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私立東白大学付属白鳥高校(1)


 PM8:00

 千葉県千葉市 繁華街。

 1人の女性と8人の男性が路地裏に固まっていた。

 その様子は、女性を取り囲むように7人の男性が円を組み、一人の男性は守るように女性の前に立って円を組んだ男達に牽制を掛けている。茶色に染め上げられた髪の毛を一つに纏めたポニーテールに、オーバーサイズの半袖シャツの下にタンクトップ一枚だけを着ていて、立派に育った胸が強調され、健康的すぎる腹とヘソを露にし、カーゴスウェットパンツを履いた女性が余裕の表情でぐるりと取り囲んでいる男たちを一人一人その色欲に塗れた醜悪な顔をじっくりと確認していく。

 「ねぇ、セバスチャン?」

 「佐伯です。」

 女性の前に立つ佐伯と呼ばれた男は少し苛立った表情で否定するように女性の問いかけに答えた。女性は男の気持ちなど知ってか知らずか無視して話を続ける。

 「セバスチャン。貴方が、5人。私が2人。」

 男は、深いため息をついて諦める様に、

 「嫌だと言っても無理なんですよね?」

 「わかってるじゃん。」

 「わかりt…」

 佐伯が言い終わる前に取り囲んでいた一人の男が苛ついていた感情を爆発させた。

 「ごちゃごちゃうっせーんだよ!」

 そう言うと間髪入れずに女性に向かって走り出す。

 蟻のように馬鹿にされ、相手にもされない。人数はこっちが有利なのにも関わらず高飛車な女が鼻で笑ったような気がした時には男の一人が握り拳を作って走り出していた。

 佐伯は、男の動きに合わす様に走り男とすれ違う瞬間に胸の真ん中に掌底を撃ち込んだ。

 勢いがあればあるほど破壊力は増す。男の肋骨にひびを入れながら、佐伯の左足に力を入れるとピッチャーがボールを投げる様に全体重を乗せて男を突き飛ばした。

 男が吹っ飛んでいくのを唖然と見つめる取り囲んだ男達を他所に、佐伯は突き飛ばした勢いを殺さずそのまま左右に居た男たちの髪の毛を乱暴に掴み、全身全霊を掛けて男たちの頭を引き寄せ、鈍い鐘の音を盛大に鳴らし、反動で互いに離れた頭をさらに力を込めて地面に叩きつけ、追い打ちを掛ける。

 その間、女性は、シャツの下の谷間に隠していたホルスターから鉄の塊にしか見えない鉄扇を取り出し、目の前の男に差し出す。その瞬間、佐伯が走り去った気配を感じるとそのまま鉄扇を前に出したまま体を一回転する。後ろで囲っていた男が女性を羽交い絞めにしようと突っ込んできたところを佐伯がギリギリのところを走り去って行ったことで、男の足は止まり、驚いているところに回転の力と女性の力合わさった鉄扇が差し出され、男の顎関節を綺麗に捉えるとそのまま勢いに任せて粉砕し、男は上半身を回転させながら地面に倒れ込む。

 動き出そうとしていた男がいた。鉄扇を前に構え相手の動きをけん制する。

 男から、嫌な脂汗が額からドロリと垂れて行く。

 「ねぇ、どうして私がこんな格好しているかわかる?」

 突然、問われた事に男は睨みを利かす。鉄扇から女へとピントを合わせた。

 女は、元々強調された胸元をさらに強調するよう空いてる人差し指でタンクトップの先端を前へ引っ張る。

 こんな状況でも性には逆らえない男は、思わず目線がその人差し指の先の胸元に向かってしまう。

 女性は、男の目線が自分の胸元へ行った瞬間、前に出してた鉄扇をフェンシングの様に相手の額目掛けて突く。

 鈍い痛みに男は思わず後ろによろけて額を両手で抑えた。

 女性は、留めの一撃と言わんばかりにさらにもう一歩踏み込んで再度踏み込んだ足を軸にして勢い良く体全体を旋回させ、がら空きになった首の側面に鉄扇を叩き込む。男は鉄扇を叩き込まれた場所を起点として、くの字になりながら地面へ崩れ込んだ。

