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僕と三人の仲間たち

作者: ありま氷炎

 僕の頭の中には、いつも皆んながいた。

 怒りっぽくて、いつも僕の代わりに怒ってくれるレーダ。

 楽しい時、僕の代わりに笑ってくれるフローリア。

 いつも泣いてばかりで、僕の代わりに泣いてくれるルイザ。


 みんながいたから、僕は一人じゃなかった。

 例え外の世界に友達がいなくても。

 心のうちに話しかければ、いつも誰かが答えてくれた。


 でも最近は、皆んな静かにしてるし、外と交流した方がいいって言う。

 なんでかな?


「いさむくん、どうしていつも一人でいるの?」


 ある日、クラスメートの女の子が話しかけてきた。

 誰だっけ?


『松本くんだよ』

 そう教えてくれたのはフローリア。可愛いよねってこそっと言う。フローリアは可愛い女の子が好きみたいだ。

 あ、そうだ、質問。


「一人でいるほうが楽だから」

「そ、そうなんだ。ねぇ、一緒にトランプで遊ばない?」

「トランプ、遊ぶ?」


『遊びなよ!』

 レーダが元気いっぱいでそう言う。

『うん、一緒に遊んだ方がいいと思う』

 いつもは何も言わないルイザもそう言うので、僕は松本さんと遊ぶことにした。

 松本さんと二人で、トランプ。

 ババ抜きをした。


『多分、それ、ババ』


 ルイザは人の表情を読むことが得意で、すぐに松本さんが持っているババの位置を教えてくれた。なので、僕がババを引くことはなかった。

 だけど、僕がババを持ってしまった時も、僕の表情でわかるみたいで、松本さんはババを引かない。

 結局最初にババを持った人が負けてしまうことを繰り返し、気がついたら昼休みが終わるベルがなって、松本さんが慌ててトランプを片付け始め、僕も手伝った。


 初めて人と遊んだけど、面白いものだね。


『そうだろう』

『そうでしょう』

『そうよね。可愛い子だし』


 僕の中の三人は表情なんてわからないけど、嬉しそうにそう言った。


 それからも僕と松本さんは休み時間に遊んだ。


「おい、いさむ。お前、生意気なんだよ」


 『いさむ。あぶない』


 ぶうんと音がして、僕の顔の横スレスレを拳が掠る。


「よけやがって!」


 多分クラスメートの男子だと思う。大人くらいの大きさの彼が僕を殴りつけてきた。


『いさむ、体借りるから!』


 そんな声がして、体が勝手に動き始める。

 これは初めてじゃない。

 僕が危険な目に遭うと、運動神経のいいレーダが僕の体を借りて回避してくれる。


「いさむ、こいつ殴ってもいい?」

『だめ』

「何言っているんだ!」


 レーダが体を動かしている時、僕の声を使って話すのもレーダで、どうやらこの乱暴な男子に聞かれたみたいだ。


『少しなら、いいよ』

「よっしゃ!」


 レーダは嬉しそうに僕の声で叫び、少しではなく、男子を気絶させてしまった。


『ごめん』

「大丈夫」


 相手が気を失うとレーダはすぐに体を返してくれた。

 とても心配そうだ。

 でも大丈夫。

 きっと彼は覚えてないから。弱い僕が殴って気絶なんてあり得ないと思う。

 とりえあず学校の裏庭でよかった。


『レーダやりすぎ』

『本当よ』


 フローリアとルイザはレーダを責めていたけど、あれは乱暴者が悪いと思う。

 理由を言わないで殴るなんて。


 翌日僕は理由を知ることになる。

 どうやら松本さんは男子の中で人気の女の子みたい。

 それで、乱暴者は僕が松本さんとよく遊んでいるのが気に食わなかったみたい。

 遊びたかったら、言ってくれればいいのに。

 理由を知って、僕は眺めている男子を誘うようになった。

 すると女子まで集まってきて、ババ抜きは一気に八人でするようになってしまった。大勢でするババ抜きは楽しくて、外の人と遊ぶのも悪くないなあと思った。


 数日後、また声をかけられた。


『またか!』


