第93話 魔法部活動内容
記事に、ルーアたちのことが載っていた。
「そう、これが我が魔法部の部活動内容! ただ魔法を撃ちまくって成長させるというのは仮の姿……!
その実態は! 『魔法を使ったボランティア活動』とでも言いましょうか!」
拳を握りしめ、天に掲げるルーアは、妙なポーズをとっている。
本人は「決まった」……という顔をしているが、あえてなにも言うまい。
それは置いといて、ルーアたちの活動は……新聞に掲載されるほど、世間に浸透しているということに、驚きだ。
それにルーアの言葉通りなら、彼女らは魔物退治だけではなく、いろいろなことをやっているのだろう。
しかしその部活内容なら『ボランティア部』でいいんじゃないかとも思ったが……部外者である達志が今それを指摘しても、意味のないことなのでやめた。
……ただ一つ。この部活内容を聞いてもわからわからないことがある。
それは……
「なるほどな、魔法部の活動はわかった。けど、これとアルバイト……どう関係するんだ?」
部活動としてアルバイトをしている……この台詞と、今明かされた魔法部の部活内容が繋がらない。
結局のところその部分が明かされておらず、混乱を生んだだけだ。さらなる説明を、達志は求む。
そんな達志を、まるで物分かりが悪い子供を見るような視線をルーアは向けた。そんな目で見られるなんて、心外だ。
「ですから、言葉通りですよ。魔法部の活動……ボランティア行為の対価として、報酬を貰っているんです」
そして、ゆっくりと、こう答えた。
「……ボランティア精神は!?」
その答えに衝撃を受けた達志の叫びが、部屋に響き渡った。
ルーアから明かされた、魔法部の活動内容。魔法を使ってのボランティア……なるほど大変素晴らしいものだ。素直にそう思った。
……彼女から最後の言葉を聞かなければ。
「ほ、報酬って……」
彼女ら魔法部は、依頼された仕事をこなす代わりに、依頼料を貰っているのだという。
そもそもそれではボランティアではないじゃないかとも思ったが、だからボランティア部ではないのかもしれないと納得もした。
だが問題は、そんなごちゃごちゃしたところではない。一番の問題は、だ。
「そもそも、新聞に載るくらい活躍してるっていっても、所詮は部活だろ? いいのかよ、学校の部活で金取っちゃって」
どれだけ世間に認知されていようと、あくまで部活というカテゴリー。だというのに、部活動で金を取るなんていいのだろうか。
普通にダメだと思うのだが。
それを聞いたところ、ルーアの答えは……
「こっちは生きるのに必死なんですよ! 金も貰わずボランティアとか、世の中そんなに甘くないんですよ!」
なぜかめちゃくちゃキレながら、こう返してきた。一人暮らしのルーアは、生活するためにアルバイトをしている。
そのアルバイトとは、部活動によるボランティア活動で、そこで報酬をいただいている。
つまり、アルバイト=部活動。その報酬で得たお金を、一人暮らしの資金に回しているわけか。
ルーアの黒い部分を垣間見た瞬間だった。
いや、ルーアの心情の問題ではなく、社会的に問題ではないのかと聞きたいのだが。
「えっと、報酬がルーアの生活費に当たるってことは……他の部員の報酬は? まさか、山分けした中からやりくりしてるのか?」
「いえ、部員のみんなは純粋なボランティア精神でやっているので。私が一人暮らしをしているのも知っていますから、報酬は全部私のものになりますね」
「こんなこと言うのもあれだけど恥を知れよ!」
部活動で得た収入(というのも変な言い方だが)をどうするのか……それは部員で山分け。というならまだよかった。
真相は、ルーアの一人取りのようだった。
他の部員は純粋なボランティア精神であるらしいから、報酬は必要ないのだと。よくもまあそれで、部活動が成り立つものだ。
ルーアの報酬総取りについて文句はないのか。
それを問うたところ、曰く……
「むしろ進んで私に報酬をくれますよ。みんな私の家の事情少し知ってますからね。両親がおらず一人暮らし……そんな事情を持ついたいけな少女のために、みんな奮闘してくれてますよ。
みんな、私のこと大好きなんです」
こんな台詞が返ってきた。こんなことしてるのも、部員が減った要因ではないのだろうか。
ルーアという人物……いやサキュバスは、思ったよりも自意識過剰な女の子らしい。見た目だけならば、校内二大美少女であるリミとシェルリアにも迫るものがある。
ただ、リミやシェルリアとは違い、かなりの自意識過剰さだ。
「しっかし……よくそんなんできるな。普通なら絶対ダメだろ……それも、ルインで山分けしてないんなら、もうルーアのためにあるような制度じゃん。
……まさか、報酬とかって学校に内緒なんじゃ?」
学校の部活で……というかそもそも学生がボランティア活動と称してその行いでお金を貰うことに許しが出るものなのか。
許しが出るのは問題だが、出ないのも問題だ。新聞には、魔物対峙云々しか書いていない。
もしや報酬とは、表に出ない部分で、こっそり受け取っているのではないか。
「失礼な! ちゃんと学校や国の許可は得てますよ!」
「国!? そこまで!?」
……思っていた以上に重たい言葉が返ってきた。学校どころか、まさか国という単語まで出てくるとは。完全に予想外だ。
「どうなってんのそれ。なにしてんのそれ。どうやったのそれ」
「ぶっちゃけ、リミ・ヴァタクシアのクラスメイトだって言えば、すんなり許可おりましたし」
「こいつっ……」
平然と言ってのけるルーア。確かにリミは向こうの世界での姫様で、彼女の父親は国王に当たる。それは、職権乱用では?
「……と、ここまでの話だと、まるで私が己が生活のためにクラスメイトの職権を乱用しているように聞こえますが……」
「え、違うの?」
「違いますよ!?」
ルーアに対して完全に冷めた目を送っていた達志。しかし、直後に届いたルーア自身による、彼女のフォローにさらに眉を寄せる。