 女性は、倒れ込んだ男に冷たい眼差しで見ながら、

 「動きやすいからよ。」

 と、吐き捨てるのだった。


 翌日 AM6:50 登校時 車内


 学校へと繋がる幹線道路を一台のアルファードが走っている。

 その車内の中に運転手が一人、後部座席に4人掛けの対席に対角線になる様に座った男女が一組。男が、タブレットを見ながら何かを報告している。

 「………と言うのがその後の報告になります。お嬢様。」

 制服を来た佐伯が対角線に座ったお嬢様に報告の終わりを告げた。

 お嬢様は、組んでいた足を組み換えて右手を差し出した。

 佐伯は、タブレットを無言で渡す。

 「宮崎さんの所も大変ね。業績は良かったのにバカ息子がクスリなんて手を出すから。」

 お嬢様は、タブレットに表示された情報に目を通す。昨日、佐伯と一緒に大立ち回りをした7人組の詳細なプロフィールだ。

どいつもこいつも有名企業の社長子息か重役の子供で経歴だけ見ると立派な御子息達であらせられる。

 「どうしてクスリなんかに手を出したんでしょう。社長や重役の子供なら金には困らないでしょうに。」

 佐伯は不思議そうに聞く

 「だからよ。」

 車の窓には女性が真剣にタブレット端末を見る姿が映し出されている。

 「?」

 「お金があれば何でも手に入るから、飽きるのよ。普通に。」

 「バランス?みたいな、ものなんでしょうか?」

 「そ、何事も身の丈に合った力と金だけで十分。でもまぁ、今回、そのお陰で宮崎商事に対して一枚カードを持つことが出来たわけだし、お父様も少しはやりやすくなるでしょうね。」

 「お嬢様自身が出向かなくても私だけで十分です。危険な行動はおやめ下さい。」

 「あと少しで、我が校の生徒が巻き込まれかけたのよ。誰が指咥えて待たなきゃいけないのよ。冗談じゃない。」

 「ですが…」

 「それに、あんな時の為にセバスチャン。貴方がいるんでしょ?私を全力で守りなさい。」

 「佐伯です。」

 「セバスチャン。それにね、今日から貴方は側付きでしょ。学校でお嬢様って言ったら、ぶん殴るからね。」

 佐伯は深いため息をついて最大限譲歩出来る呼び名を探してお嬢様を見ると意を決した。

 「………白鳥様。」

 「ダメ。」

 不機嫌そうに即答する白鳥に佐伯は思わず驚く

 「はぁ!?」

 「白鳥はいっぱいいるでしょうが!家でそんな呼び名したら誰が誰だか分からなくなるわよ!様付けもダメ。あったりまえでしょ、私のファンクラブの子たちじゃあるまいし。」

 「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」

 困り顔を見て少しかわいいなと思った白鳥は浮ついた気持ちを消すように天井をに目線を動かしわざとうーんと唸って見せてから改めて佐伯を見ては呼び名を佐伯に打ち明ける。

 「玲子さん。そう呼びなさい。今から。」

 「お嬢様!さすがにただの護衛が下の名前で主人を呼ぶなど戯れが過ぎます…。」

 「戯れてない!いいわね。今から下の名前でさん付けね!」

 「理不尽すぎる…。」

 後部座席の二人の会話を聞きながら運転手はその白く染まった髭を触り、微笑みながら安全に二人の目的地へ運転をしていた。


 白鳥高校校舎裏裏口


 2人を乗せたアルファードは、生徒の姿が一切見えない道を通り、高校の裏門を抜け、人気の少ない第二校舎の裏口の前に乗り付ける。

 運転手と佐伯が同時に降りると白鳥が乗っている側のドアに素早く回り込み、スライドドアを展開させ白鳥が降車するのを待つ。

 「セバスチャン。ありがとう。」

 「佐伯です。」

 降りてくる白鳥を見送る白髭の運転手が、行ってらっしゃいませお嬢様。と、言うと深々と頭を垂れた。

 「ありがとうミヤベ、帰り気を付けてね。」

 「お気遣い誠にありがとうございます。」

 白鳥は校舎の中に入っていく、佐伯は白鳥の斜め後ろに位置付いて歩き始めた。

 白鳥の登校を待つように事前に空いていた入り口を抜け校舎内に入ると一人の女学生がすでに頭を下げた状態で待っている。

 白鳥の気配を感じると下げていた頭をゆっくりと腰を軸にして上げていく

 無言の女学生の前に白鳥は立つと、右腕を彼女に差し出した。

 すると彼女は静かに下地が白で金糸で刺繍を施し白鳥高校の校章に薔薇が描かれた腕章を差しされた腕に通し、肩にあるボタン式のエポレットに固定させ、皺が無いのを確認すると一歩後ろに下がって

 「白鳥委員長。おはようございます。」

 と再度腰を軸に手をへの前に組み45度の角度でお辞儀する。

 「おはよう。副委員長。」

 白鳥がそう返すと、副委員長は白鳥を左に避けて道を開ける。

 開けてくれた道を颯爽と歩き始める白鳥。副委員長の前を通ると佐伯と両翼を固める様に歩き始める。

 「副委員長、彼は今日から私たちの一員になるものです。自己紹介を。」

 白鳥の一言で、佐伯は副委員長に顔を向ける。

 「初めまして、2年B組の佐伯一(さえきはじめ)と申します。しら…」

 白鳥は、わからない程に顔を右後ろに傾ける。

 佐伯は、鋭い怒りに似た感情を向けられたのを感じ取ると思わず言葉が詰まってしまった。

 「れ…れい、こ、さん。の側付きになりまして、本日より風紀委員の一員となりました。よ、よろしくお願い致します。」

 れいこさん。の言葉に副委員長の目も鋭くなる。

 佐伯は、二人の視線から目を逸らす為に少し俯く。今出来る彼の精一杯の逃げ方だった。

 「副委員長。本日の活動内容を。」

 そんな佐伯に少し満足気に二人にばれない様に一瞬微笑むと、逃げた佐伯を無視して会話を続けていく。

 「はい。昨日身だしなみチェックに引っ掛かった3名を本日、再点検致します。点検内容は頭髪一名、スカート二名になります。また、先週から生徒内で噂になっていたイジメの件ですが、特別チームを編成、事実確認を行います。」