 レーダは少し嬉しそうに、


『これは告白タイム』


 フローリアは意味がわからないことを言ってきた。


「あの、いさむくんは、松本ゆりあちゃんと付き合ってるの?」

「付き合ってる?違うよ。一緒にトランプしているだけ」

「そ、そうなのね。よかった!またね」


 女の子は嬉しそうに教室へ戻っていった。


『いさむ。モテ男め!』

『前世と同じ〜〜』

『今度は絞ってくださいね』


「う?前世?」


 前から気になっていた。

 頭の中の三人は時折、前世がなんとかって言う。

 僕はずっとこの三人は僕が生み出した存在だと思っていた。


『ああ、もういさむに言おうか』

『そうね、今は理解してくれるはず』

『理解してくれないと悲しい』


「えっと、三人は何か話があるの?それなら家でじっくり聞こうか」


 ☆


 誰もいないのに話しかけることがおかしいと気がついたのは早かった。

 まあ、レーダたちが教えれくれたんだけど。

 だから両親がそばいない時じゃないと、僕は三人に話しかけない。

 お風呂入って、ご飯食べて、勉強すると言って、僕は部屋に篭った。扉は閉める。


「さあ、話して」


『うん。じゃあ、私から話す!』


 三人の中で、レーダがリーダーみたいで、いつも彼女がまとめている。今日もそうみたいで、レーダたちの秘密を聞かされた。


「えっと魔王を倒した時の呪いで、僕が生まれ変わった時にレーダたちの魂が一緒にくっついてきた?」

『そう。いさむは、リヤムって名の勇者だったんだぜ』

「勇者。すごいね!」


 嘘みたいな話だけど、実際レーダたちは僕の頭の中にいるし、体を使われた時の動きはとても早くて僕の動きじゃないから、納得できる。


「それで、レーダたちは僕と一緒にいても大変じゃない?」

『大変じゃない。一緒は嬉しい』

『ええ、いさむは可愛いし』

『一緒だと寂しくないです』

「レーダたちが一緒ならいいんだ。僕を小さい時から助けてくれてありがとうね」


 僕はこれからも三人と一緒に暮らせると思っていた。

 だけど、魔王が現れた。

 う〜ん。

 最初からいたけど、僕たちは気が付かなかった。

 松本さんが魔王だった。


「いさむくん。どうしてその三人と縁を切ってくれないの?今度こそ一緒になれると思ったのに」

「え?松本さん」

「いさむくん、私は魔王なの。あなたと一緒になりたくて、最後の力を振り絞ってあなたの魂と私の魂をこの日本に転生させたの!」

「う?えっと、君がレーダたちに呪いをかけたんだじゃないの?僕と一緒にいるようにと」

「そんなこと、あの女狐たちは言ったんですか!まったく」

「え?レーダ、ルイズ、フローリア。違うよね?」


 三人は何も答えなかった。

 いつもはあんなにおしゃべりなのに。


「騙してあなたにつきまとうなんて、ストーカーよ!」

「えっとストーカー?でもレーダたちは僕を守ってくれたよ。別にストーカーでもいいけど」

「いいの?え?」

「うん」

「……うう。負けました。またしても、女狐たちに。でも、彼女たちは実体を持たない。そのうち私が魅惑のナイスボディになれば、いさむくんも目を覚ますはず」

「そ、そうかな?魅惑のナイスボディ?」

「その日まで、いさむくんをあなたたちに預けます。しっかりと守ってくださいね!」

『言われなくても守ってやりゃ!』

『魔王、きっとその胸は成長しないと思うわ』

『いさむを悲しませるのは嫌』


 やっと声を出した三人は三者三様に好きなことを言う。

 まあ、いいんだけど。

 嘘ついていたのがいや。


「まあ、何を言っているかわからないですけど、首を洗ってまっていてくださいね!」

『おい、魔王。使い方間違ってる』

『松本ゆりあちゃんって、おつむ弱かったっけ?』 

『魔王の頃からちょっと頭悪そうでしたからね』


 魔王こと松本ゆりあちゃんは、その後転校して、彼女はアイドルになったことを知った。動画で彼女を見たり、歌っているのを見て、僕は感動していたけど、レーダたちは悪態をついていた。


