第十九話 セガラの日記
【白衣を着た人狼 セガラの日記】
早春月 五日
春待ち遠しく、少し肌寒い日が続いている。
久しぶりにかつてお世話になっていたフィラデミルフィア教会に帰ろうという話をヂェムとヤックと三人で決めた。
今いる場所は雪が年明けに腰の高さまできて、とても研究どころじゃ無かった…
中春月 三日
教会は相変わらずボロボロのホラーハウスみたいになっている。まぁ、僕みたいな狼男が住むには丁度いい。
ヂェムとヤックには木属性魔法でちゃちゃっと梁や柱を修復してもらった。水はまだ使えるし、動物も野草に果物なんかも以前と同じ様にあちこちにある。
昔アマツが来た頃、と言ってももう何世紀も前の話だけど、には教会の倒壊ぶりも今よりもう少しマシで、人も結構いたんだけど、今ではもうすっかり幽霊も居なくなっちゃったね…
中春月 十八日
さて、あらかたのリフォーム終わり!
大扉の入り口を開けるとガッツリ空いた天井から空が見え、直接女神にお祈りができる!!!!
ボロボロの床はヤックがラーヴァゲームをするのに改造!足の踏みばなし!
しかし食は生物の命!教会広間の裏手には威圧感のある暗めの石灰石で出来たおーきなテーブルと、こんにゃくチェアーで長時間作業で座ってもお尻は痛くなりません!!
その二階の部屋は面倒くさいので後回し!
地下室には当時置いてった謎の魔導機械のガラクタの山!
「それはセガラが片付けるんだからね」
容赦ないヂェムの釘刺し!まぁいいだろう!今夜は徹夜だ!!
中春月 十九日
なんで片付けって最中に必ずアルバムとか思い出の品がでてきちゃって全部中断しちゃうんだろう…
深夜、当時アマツや教会生徒と撮った写真が出てきて、ヤックやヂェムの更に古いのも出てきた。
なんだかレコードでも掛けてみようかなと思い立って、『時には昔の異世界話を』に針を落とす。ジジッとノイズが通り過ぎて、すっかりお酒が進む。「千年の孤独」…、良い酒だ。酒といえばアンソニー達は元気にしてるだろうか?
最近写真撮って無いなー…、ずっと前に買った魔眼レフのカメラが物置で眠ったまま。
中春月 廿十八日
突然ヂェムとヤックが慌てた様子で朝僕を叩き起こす。
昨日は徹夜で資料を作っていたから随分と眠かったけれど、その眠気も吹き飛ぶような大事件!
教会大広間に転生者の霊体が光って浮いている…、まだ完全に転生しきるには時間がかかるだろうけれど
清日月 一
少しバタバタして日記が少し空いてしまった。(まぁもともと毎日書いてるわけでもないけど)
最後の日記からの出来事を簡単に書いておく。
新しく来たのは転移者のしょーや君という男の子だ。
服装や話しぶりからしてアマツとは違う時代からやってきたと考えられる。転移魔法が完了してからも意識が戻らなかったため、二階の部屋に点滴等の処置をして安静にしてもらっていた。脈拍、脳波共に異常はなかった。
当初記憶の混乱や、魔力の流れに乱れ、動揺があったものの食後には安定した。
清日月 四
転移者しょーや君と色々な対話を試みる。やはり異世界というのは夢があって良い。
僕達の魔法を見て驚いていた。以前アマツが来た時は『キドウ』や『ヨウジュツ』に似ていると言っていたけれど、しょーや君の時代では僕らの使う魔法は全く存在しないらしい。
代わりに日本語をいくつか教えてもらった!