 「そう…。もし本当なら初期段階で止めて下さい。私達が動いたことが分かれば向こうも警戒してしまいます。慎重に且つ迅速に、大変ですがよろしくお願いします。」

 「畏まりました。」

 「その件に関してはチームと執行部で連絡を密に取り合ってください。何かわかり次第、私にも報告を。」

 「はい。承知致しました。」

 サインプレートに風紀委員室と書かれたドアの前に玲子は立った。

 佐伯と副委員長は扉の前に立ち、白鳥の為に扉を開ける。

 円卓の様に長いテーブルが二つ平行に対面するように並び置かれ、テーブルの外側に椅子が3つづつ置かれている。各椅子の横に立っていた風紀委員達が、扉から現れた白鳥に対して朝の挨拶と共に深くお辞儀をする。

 「おはようございます。」

 白鳥は静かに会釈で返し、誰もいない扉へ向けてお辞儀をしている風紀委員達を尻目に自らの席へと進んでいく、テーブルの先にある木で作られた立派な机にヘッドレストとランバーサポートが付いた高機能オフィスチェアの横に着く。すかさず、佐伯が白鳥が座れるようにオフィスチェアを引いてスペースを作る。副委員長は左に立ったまま白鳥が座るのを待つ。タイミングを合わせ佐伯が白鳥が座りやすいようにオフィスチェアの位置を調整する。玲子は、そのまま腰を下ろし、背筋を伸ばして凛とした姿を見せる。副委員長は、白鳥が座ったのを確認すると

 「着席」

その場に居る全員に聞こえるよう適切な音量で発すると

6人全員が頭を一斉に上げ、一糸乱れぬ動きで椅子に座る。

 「改めまして、みなさん。お早う御座います。」

 白鳥は会釈をした。

 福委員長は間髪入れずに口を挟む

 「それでは、2018年4月10日朝のミーティングを始めます。」

 一人の委員が立ち上がり机に置かれたノートを手に取りページをめくり止まった所で喋り出す。

 「本日、登校時に再度身だしなみチェックを行います。行うチームは、秋月(しゅうげつ)と朱王(しゅおう)の2チームで行います。昨日チェックの該当者三名はこの段階で呼び出し、個別チェックを行います。個別チェックの担当は秋月が行います。以上です。」

 白鳥は、短くよろしくお願いします。と立ち上がった委員の目をしっかりと見て言うと委員は小さく会釈をし静かに座る。

 続けとばかりにもう一人の委員が立ち上がる。

 「本日、昼休みと5限、6限間の休み時間に抜き打ちの見回りを行います…」

 白鳥の目が周りにわからない程度動いた。

 「一ついいですか?」

 委員は、報告を止め、白鳥の方に身体を向けると神妙な面持ちで次の言葉を待つ、その姿を見て白鳥は続ける。

 「抜き打ちは結構ですが、3日前にも抜き打ちの見回りをやったばっかりです。風紀を正すのは当たり前の事ですが、行き過ぎた締め付けの反動が見ないところで起こり得ます。その懸念に関して何か対策はありますか?」

 「委員長。」

 一番奥に座っていた一人の委員が立ち上がりながら白鳥に声掛けた。

 「何か?」

 「その件に関してなのですが、次の議題に関わる事がありますので、一緒に私も発言してよろしいでしょうか?」

 「お願いします。」

 「以前から噂が流れているいじめの件について報告になります。」

 「噂の調査を行いました。全学年に調査をした結果、いじめの被害者は1年3組の花笠いおりとされています。」

 写真が委員全員に配られる。

 「資料に載っている写真が花笠いおりです。該当クラスに友人がいるメンバーに探らせた結果です。1年3組所属、花笠いおり。クラスでの学力順位は35名中16位、交友関係は学校内では見当たらず、孤立気味、休み時間は一人で過ごしています。主に読書や授業の振り返りを休み時間に行っており、クラスメイトとの会話はほぼなくクラス内連絡などで担当と2~3回会話を交わす程度、今回の噂の蔓延により孤立はさらに深くなっている様子で、昼食はクラス内では取らず、学内のどこかで取っている様子です。」