『いさむに一途ではないのね』

『ハーレム要因失格」

『まあ、ライバルが減ってよかった』


 結局僕は、外の人とはある程度の付き合いしかしなくて、休日は一人でいることが多かった。

 親には心配されたけど、まあ、仕事はちゃんとしているし、休日は一人だけど散歩にはいっているし、問題ないと思う。

 死ぬまで僕は三人と一緒だった。

 僕が四十歳を越えたあたりから、レーダたちが心配してくれるようになったけど、頭の中の三人と会話していれば、僕は満足で寂しい気持ちは生まれなかった。

 最初僕は自分が死んだことがわからなかった。

 気がついたら、僕は真っ白な世界にいた。そこにはレーダたちがいて嬉しくなった。


「いさむ!」


 三人は僕をぎゅっと抱きしめる。


「ごめんよ」

「私たちのせいで、いさむはずっと一人で」

「ごめんなさい」


 三人とも何故か泣いていて、僕には理解できなかった。


「いさむよ。三度目の人生はどう生きたい?」

「どうもこうも希望はないです。願わくば、この三人に新しい人生をあげてください。僕とずっと一緒でかわいそうでしたから」

「かわいそうなんて」

「それはないよ」

「そうですよ」


 レーダたちはわんわんとまだ泣いている。


「よし、わかった。お前たち一人一人に肉体をやろう。だが、別々の場所に誕生させる。縁があれば再び会うだろう。それではさらばじゃ」


 多分、神様らしい存在はそう言って、僕たちに杖を向ける。

 眩い光が僕たちを包み、目覚めた時、僕は誰かの腕に包まれていた。


「起きたのね。いさむ」


 聞いたことがある声。

 しかもいさむ?

 ゆっくりと目を開けると、僕を抱いていたのは魔王こと松本ゆりあちゃんだった。

 えっと、僕が死んだ時多分四十五歳だった。

 松本さんもそうだよね?


「いさむって名か。勇ましそうな顔をしている」

「そうよ。勇ましいのよ」


 松本さんは、夫、僕のお父さんだよね?に笑いかける。


 神様、この転生、ちょっとまずいんじゃないでしょうか?

 せめて記憶を消して欲しかった。

 これ、松本さんにバレたらやばい。


 僕はそう心に決め、普通の赤子を演じようとした。

 数年後、レーダと再会して、僕の正体がばれてしまうが、おかしなことは言われなかった。


「いさむちゃん、まあ、あなたの本当のお母さんになってしまったから、もうそういう変な感情はないのよ。ただ、ハーレムは許しません!」


 僕が部屋に、レーダ、ルイズ、フローリアを入れてまったりしていると、鬼の形相で松本さん、いやお母さんがやってきた。


「そんなふしだらな息子に育てた覚えはありません!」

「いや、お母さん。あの生まれつきだから」

「そ、そうだったわ。だけどいやー」


 お母さんを泣かせて、お父さんに怒られ、一人に絞るように言われた。

 でも難しい。それぞれの魅力があって、難しいんだ。三人は三人で交互でいいよっていうし。

 だから、ちょっと期間を置いて、一年ごとに彼女になってもらうことにした。

 三年たって、またレーダの番になったらそのサイクルがばれて、お母さんにめちゃくちゃ怒られた。


 三度目の人生も、僕は仲間たちと楽しんでいる。

 四度目も一緒がいいなあ。神様、お願いしますね。


(おしまい)





 







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