表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
79/184

第78話 この後めちゃくちゃ丸焼きにした



 魔物の登場により、試合中断。

 達志や、テニス部部長ヤーと、部員シェルリアに励まされていた。


「まあ、一人になって落ち込みまくるよりマシか。……なにやってんすか先輩」


「部長でいいよ~。なにって、慰めてあげてるんだよ~。ほれほれー、どうよこのフサフサの感触は」


「あー、なんか昔野良猫にされた猫パンチを思い出して……あ、痛い! ちょ、爪が! 爪が当たってチクチクするんですけど!」


 人とは違う、毛のフッサフサな手。それで頬を突かれているのだが、時折爪がチクチク刺さって痛い。それも、微妙な痛みだ。

 それを見てか、傍らのシェルリアはおかしそうに笑っている。あぁ、笑顔も天使のようだ。

 これを見ているだけで、疲れも痛みも吹き飛んでしまいそう。


 うーん、マルクスに借りを返さなくてはいけないし、なにより人間関係がいい。やはり、テニス部に入ろうか……そう思い始めたときだった。

 聞こえてはいけない声が、聞こえてきたのは。


「やっぱり丸焼きですかね……?」


「いや、切り分けて天ぷらにしても美味いんじゃないか?」


 ……それは、食べ物関係の話だった。そこだけ聞くと、なにか料理をしよう、献立を考えよう、という程度なんだろうという考えだった。

 だが、今の会話……リミとマルクスが話している内容に、なぜか胸騒ぎがする。


 ……いやいや。ないない。考えすぎだ、だってそんなわけがないだろう。


「うーん、悩みますね。なんにでも調理できるけど、調理の幅が広すぎるっていうのも考えものてすよね、魔物って」


「そうだな。肉類にも魚類にも成りうる。調子の仕方によって部類が変わる珍しい生態だ。

 調子の仕方に楽しみを見出す。そこが唯一のいいところと言ってもいいな、魔物の」


「わー! 聞こえない聞こえない!」


 今、はっきりと魔物と口にした。耳を塞ぐが、それはもう遅かった。聞いてしまったし、内容が内容だけに頭にこびりついて離れない。

 今、なんと? 調理? 魔物を? ……マジか。


「いきなりどしたよたーくん。突然叫ぶなんて、思春期かい? おねーさんの猫手に興奮しちゃった?」


「たーくんじゃないし、そんな特殊性癖持ち合わせてないです。

 ……じゃなくて!」


 マルクスをまーくん、達志だからたーくんなのだろうか。

 妙なあだ名を付けられるマルクスの気持ちが、少しはわかった気がする。


 だからといってマルちゃん呼びをやめるつもりはないが。

 だが、今考えるべきは、それではない。


「今……俺の聞き違いじゃなかったら、その……魔物を調理する……つまり魔物を食べるって聞こえたんですけど。

 あはは、まさかね。そんなことあるわけ……」


「食べるよ、魔物」


「食べますよ、魔物」


「聞き違いであってほしかった!」


 かなり嫌な予感を事実だと言われ、頭を抱える。食べるのか……アレを。

 二つの意味で食べられるのか……アレを。


「すげー体に悪そうなんですけど」


「手順を守って調理すればなんの心配もないよ」


「見た目からもう食欲失せるんですけど。シェルリア……さんも、食べるの? 魔物怖いのに?」


「呼び捨てで構いませんよ先輩。えぇ、まあ見た目はなんとか我慢すれば……ゲテモノほど美味しいって言いますし」


 魔物が現れたことどころか、魔物を食べることに関しても動じないのか、ここのは人たちは。

 たくましいのレベルを超えている気がする。


「いやゲテモノすぎだろ! 口の中に触手エイリアン飼ってる奴よ!?」


「お、エイリアンか。なかなかいい例えだね~」


「はい、素敵です」


「食いつくとこ違う!」


 達志の心配は伝わらない。なんでこの二人は、こんなどっしり構えているんだ。

 怖い、今目の前の猫獣人さんとエルフ少女さんが怖いよ。


 あれか、おかしいのは俺なのか? と、ついには自分を疑う達志。周りを見ると、とても馴染んでいる。

 これが普通なのか、この世界じゃ魔物を食うのか。こんなグロい生き物を食うのか。


「それにしても、ウサギちゃんがいてくれて良かったよ。火と水の属性の複合である氷。複雑な魔法な上に、加えて彼女ほどの魔法使いはそうそういない。

 いやぁ、なかなかの大物だし、いい感じに冷凍保存できてよかったよ」


「れい……とう」


 おかしい。途中までリミの優秀さが語られていたはずなのに、最終的に食材の保存方法に至ってしまっている。

 ああ嫌だ、考えたくないが……想像してしまう。


 今おそらく向こうでは、倒した魔物をリミの魔法で凍らせて、文字通り冷凍保存しているのだろう。

 だからリミが呼ばれたのか、納得!


 ……したくない。


「タツシ様ー! タツシ様はどんな食べ方がお好みですかー!?」


「おぅっふ……」


 そのタイミングで、手を振ってやって来る少女がいる。今この時はリミが、未知のゲテモノを食べさせようとしている悪魔に見える。

 普段と変わらない気もする。


 リミお手製の料理といい、リミと食べ物のセットでいい思い出がない。


「いや、俺は……」


「どうします!? この人数ならオススメは丸焼きなんですが、タツシ様が食べたいものがあれば!」


「いや……」


「さあさあ! タツシ様!」


「…………」


「さあ!!」


 この後めちゃくちゃ丸焼きにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