魔法を使って見た後、貧血になって、起きて以降しょーや君はまた喋らなくなってしまった。
意思疎通には僕らは困らないけれど…
魔導精神医学に通じているヤックも、今はホッとしておいたほうが良いとのことだ。
追記:ヤックと話し合った結果、彼の脳が急激な環境変化をストレスに感じて睡眠状態にあると勘違いを起こしているのでは?と一旦は結論付けてみることにした。夢の中にいると考えている状態と仮定すれば、喋らなくなった部分にも頷きが出てくる。
清日月 十七
クラパルスさんがうちを訪ねてきてくれた。
相変わらず原稿を待ってもらって本当に申し訳ない。が非常に助かっている。
それと、いくつかの報せも同時に舞い込む。クラパルスさんいわく世界情勢があの事件以来不安になりつつあるという…
とりあえず世界樹中層には向かわなくてはならなさそうな雰囲気だ。革命軍の皆は元気にしているだろうか?
清日月 最終日
アンソニー、エディー達と久し振りに再会。二人とも相変わらず元気そうだ。アンソニーは相変わらずの飲みっぷりだったけれど。手土産に持っていった『水猿酒』はイッキ飲みされてしまった。
念願叶って開いたお店は順調だと聞いていたけれど、内装を見る限り結構繁盛してそうで本当に良かった。
二人には予め手紙を送っておいた。アンソニーを連れて行くのは少し気が引けるけれど、彼らも納得してくれている。
まずは空伯爵に詳しい事情を聴きに行かなくては。
穀雨月 初日
引っ越し等でバタバタしてまた日記が空いてしまった…。
キャラメル街で転生者の少年と、おそらくは公転爵の令嬢を見つけて思わず声をかけてしまった。
少年の名前はケント君、しょーや君もこっちに来て心細かったかもしれない。同郷の人間が居るというのはなんにしても良いもんだしね!
令嬢の子は軽い診察しかして無いので何とも言えないけれど、多分記憶障害の可能性。
「あの娘のネジ曲がった天使の輪っか…、堕天の際にも転移転送と同じ脳への負荷がかかるのかもしれない。
しょーやの転生もそうだし…、大体転移転送系の魔法はただでさえ曖昧な理論の時空間魔法を更に何重にも重ねてやるから副作用が起きて当然なんだよっ!なのに女神共は過信してバンバン使うじゃん?どーなのかなーと俺は思うけどね!」
とヤックは言う。
ケント君にも【ステータス表示】スキルを使わせてもらった所、どうやら魔界の、それもS級以上の魔物、つまり魔王クラスでない限り使えない魔法の呪がかかっていた。
本人は気づいていないようだし、特に別状もないのであえて伝えてはいないけれど…
なんか随分と変な子達がうちに揃っちゃったな…
穀雨月 五日
久し振りに編集長にも会った。たまに寄った時には顔を見せないと次会えるのはいつになるかわからないのが世の常だ。相変わらず忙しそうに働いていた。机の上の魔法烏新聞社世界樹モモノタレ支部と書かれたネームプレートがなんだか誇らしげだった。
しょーや君の初仕事祝いのつもりで向かった『烏貴族』では少し飲みすぎたのもあって、編集長とアンソニーと三人で盛り上がってしまった…
またヂェムに飲み過ぎと怒られてしまいそう…
そのヂェムによるとしょーや君の魔法の才能の芽は一向に発芽さえしないらしい…
アマツはあんなに凄かったんだから、彼もできる!と言っておいた。
穀雨月 七日
セルジオ空伯爵邸宅にお邪魔した。
転移転生者は業界でもほとんど聞くことの無い事例で、おまけに今回の堕天少女との出会い、それからクラパルスさんの危惧する世界情勢の均衡を崩そうとする者たち…
いくら僕が狼男でもコレだけ色々周りで起こるのはおかしすぎる。
セルジオ空伯爵ならこれら一連の出来事の原因に心当たりがあるのではないかと踏んでの訪問でもあった。
が、相変わらず酒に話が進むと、あれよあれよと言う間に泊まっていく流れになった。
実はセルジオ空伯爵も最近頭を抱えている悩みがあるらしい。
キャメル街で好き放題やっている貴族達が最近武力行使にで始めているらしい。
マフィアとの繋がりも噂され始めている、その件について新聞社の助けを借りられないかとのことだったけど…