれだけあるのに街へは馬車で向かうらしい。貴族は風情になんだと大変やな。内装は金持ちのババアが好きそうなグネグネ花に蔦がびっしりと描かれて、金のランプに漆塗りの机といちいちやかましい。
使用人の一人がハンドルを握り、後ろの馬車籠でダラダラ世間話を聞いていたらあっという間に街へ着いた。
仰々しく扉が開けられ、俺はそそくさとその居心地の悪い馬車を降りる。
セガラはんはお留守番、俺とロッド卿が彼の行きつけのタバコ屋に行く間、厨二病と伯爵はケーキなんかを買いに行くらしい。
よもやこんな平和な昼下がりのおやつ時に誘拐事件なんて予想、誰がする?
異世界治安悪すぎやろ