 白鳥は言う

 「どこで、昼食を取っているかはわかりますか?」

 「大変申し訳ありません。関係者への聞き込みのみで踏み込んだ調査をまだ行っておりません。指示があれば今日中に行いますが如何なさいますか?」

 「さすがに、目立ちすぎるでしょう。もう少し、聞き込みを続けてください。もし、花笠さんに危険が及ぶ事態が起きれば現場判断に任せます。」

 「かしこまりました。この件で、花笠いおりをマークしやすくする為に、本日、見回りを行うと判断した次第ですが、見回りを行ってもよいでしょうか?」

 「わかりました。そう言った事なら許可します。正し、普段の見回りよりは雑に行う事とします。」

 「雑…ですか?」

 「いつもの通りに厳しくやってしまっては、全校生徒の息が詰まってしまいます。本来の目的の隠れ蓑になればいいのだから、あまりひどい事象以外は目を瞑ってあげてください。」

 「そういうことでしたら、かしこ参りました。」

 副委員長は、座った委員の姿を見て全員に聞こえる様に言った。

 「これにて、本日の朝礼ミーティングを終了致します。別に報告ある方はいらっしゃいますか?」

 6人の委員達は黙っている。

 「報告なしと見受けました。これにて解散。お疲れまでした。」

 6人の委員達は静かに立ち上がり、各々玲子に一礼して部屋から出て行く、取り残された3人。

 白鳥は立ちあがり、部屋の窓の先、桜並木の隙間から見える正門をじっと見据える。

 学校の校舎の時計の針は8時丁度を指し始めていた。

 副委員長は、部屋に置かれた小さな冷蔵庫から水を取り出して、電子ケトルを使って湯を沸かす。その間に佐伯は茶器がしまってあるガラス戸の戸棚から立派なティーセットを取り出して、副委員長の前に準備した。

 「こちらをお使いください。」

 無言で出されたティーセットを見る副委員長。完璧な選択に少し悔しそうに右目尻がピクリと動く。

 「ありがとうございます。」

 沸かされたお湯を手慣れた手付きで、紅茶を入れていく。

 出来上がった一杯を白鳥の机に音も無しに置く

 「お姉さま。もしよろしければお茶が入りました。」

 背中から聞こえる副委員長の申し出に応えるべく、窓に別れを告げて机へと向かい、佐伯が椅子の準備をしているの確認すると右側から足を入れて座る。佐伯がそれに合わせて白鳥の体にフィットするように椅子を差し出した。

 「ありがとう。貴女の紅茶飲むのいつぶりかしら。」

 その言葉と共にティーカップを右手で掴み口元に持って行った。紅茶の湯気が自分のおでこに当たり温度の高さを感じると、口元にティーカップを触れさせて少し傾け、副委員長に見えない様に飲んだ振りをする。

 「2年振りになります。」

 ティーカップを静かに置く

 「風紀委員の仕事に慣れた?」

 「いえ、正直言うと、まだ慣れておりません。日々精進して参ります。」

 「そう…。でも、貴方のお陰で風紀委員の活動がスムーズに行われているのは忘れないでね。」

 「ありがとうございます。」

 「副委員長様。ポットの横にある袋には何が入っておられるのですか?」

 二人の会話に割って入る佐伯

 「え?あぁ…あ、あれは、イチゴジャムです。おいしかったから、学校でも使おうと思いまして。」

 「イチゴジャム?」

 白鳥は手を叩く仕草をする。

 「確か、あの時入れてくれた時、貴方が出してくれた紅茶って。」

 「はい。ロシアンティーです。」

 「お願い出来る?」

 副委員長の口角が喜びですこし上がる。

 「ただいま。」

 ロシアンティーの用意をする副委員長。

 ティースプーンに盛られたイチゴジャムを紅茶の中に沈め、ゆっくりと静かにジャムと紅茶を混ぜて行く完全に溶けきる。

 先程と同じようにティーカップを口元に持って行く、先程より温度が下がったのを確認して、ティーカップを口を付けて、少しづつ傾けながら味わうように飲んでいく

 イチゴジャム特有の甘酸っぱさと紅茶の渋みとコクのコントラストが口全体に広がり、喉を潤していく。ティーカップを置くときにまで続く口の中の風味が喉を通らず鼻腔から抜けていった。

 その余韻を楽しむ為に目を閉じ、鼻に集中する。肩の力が抜け、このまま寝てもいいと思わせるほどの幸福感が体全体を覆う。

 「やっぱり、おいしい…。貴女の紅茶は。」

 早朝の紅茶に舌鼓を打つ玲子。部屋の中に漂う紅茶の香りは、平和な時間を物語っていた。

 生徒達が校門から校舎に入るまでの間、風紀委員達は、道の端で立って登校する生徒に挨拶をしながらその身だしなみと生徒の会話に耳を傾けていく、その話題は小テストから部活、ファッション、サブカルまで幅広い男女入り乱れた華やかな登校の姿は生徒の質が高いからか気品に溢れている。

 その気品を維持する風紀委員は、全校生徒から注目の的だ。風紀委員が立つ傍を通るとわざと視線を合わせて気恥ずかしそうに挨拶しては友人とはしゃぐ女生徒達。一瞬だけ視線を風紀委員に向けて何事もありませんよ。と言わんばかりに浮ついた気持ちを一生懸命隠しながら登校する女子生徒。声を掛けられ淡い期待に胸をときめかせ風紀委員を見てブレザーの皺を注意され露骨に肩を降ろす男子生徒、元気いっぱいに走って登校する生徒や歩きながら読書をする生徒を注意する風紀委員。

