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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
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第96話 これが我々のなれそめだ



 クマがいた。


 ルーアにとって、お兄ちゃんとも呼べる存在。それほどまでに親しいのだ。

 ……とはいえ。


「それにしたって、どうしてクマが……いや、いるのに不思議はないか。なんでルーアん家に?」


 疑問に思うことはいくつかある。そのうちの一つ……二重の意味を持った質問は、問い掛ける最中片方は自分の中で解決した。

 そもそもリミやセニリアという、限りなく人に近い種族が周りに多いので忘れかけていたが……


 異世界っぽくなったこの世界には、獣の顔をした人型の姿をした誰かとか、そもそも喋れる獣にしか見えない誰かとか、スライムとか、色んな種族がいる。

 だから別に、クマがいても不思議じゃない。もう異世界関係ない純粋な動物な気もするが。


 ということでもう片方の、どうしてクマがここ……ルーアの家にいるのかという、疑問が残った。それを汲み取ったのか、ルーアが答える。


「あれはそう、両親を失って一週間ばかり過ぎた頃……私は、ウサ晴らしのために、近くの山に篭って魔法を撃ちまくっていました」


「お、おう」


 答えるというより、語り出してしまった。

 なんともはた迷惑な話だが、両親を失った悲しみをぶつける矛先を探して、と言われては、おいそれと切り捨てるわけにもいかない。


「何発か撃って少しはスッキリしました。でもそこへ、現れたのがベアくんです。彼はなぜか、とても怒っていました」


「そりゃそうだろうな」


 おそらくはその山が、ベアくんの住み家だったのだろう。

 そこへ理由もなしに……いや理由はまあある寄りだが……あんな大規模な魔法を何発も撃ち込まれては、たまったもんじゃないだろう。


「これが、私とベアくんの出会いです……続く」


「続くの!?」


 別に聞きたくなかった話を、妙に気になるところで終わらされてしまった。

 本当にここで終わることはないだろうが、というより演出なのだろうが、なんとも引きがうまいというかなんというか。


 ここまできてわかったのは……達志はまだ、帰れそうにないということだ。

 聞きたくなくても、中途半端に話されると先が気になるものだ。なので達志は、目で先を促す。


 ――――――


『ここ、どこぉ?』


 当時私は、両親を失った悲しみを、ただ泣きわめくことでしか晴らすことを知らず。かといって、家の中でじっと篭っているのも嫌だったので、外に出ていました。

 結果、大泣きしながら町を徘徊する、なんともはた迷惑な中学生が生まれたのです。


 汗と涙と鼻水とあと色んな体液を漏らしながらも、私は歩き回りました。

 心配して話しかけてくる人はいましたけど、誰とも話したくなくてその度に逃げてましたね。


 そのうち気付けば、知らずのうちに山の中に迷い込んでいたのです。そりゃもう、泣きに泣きましたよ。ただでさえ両親がいなくなって辛いのに、見知らぬ所で一人ぼっちなんて。


 それでも私は、進みましたよ。もしかしたら人がいるかもしれないと思ったからです。

 結果として、人はいませんでした。けれどその代わりに発見したのがそう……


『……くま、さん?』


『ガウゥ……?』


 ……これが、私ルーアとベアくんの、聞くも涙語るも涙の出会いの物語です。


 ――――――


「終わり」


「終わっちゃった!?」


 ルーアが、同棲中のクマ……ベアくんとの出会い話を語り始めてから一分も経たないうちに、話は終わった。


「いや、はっや! こんな早い回想そうそうないよ!?」


「言ったでしょう、私とベアくんの出会いの話だと」


「本当に出会いだけとは思わないじゃんか!? てか魔法ぶっ放してベアくんお怒りの話はどこいったんだよ!」


 てっきり、出会いからの現在に至るまでの、なれそめを聞かされるもんだとばかり思っていたが、そんなことはなかった。

 宣言通り、きっかり出会いのみで、お話が終わってしまった。


 長丁場を覚悟していたため、少々拍子抜けだ。


「自分で言うのもなんですが、私たち男女のなれそめに興味ある人なんて、そうそういませんって」


「そんなことはねえだろ」


 やれやれと首を振っているルーアだが、そのようなことがあるはずがない。現に今、なれそめが気になって仕方ない男がここにいるのだ。


「いやいや、そんなに面白い話ではないんですよ。彼と一戦交えたとか、その果てに意気投合したり、帰り道にウサギの耳したおかしな女の子にベアくんが氷漬けにされたり、二人の出会いに乾杯ってことでクマ鍋食べたりした程度ですから」


「すげえや、気にならない要素が一つもねえ」


 そんな中途半端に話されては、ますます気になるではないか。なんだクマと一戦交える女子中学生って。しかも傷心中の。わざとか、わざと興味を引いているのか。

 それと今、何気にウサギの耳した女の子に氷漬けにされたと言っていたが……どう聞いてもリミな気がするんですけど。


 そりゃ達志の身近にいるのがたまたま、氷属性魔法を使えるウサギの獣の女の子なわけで、まったく確信はないのだが……なぜかそんな気がする。

 ルーアは気づいてないのだろうか。


「あ、一戦って言っても夜の、って意味じゃないですよ? 私がサキュバスだからって誤解しないでくださいねこの変態」


「聞いてないしものっすごい理不尽なんですけど!」


 聞いてもいないことを勝手に捕捉され、しかも勝手に変な想像をしていたことにされてしまった。とても理不尽だ。


「一戦って……まさか、素手で?」


「オフコース」


 クマと素手で戦う女子中学背、何者だよホントに……


 もうこのまま、根掘り葉掘り聞いてしまおうか。そう思っていた時だった。どこからともなく、突然女の声が響いてたのだ。

 苦しんでいるような、「アァー」と唸っている声が。


「な、なにこの声? ホラー?」


 ルーアの声ではないし、もちろん達志のものでも。まさかのホラー展開か? アパートなや幽霊が出てもおかしくないか? そもそも魔法が発展した世界で幽霊なんているのか?

 なんか話がまとまらないうちに、色んな要素が出てきて追いつかない。


「あ、リミからですね」


「着信音!?」


 めちゃくちゃ焦ったのだが、女の声の正体はどうやら着信音だったらしい。

 この家に来る途中に説明してくれた、スマホウとやらを持っている。


 その着信音にさっきのホラー声を設定するなんて、怖いというか紛らわしいというか。やめてほしい、本当に。

 あとリミをなんだと思っているのか。


「はいいもしもし。……えぇ、いますよ。はい、はい……タツ、リミからです」


「お、おう」


 電話の相手……リミは、どうやら達志に用があったらしい。スマホウを受け取る。

 ふむ、これはなんとも奇怪な……この画面と思われる場所耳に当てればいいのだろうか。


 放課後、ルーアと家に行くことは知っていたから、ルーアに電話をかけてきたのだろう。なぜ達志ではないのだろう。


「はい、もしも……」


「タツシ様! こんな遅くまでなにしてるんですか!! 心配したんですよ!!!」


 電話に出るなりめちゃくちゃ怒られた。ちなみに時間は、もう少しで夜の八時になるところだった。

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