最終話 醜悪!! 怪人総攻撃の恐怖
それは、ある日のことだった。トクシュマンのメンバーに非常召集がかかり、彼らは着のみ着のまま基地に到着した。
「諸君! 深夜にも関わらず集まってくれて感謝する」
そう呟いたのは、この基地のオーナー兼司令官のオーヤ・サーンだ。彼は、基地の真ん中に置かれたリクライニングシートにどっぷりつかり、メンバーを出迎えた。
「なんの用ですか、大家さん」
「大家さんではない、オーヤ司令官と呼べ」
そう、トクシュマンのメンバーたちはオーヤ・サーンのアパートに住む住人たちであった。それを知る者は誰もいない。オーヤ・サーンも、近所の間では面倒見のいい大家さんと評判だ。
「あの、ボク、これから深夜のアニメ見たいんですけど……」
オタクグリーンの言葉にオーヤ・サーンは「たわけ!」とこたえた。
「深夜のアニメどころではないわ。いつまでたっても世間が騒がないために、業を煮やした怪人どもが結集して総攻撃をかけようとしているという情報が入ったのだ」
「なんでちゅって!? しょれは本当でしゅか、大家しゃん!!」
カミカミレッドは、噛みすぎて赤ちゃん言葉になっていた。
「本当だ、カミカミレッド。どうやら、きゃつらの攻撃目標は国会議事堂らしい」
「ふ、国会議事堂か。おおかた、国会生中継に乱入して政権を乗っ取ろうというのだな」
ミステリアスブラックが言うと、おばはんピンクは「あらやだ」と困った顔を見せた。
「まさか、政権を奪取して消費税を上がらせる気かしら。だとしたら絶対阻止しないと!」
ウチの家計は火の車よ! と叫ぶおばはんピンクに対し、誰しもが「今の政権でも増税の動きがあるだろう」と思ったが、みんな空気を読んだ。
「ともかく、怪人どもが国会議事堂に総攻撃をかける前になんとか止めなくっちゃ! このままじゃ明日最終回のアニメが見られないよ」
「ボソボソボソ……(そうだね、国会生中継に怪人が現れたら国会が混乱しちゃうもんね)」
「よし、行くぞみんな!」
「オウ!」
かくして、トクシュマンたちは国会議事堂へと乗り込んだ。
※
「誰だね、君たちは」
さっそうと現れたトクシュマンたちに、国会議事堂の警備員が怪訝な顔で尋ねた。
「オレたちは正義の使者、KY戦隊トクシュマンだ」
「えー、本部。応答願います。こちら、議事堂正門前。不審な集団が現れました」
「ちょ、ストーップ! 不審な集団じゃないよ、正義の使者だって!」
警備員は思った。
(やべーよ。超やべー集団きちゃったよ、どうしよう)
「突然こんなこと言うのもアレですが、避難してください。ここに、もうじき怪人の総攻撃がきます」
「ガイジンのソープ攻撃?」
ちょっと卑猥な言葉に、トクシュマンたちは声を荒げた。
「違うよ! むしろ、そんなのきたら嬉しいよ!」
トクシュマンも健全な男子だ。
警備員の言葉にかなりドキドキしてしまった。
おばはんピンクだけは白い目で見ている。
「えー、本部。応答願います」
「ちょ、ストーップ!!」
カミカミレッドは思った。
(自分ではうまく説明できん)
「つびゅやきブルー、あとは任せた!」
そして他人に任せた。
しかし、そこは健気なつぶやきブルー。
コクンとうなずくと、カミカミレッドに代わり警備員にわかりやすく説明を始めた。
「ボソボソボソ……」
「え?」
「ボソボソボソ……」
「え?」
「ボソボソボソ……」
「……」
「……」
「……」
「……えー、本部応答願います」
「だりゃ!!」
連絡を取ろうとする警備員をカミカミレッドは延髄蹴りで黙らせた。
「ばたんきゅー」と言って倒れる警備員。
その隙に、5人は国会の中へと入って行った。
正義の味方は、時には一般市民を傷つけることも辞さないのだ。
その頃、国会議事堂では予算委員会が始まっていた。
「内閣総理大臣」
議長の声が響く中、トクシュマンたちが議会に乱入した。
「そこまでだ!」