 気品の中に青春時代特有の元気を内包した登校風景が続く。

 登校人数がが少しづつ減っていき、まばらになり始めた頃、風紀委員による校門閉鎖が行われる。

力自慢の男子風紀委員が校門に手を添えてスタンバイし、その横でスマートウォッチを見ながら登校時間の終わりを待つ女性風紀委員。登校時間が終わる2分前。

 歩道を息を切らしながら走って来る一人の生徒が校門を目指していた。

 校門が締まる一分前その生徒はなんとか校門をくぐることに成功する。

 校門を過ぎてすぐに安堵したのか崩れる様に地面に両手、両膝をつく生徒。

 倒れ込んだ生徒見て女性風紀委員が近寄り、それと同時に男性風紀委員による校門閉鎖が行われた。

 「あなた!大丈夫!?」

 乱れた呼吸を戻す為に肩を大きく上下に動かし、空気中の酸素を体中に回す為に呼吸は荒くなっている。

 「す…すみ…ん。ハッ、ハ、ハ、こんあはずじゃ、nかったnですけど…。」

 「無理しないで、立てる?」

 「はい。大丈夫です。」

 女性風紀委員は自分の肩を貸し、地面に倒れた女生徒を抱えながら立たせる。汚れた膝や手を手で払ってあげる。

 「保健室行く?」

 「いえ、大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」

 少し、息が整った女生徒は、大きく風紀委員にお辞儀すると駆け足で校舎の中へと消えていく。

 校門を閉め終えた男子風紀委員が女性風紀委員に近寄る。

 「なぁ、あの娘…。」

 「目立つところに傷は見当たらなかった。本当に傷が無ければいいけど…。」

 一生懸命走る女生徒の後姿を見送りながら、二人しかいない桜並木は風に揺れ少しざわついていた。

 

 「私は、食器を片してから教室に向かいますので。」

 使用済みのティーカップ一式を持った副委員長は軽く会釈する。

 「ありがとう。これからも、貴女のお茶飲めるのよね?」

 副委員長は微笑みながらこう返す。

 「はい、もちろんです。楽しみになさってください。」

 それじゃあ。白鳥が会釈をすると佐伯も続けて会釈し、副委員長も再度会釈をして返事とする。

 白鳥と副委員長が背を向けて反対方向に歩き出す。佐伯は白鳥が前を通り過ぎると遠すぎず近すぎない絶妙な距離を保ちながら後に付いて行く。

 茶器を持ちながら1人廊下を歩く副委員長は、玲子の最後の言葉を思い出す。自然と足取りが軽く、思わずスキップをしていた。

 ホームルームが始まる10分前。玲子と佐伯は自分の教室へと向かう。

 2人の間に会話が無い中、誰もいない廊下を歩く

 「玲子…さ、ん…」

 佐伯は、白鳥に声を掛けようとしたが慣れないさん付けに苦労している。

 「セバスチャン。自然にね。」

 白鳥は佐伯に見えないよう前を向きながら微笑み、佐伯は折れない白鳥についに折れた。

 「佐…はぁ、精進致します。」

 「そう、そう。」

 白鳥の声色に嬉しさが乗っているのが見えた。

 佐伯は、深呼吸を繰り返し、玲子さん。と声を掛けるタイミングを計っていた。しかし、教室に近付く度に少しづつ人の気配が強くなっていくのを感じる。すでに2階へと向かう階段を登っている事に気付き声を掛けるのをあきらめ、警備に集中する。渡り廊下に差し迫る頃には生徒達の雑踏とホワイトノイズが辺り一面を包み込み始めていた。

 一人登校に出遅れた女子生徒は転んだ痛みなど忘れ走って校舎入り口から階段を登る、力尽きた女子生徒は、情けなく階段を手すりを使って登っていく、顔を上げられない程消耗した女子生徒は息切れも起きている。少しでも落ち着かせようと深く息を吸うなどして息が整い始めようとした時、正面から黄色い悲鳴が鳴り響いた。何事かと顔をあげると金の糸で縫われた白薔薇の腕章が目の前に急に現れ、そのままぶつかってしまう。巨木に身体全体をぶつけたような感触に驚いた時にはすでに遅く、バランスを崩した女生徒はそのまま豪快に尻もちを搗く。

 「イテテテ…。」

 「貴方、大丈夫?」

 廊下と自分の間に差し出され絹のような肌を持った手がいきなり差し出された。その瞬間、周りがざわつき始める。

 差し出された右手に見惚れていると差し出された右手は引っ込み、絹の肌を持った女性の顔がゆっくりと覗き込んで来た。

 肌の白さを活かすナチュラルメイクに二重で切れ長の目が力強く、その中に覗く魔性のようなあざとさが醸される。思わず顔から火が出てるんじゃなかと思う程紅潮するのが自分でもわかって声を出そうとしてもどもる事しか出来なかった。

