第83話 科学と魔法が交差したかもよ
透明であること以外は、一般のスマートフォンとたいした差はないように思える。
が、ルーアはなぜか自信満々に、笑みを浮かべる。
「これはですね~。こうやって手を離しても空中に浮くんです。そして、空中に表示されている画面をタッチすると……あら不思議! パネルが反応するではありませんか!」
「その顔やめろ腹立つ」
ドヤ顔のルーアをひっぱたきたい気持ちを抑える。……なかなかに凄い技術だ。
一見なにもない空間をポチポチしているだけだが、見ると確かに画面が表示されている。それを操作できているし、インターネットにも接続できている。
以前、あれから十年も経てば新しい技術とかできているんじゃないかと思ったが……
どういう技術なんだろう。
「それは、誰でも使えるの?」
「もちろん。それとこれも、一種の魔法ですからね。お値段は張りますが、誰でも気軽に魔法が使える機械です。
もちろん、タツもね!」
やたらドヤ顔で説明してくるルーアだが、達志は今目の前の技術に夢中だ。
なるほど、まさしく魔法と科学の融合体のようなものだ。思えば目覚めてからこういった道具には触れてこなかった。
だが思い返せば、リミはセニリアはたまに、なにもない空間をポチポチしているときがあった。
頭がイカれたのかと思ったが、それには理由があったのだ。
こうして両方の世界の技術が合わさっているものを見ると、なんだか感慨深い。
……だが一方で、気になることもある。
「けど、どうやってネットに接続してんだ? それにWi-Fiとかどうなって? スマホに比べて使いやすさは?」
「…………まあそういった込み入った話は後で」
あっさり流された。込み入った話かはわからないが、どうやらルーアにはわからないこともあるということだ。
あれだけドヤ顔をしておいて、格好つかないものだ。
「それとタツ、常々思っていたんですが、スマホではなくスマフォだと思うんですよ。正式名称はスマートホンじゃなくスマートフォンでしょう? ならば略称も……」
「それこそ後でよくない!?」
妙なこだわりのようなものを見せるルーアだが、それも含めて一旦置いておこう。本題はそこではない。
そもそも、こういう話になった原因は……
「で、歩きスマホウ? がなんだって?」
ニュアンスとしては、歩きスマホと同じようなものだろう。歩きながら、スマホウを操作している。
先ほどルーアが、歩きスマホウがどうのこうの、と言ったからこういう話になったのだ。
それを聞いたルーアは「そうでした」と手を叩く。
「あそこ見てくださいあそこ。ほら、歩きスマホウをしている男がいるでしょう?」
「ん……あぁ、いるな」
先ほどの男を指し、ルーアは言う。すでにお互いすれ違っているため、達志に見えるのは男の背中のみだ。
「十年経ってもああいう輩は減らねえんだな。で、あいつがどうしたの?」
歩きスマホをしている人をよく見かける世の中では、歩きスマホウも珍しくないのではないだろうか。
どうしてわざわざあの男を、歩きスマホウをしている人間を指したのか。
その真意を聞くと、ルーアは……
「やれ不注意で事故るだのやれ若い奴に多いだの……ああいうのがいるから、同じような年齢の私たちまで同じ目で見られるんですよ? いい迷惑ですよね」
「お、おう……そうだな」
「そもそも、歩きながら操作する意味がわかりませんし。そこまでしてしたいことがあるなら、立ち止まってしろってことですよ、気持ち悪い」
小馬鹿にしている、というよりは、もはや敵意のようなものさえ見える。ルーアがこうも毒を吐くとは。
なにかあったのだろうか。
「し、調べ物とか緊急の用事じゃないの?」
「ならなおのこと、立ち止まってやればいいとは思いませんか。あんな風にボチポチポチポチと気持ち悪い。
……あ、今あの男、女性にぶつかったのに謝りもしませんでしたよ、死ねばいいのに」
「おいっ、さらっと言ったな?」
ルーアの毒は止まらない。まあ、言わんとすることもわからんでもないが。
「あ、今のはさすがに言い過ぎでしたね。死なない程度に車にはねられて事故れ……いやそれだと相手側に迷惑がかかりますね。
……一人で転んで怪我すればいいのに」
「お前、何かあったの? 執念がすごいよ?」
「ああいう輩は一回痛い目にあわないとわからないバカばかりというか、人の迷惑を考えない自己中クソ野郎だからこの私が直接……」
怨念というか呪いのような言葉をぶつぶつと並べるルーアは、もはやこちらの声が聞こえてないようだ。
女の子が言っちゃいけないような言葉を放っている。言葉に力が宿るなら、それだけで相手を殺してしまいそうだ。
こんなところで本当に魔法を撃たれては敵わないし、このままではラチがあかない。なのでルーアを半ば引っ張るようにして、足を進める。
ルーアは小柄だし、以前ならば抱えて移動できたかもしれないが……今は、無理だ。残念ながら。
その間もルーアは、呪詛語を発し続けていた。とりあえずビンタしたら、正気に戻った。