突然の侵入者に、眠りこけていた議員たちが起き出した。
「だ、誰だね、君たちは!」
「ここは国会だぞ!」
「永田町でコスプレとはけしからん!」
「コスプレ喫茶なら間に合っとる!」
議員たちが騒ぎだしたため、テレビカメラも一斉にトクシュマンたちに向いた。
「国会議員のみなしゃん、すぐに避難してくだしゃい! ここにもうじき怪人の総攻撃がきます!」
「ガイジンのソープ攻撃?」
「ちっがーう!」
議員たちの卑猥な言葉に、女性議員たちが嫌悪感をあらわにする。
「総理! ガイジンのソープ攻撃とはなんですか!」
「今のは女性を侮辱する発言ですよね!」
「どういうことですか、説明してください! 総理!」
そしてなぜか非難は総理大臣に飛び火した。
「内閣総理大臣」
議長の冷静な言葉に、総理は「はい」と席を立ち
「私にもわかりません」
ときっぱり言い切った。
「総理がわからないってどういうことですか!」
「お答えください、総理!」
「これだから国民は総理を支持しないんですよ!」
紛糾する国会。
トクシュマンたちは互いに顔を見合わせて、空いてる席に着いてとりあえず様子を見守ることにした。
「えー、あー、官房長官。これ、どういうこと?」
「さ、さあ。私にもさっぱり……」
その時である。
怪人たちが一斉に国会議事堂になだれ込んできた。
「フォッフォッフォ。ここがかの有名な国会議事堂か」
「ここを制圧して我らが政権を握るのだ」
「まずは消費税を上げようぞ」
「現れたな、怪人め!」
キャッホー! と叫びながら怪人たちの前に立ちはだかるトクシュマン。
正直、この後どうしようか焦っていたため、喜びを隠しきれない様子だ。
「ぬぬぬ、貴様らは!」
トクシュマンたちはカメラの前にサササッと移動して決めポーズを決めた。
「地球の平和をまみょ……守るためにけっしぇ……結成された正義の使者、カミカミレッド!」
「一か月先までのアニメはすべて予約済み! オタクグリーン!」
「ボソボソボソボソ……」
「消費税増税なんて許さない! 今すぐ税金を下げなさい! おばはんピンク!」
「敵か味方かわからない、でもここまで来たら味方だろうミステリアスブラック!」
「五人合わせてKY戦隊トクシュマン!」
カメラの前でポーズを取った瞬間、全国のテレビが一斉に「しばらくお待ちください」の画面に切り替わった。
「ぬうううう、トクシュマン。いつもいつも我らの邪魔をしおって~」
言いながら嬉しそうな怪人たち。
彼らもまた、好敵手を待ち望んでいたのである。
しかし彼らの目論見は早くも崩れ去った。
「最終兵器バズーカ!」
トクシュマンたちがバズーカをセットすると、永田町の議員たちもろとも吹っ飛ばした。
「えええええ!? 国会議員おかまいなしいいいいい!?」
怪人たちは一斉にバズーカによって吹き飛ばされて行った。
幸い、国会議員たちは懐に大量の札束を入れていたため、無事だった。
「怪人の暴挙はオレたちが守る!」
テレビカメラの前でさらにポーズを決めるトクシュマン。
しかし中継がつながっていないことを彼らは知らない。
そんな彼らをポカーンと見つめる国会議員たち。
いったい全体、どうなっているのか。
ぽっかりと穴の開いた国会議事堂。
その真ん中でカミカミレッドはカッコよく言った。
「みんな、選挙に行こうぜ!」
そう言ってダッシュで逃げ出すトクシュマンたち。
彼らの戦いはまだまだ続く!
次週「トクシュマン、選挙に出る」お楽しみに!
(悲しいお知らせ:上からの圧力でトクシュマンの放送は中止になりました)
完
最後までお読みいただきありがとうございました!
「これはヒドイww」と思っていただきながらも最後までお付き合いくださった皆様に心から感謝します。
KY戦隊トクシュマンは永遠に不滅です(たぶん)
また怪人が攻めてきたら復活しますので、生温かい目で見守っていてください。