 「立てる?」

 その一言に必死に首を何度も上下に振る。

 ふと、自分の両手に絹が触れた感覚が走ると魔法にかかったかのようにその絹の誘いに導かれながら不思議なぐらい静かにそして軽やかに立ち上がった。

 「折角、仕立てた制服が台無し。」

 白鳥は、立ち上がらせた女生徒のスカートに着いた埃を優しくはたき、少し乱れた制服を手直しする。

 「これで良し。ごめんなさいね。怪我してない?」

 再度、女子生徒は謝った。

 気付けば白鳥は周りを生徒達に囲われていた。ざわめく生徒達、女子生徒は混乱した頭でとにかく何度も頭を下げて大げさに謝ると女子生徒は雑踏を謝りながら掻き分けてその場から逃げ去ってしまった。

 白鳥は押し寄せて来た周りの生徒達に笑顔を振り撒き一人一人に挨拶を始めざる負えなくなり、逃げる姿を見届ける事も出来なかった白鳥は、心の中に逃げ出した生徒の名前を心の中で呼ぶぐらいしか出来なかった。

 白鳥に群がる生徒達にもみくちゃにされながら必死に白鳥の隣を死守し続けた佐伯は腕に付けてるスマートウォッチで時間を辛うじて確認し

 「お嬢様。ホームルームがそろそろ始まります。」

 と苦し紛れに伝えた。

 お嬢様?

 白鳥は、笑顔のままゆっくりと佐伯の方に顔を向ける。

 「セバス?」

 「え?あ!れ、れ、玲子さん。ホームルームは、始まるでるすよ。」

 白鳥の笑顔の圧力に押され、慣れない名前呼びでもう一度伝えるが、自分が噛んだことに気付いていない程白鳥の笑顔が怖いと思った。

 「そう?じゃあ行かないとね。皆さん。風紀委員からのお願いです。身嗜みをしっかりと整えて下さいね。」

 そう、笑顔で言うと、囲っていた女生徒たちが元気よく。はい!と答える。

 「それじゃあ、また今度。お話出来る事を楽しみにしてますね。」

 その一言でまた湧き出す生徒達は、白鳥の言葉にのぼせながらも白鳥が通る道を開けて去る姿が階段の先に消えるまで見送っていた。

 誰もいない階段で佐伯が白鳥に口を開く 

 「花笠いおり。特に問題なさそうですね。」

 「だといいけど。」

 白鳥は佐伯に素っ気なく返答する。

 「おじょ…れいこさん。イジメというのは本当なんでしょうか?」

 「セバスチャン。」

 「佐伯です。」

 はぁー。この男は…。

 「命令。」

 「はい。なんでしょうか?」

 「玲子呼びに今日中に慣れろ。」

 佐伯の頭が一気にブラックアウトとする。

 「返事!!」

 白鳥の一喝に身体が自然と反応してしまった佐伯は反射で

 「かしこ参りました!」

 と、言った途端に後悔した。

 簡単に慣れるなら苦労しないって…。

 ため息をつくと怒られるので心の中で学校中に聞こえる様にため息をした。

 3階に着いた。ホームルームが始まるからか廊下に人は疎らで次々と教室の中に入っていく生徒が大半だ。

 白鳥は自分の教室の前で。

 「それじゃあ。セバスチャン。昼休みに。」

 「かしこ参りました。れ、れいこ…さ、ん。」

 白鳥は満足気に浮くような気持ちで

 「よろしい。」

 というとご満悦に教室に入っていく。

 佐伯も隣の自分の教室に入った。

 さすがにクラスメイトとなると白鳥家の令嬢が来たとなってもどよめきの一つも上がることはなく、思い思いに雑談や授業の準備をしている賑やかな教室を作り出している。


 佐伯は黒板の前を通り、机の間を通りながらすれ違うクラスメイトに短い挨拶を交わす。

 教室に入るとクラスメイトから早速声を掛けられた。

 「おはよう!佐伯、昨日の戦国見た?」

 「見れてないんだよー。あとで見どころ教えて。」

 「オーケー。」

 自分の机に辿り着き、タブレット端末を机に設置されている移動式のスタンドに装着すると、自動で電源が付き、バッテリーのマークに充電中のマークがついた。


 白鳥はクラスメイトへ挨拶をし、二言三言言葉を交わしながら、自分の机に近付いて行く。

 バックから取り出した各教科のノートを机の天板下の棚に入れ、筆箱を机の上に置いたりと学校生活の準備を行っていると、隣の席の娘が話しかけて来た。

 

 佐伯が席に着いた途端、後ろの席で座っていた男子生徒が話しかけてくる。


 「白鳥さん。オハヨ。」

 「関さん、おはようございます。」

 「さっきなんかあった?」

 「さっき?」

 「みんな何事も無かったかのような振りしてるけど、白鳥さんの声が聞こえて何事か?って噂してたんだよ。」


 「佐伯ぃー。今日、一緒に登校してきたんだろ?」

 「あぁ…高田。んーまぁ…。」

 「んだよー。歯切れの悪い。側付き?だっけ?にようやくなれたんだろ?」

 「急に、下の名前で呼んでくれって言われてさ。言えないと不貞腐れるし、なんだかなぁ。」


 白鳥が改めて周りに意識を持って行くと確かに妙な視線を多数感じる。


 背中に当たる高田の目線が妙に痛い。佐伯は背もたれを持ちながら後ろを向くと嫌そうな顔をした高田が何かを言いたげにしている。

 「朝から、特大の惚気なんて聞きたくないんだが?」


 「もしかして、佐伯君と喧嘩でもした?」

 

 二人同時に口を開いた。

 「惚気てなくない?」

 「してません!!!」

 関の言葉に反射反応で身体が反応してしまった。

 しまったと思った途端、教室全体を見通すと普段聞いた事の無い白鳥の声にびっくりしてクラスの賑やかな雑踏が一瞬にして静まり返る。全クラスメイトの注目を受けた白鳥がどうしようと内心焦っていると、空気を呼んだクラスメイト達はすぐに皆聞かなかったことにしようと、何事も無かったかのようにまた賑やかに風景へと戻っていく、関は逃げることが出来ず、タハハ…と苦笑いをした後に仕切り直す様に

 「白鳥さん。何かあったら相談してね!」

 と右手で力強く拳を作った。

 白鳥の頭の中で様々な会話パターンが目まぐるしく紡がれていく中どれもめんどくさそうに思えた瞬間、ぎこちない笑みを浮かべながら、その時はよろしくね。と関に感謝の意を述べる事しか出来なかった。

 始業のチャイムが鳴り、その数秒後にクラス担当の先生が入って来る。それに合わせる様に賑わっていたクラスは、ガタガタと派手に音を鳴らしながら席についてホームルームの始まりを待つ。

 「みんな、おはよう。」

 先生の一言でホームルームが始まる。

 そしていつもの日常が進んでいく。

 一限、二限といつもの授業が続き、3限目に差し掛かる時、何かを閃いた白鳥は、教科書アプリを開いていたタブレット端末でSNSを開き、DM機能を使って佐伯にメッセージを送り始めた。


 今日のお昼ご飯は焼きそばパンがいい。

 

 すぐに、教科書アプリを開いて授業に集中しようとするとSNSのポップアップが端末上部に現れた。佐伯からの返答だ。


 今日の食堂のパン屋のラインナップに焼きそばパンはありませんが、如何なさいますか?


 すぐさま返信する。

 

 わかった。コンビニで。


 SNSの個別メッセージ画面のままにしておくと相手側から送信準備のマークがぐるぐる回り出したと思ったら吹き出し調のメッセージがすぐに現れた。

 

 かしこ参りました。少し、遅れますがよろしいですか?


 そして、返信をする。


 屋上で待ってる。


 返事は驚くほど速い


 急いでお持ち致します。

 

 SNSをバックグラウンドにスライドさせ教科書アプリを戻し、教師の授業に耳を傾けつつノートに目を向ける。

 しばらくして3限目を終えるチャイムが鳴り、終了の挨拶を行う。休憩時間に入れば途端に静かだった教室は賑やかな社交場へと変貌を遂げた。白鳥高校の校舎を照らす太陽が空の天辺に鎮座する。

 飢えた生徒達がこぞって食堂に向かう姿が各階の窓から覗かせる頃、第一校舎の屋上入り口から一つの人影がゆっくりと現れた。

 白鳥は、落下防止の柵に近寄り地方都市の一等地から見る風景を一人寂しく時たま吹く凪に髪を触れさせながら見ていた。

 ビニール袋を持った佐伯が屋上に向かいながら視線を壁と天井の間を何気なく見つめては朧気に朝に言われた高田の言葉を思い出す。

 「まぁ、なんだ。立場ってやつがあるのは良く分かるんだけどさ。雇ってる人がそう呼べって言われてんだからそこまで気にする必要なんてないだろ?………。」

 最後何言ってるか聞こえなかったけど言ってる事は間違っても無いか。でも、下の名前で呼んで今までの畏まった言葉使いも良くないのか?少し砕けた方がいいのか?

 ふと、気付くと屋上の入り口のドアに着いていた。

 まぁ、試してみるか。

 佐伯は、ノブを握り、ドアを開く。

 雲が一つも無い澄んだ空に誰もいない屋上に一人の女性が髪を靡かせて落下防止の柵に手を置いた横顔を見た時、佐伯は月並みの言葉だが、綺麗だ。と、目を奪られた。数コンマ飛んでた意識が戻って来る。

 お嬢…いや、違うな。

 「玲子さん。」

 玲子は、呼ばれた方に顔を向けると、ビニール袋を持った佐伯がこちらに来る姿に少し驚いたが、すぐに平静を保つ事が出来た。 

 「お待たせしました。焼きそばパンとサバスです。」

 佐伯が、そう言いながら白鳥の隣にやって来た。昼休みの間までにどんな心境の変化があったかはわからないが、もう少し砕けた口調にならないものか?しかし、これ以上は自分の我が儘だろうと、自分に自制を掛け微笑みながら、

 「セバスチャン、ありがとう。」

 と佐伯に伝える。

 目の前に差し出された封が開いた焼きそばパンとサバスを受け取った。

 「封ぐらい自分で開けられるんだけど。」

 焼きそばパンをビニールから少し出して、一言小言を言って頬張る。

 「佐伯です。玲子さん、すぐ食べると思いまして、申し訳ありません。」

 学校の時ぐらいにしか食べれないジャンクな味。みんなが食べてる味。金額の高い食べ物で美味しい物はこの世の中腐るほど存在するが、安い物でも美味しい物は存在することを噛みしめる事の出来る味。白鳥は、中農ソースで炒められた焼きそばに包まれたコッペパンの質素な香ばしさがマッチして口の中を支配する。今の白鳥にとってこの味はご馳走そのものだった。

 しっかりと口の中で咀嚼して飲み込むと途端に喉の奥が乾いてきて水分を欲してくる。

 受け取ったサバスを飲もうと口を付けようとしたが、口が開いていない事に気付いた。

 「ん!…」

 白鳥は、少し恥ずかしそうに佐伯にサバスを突き付ける。

 「かしこ参りました。」

 佐伯は嫌な顔一つせず黙ってサバスの封を開けて玲子に再度差し出す。

 「ありがとう…。」

 白鳥は呟くとサバスを口に付け、顎を上げて、満足するまでサバスを喉に流し込む。

 さっぱりとしたバナナの風味が舌から喉を通って食道へ行くのが分かる。ビールを飲むように喉仏が微かに動きながら並々と胃の中へ注がれていき、満足して顎を降ろしてサバスを口から離す。

 ふぅ。

 一息着くと食事をしている満足感に襲われて幸せが満たされていった。

 横目で佐伯を見るとビニール袋を持って立っている 

 「セバスチャンは食べないの?」

 「佐伯です。それでは、私も頂きます。」

 そう言って袋から焼きそばパンを取り出して口に咥えるとサバスを取り出して封を開け、そのまま白鳥の隣で、落下防止用の柵に背中を預けて食べ始める。

 白鳥は、その姿を見て、柵に両肘をつきながら少し行儀悪く昼食の続きを楽しむ。

 無言で続くお昼の時間。

 凪からそよ風に変り、優しい風切り音と外の社会から聞こえてくる雑踏をBGMに静かに二人の食事会は過ぎて行った。

 佐伯は、白鳥の食べる速度を気にしながら自分の食べる速度を調節してその簡素な昼食を進めていく、白鳥が食べ終わる頃に佐伯も食べ終わった。

 「玲子さん。ゴミはこちらに。」

 佐伯は、ポケットに仕舞っていたビニール袋を広げて玲子の前に差し出す。

 ありがとう。白鳥はそのビニール袋に食べ終わりゴミに変った物を静かに入れていく、その上から佐伯自身が食べ終わった昼食のゴミを入れ、袋を縛り、左手に持った。

 佐伯の一連の動きを見届けると白鳥は軽く短く息を吐いて 

 「さて、行きましょうか。」

 と、屋上のドアへと向かいそのまま校舎の中へと消えて行き、

 「かしこ参りました。」

 と佐伯が答えると、玲子の後姿に続いて、校舎の中に消えて行った。

 誰もいない屋上。

 校舎の中では、昼休みを楽しむ生徒達の雑踏が響いている。

 何分かして誰もいない屋上に一人の女子生徒の姿が身を隠す様にゆっくりとドアを開けて入って来る。

 誰もいない事を念入りに確認すると、屋上の真ん中で天を仰ぎ、深呼吸をした。ただ黙ってじっと天を仰ぐ。何気なくブレザーに入れてるスマホを取り出し、何かを確認すると、急いで屋上から飛ぶように姿を消した。解き放たれたドアが独りでに締まり切ると同時に昼休みを終えるチャイムが学校周辺に鳴り響いた。

 窓に映るは授業に集中する生徒達、校舎の隣に併設されている体育館からは体育の授業中なのだろうか、靴で床が鳴る音と共に歓声が時折体育館を微かに揺らしている。太陽の位置が徐々に傾き、西に45度より少し傾いた時に今日何度目かのチャイムが鳴り響いた。

 校舎の中では、何やらガタガタと校舎全体が慌ただしくなり、窓を開ける教室も出てくる。よく窓の中を見てみると掃除用具を持った生徒達が教室を掃除している。そして、掃除が終わったのか次々と掃除用具を片し、生徒達が各々の行動に移る。カバンを持って帰る者、友人と語らう者、読書をし始める者、ノートを出して、今日の授業の復習を始める者、体育館に行く者や部活動室や各実習室がある第二校舎へ足を運ぶ者。

 学校の一日が終わり生徒達は子供達へと変わっていく、その中で一台の白のアルファードが、第二校舎近くにある裏門から発進して白鳥高校を後にした。

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