第69話 魔物だっているさ、ファンタジーだもの
「いやー、ゴリラがウホウホうっさかったんで帰ってきたわ」
「……戻って早々なにを言っているんだ貴様は」
ガラガラ……と保健室の扉を開くなり、中に入ってきた人物……達志が発した言葉を受けたマルクスは、意味がわからないと眉をひそめていた。
戻ってくるなり、なにを意味不明なことを言っているのか。
同時、呆れたようにため息を漏らす。
「いや、言葉通りの意味だよ。なんか途中から話すのめんどくなって……」
「いやいや、なにしに行ったんだよ!」
「後はムヴェル先生に任せればいいかなって」
「適当だな!」
時間を無駄にしたぜ、と、なぜかトサカゴリラへの嫌悪感が増している達志。その姿に、マルクスはもはやなにも言えない。
保健室では、血を見て倒れていた保健医パイア・ヴァンは、すでに起き上がっておいた。
ルーアは、どこから迷い込んできたのか猫を相手に、猫じゃらしで遊んでいた。なんだこの光景。
「うわぁ、猫だ!」
その光景を不思議に思っていないのか、猫を見たリミは目を輝かせて、駆け寄っていく。耳と尻尾を揺らし、嬉しそうだというのが丸わかりだ。
猫とじゃれあうロリっ子とケモ耳娘。なんとも不思議で微笑ましい光景だ。
「まあ、なんで猫がここにってツッコミは置いとくとして。どうせ窓から入ってきたんだろうし。
聞きたいことがあんだけどさ」
「あぁ」
「今日ってこの後どうなんの? ヒャッハーな集団が来たわけだけど……」
女子たちの微笑ましい光景を目の隅に映しながら、達志は気になっていることをマルクスに問う。
いかにこちら側に被害が少ないとはいえ、学校であのような騒動があったのだ。
普通ならば、早々に帰宅といったところではないだろうか。
だが学校からは、なんの連絡もない。というか……みんな、落ち着き過ぎではないだろうか?
それともこれが普通なのか。十年経てば現実など、ファンタジーで魔法で世紀末なのだろうか。
「まあ、そうだな。時間としては……まだ六時限目ができるから、もう少ししたらやるんじゃないか?」
「授業再開すんの!? この状況で!?」
「ちなみに放課後は部活動も普通にある」
「たくましすぎだろこの学校! というか人たち!」
あんな騒動……言ってしまえば小さなテロだ。そんなことがあったというのに、そのまま続けてしまうのか。
考えてみれば、他のクラスや学年の人間も出てこないし。なんてことない騒ぎなのか。
「まあ、今時こんなこと珍しくもない。この学校だけが特別なわけではではないし、人じゃなく魔物が現れることなんてしょっちゅうだしな」
「……へー、そうなん……へ?」
テロだろうがなんだろうが、どうやらこの学校……いやこの世界の人たちには関係ないらしい。
むしろ珍しくもないと聞いて、物騒な世の中になったと達志は若干引き気味だ。
その一方で、今の言葉の中にものすごく、興味をひかれるワードがあった気がする。
「今、なんて? 魔物?」
「え、あぁ……あぁそうか。まだ聞いてないのか。いるぞ、魔物」
どうやら聞き間違えではなかったらしい。魔物という存在が、確かに、この世界にいると。
それを聞いた達志のテンションは一気に上昇する。
思えば、魔法なんていうファンタジーなものが存在する世界になっているのだ。だとしたら、同じくファンタジーな魔物という存在があっても、おかしくはない。
「おぉー、なんか異世界っぽい! ファンタジーっぽい!」
「お、おう」
「良かったなタツー」
目を輝かせる達志に、今度はマルクスが若干引いている。が、今はそんなの関係ねえ。
ここにきてまた、一気にファンタジー要素が強まったのは、なんだかワクワクする。
それにしても……今頭上に乗っているスライム。彼も、言ってしまえば魔物の部類ではないのだろうか。人ではないんだろうし。
……そう思いながらも、実際には聞けない達志である。
「じゃあ、もしかしてこの学校でも飼ってたりすんの!?」
「ペットか! ……魔物なんて、とてもじゃないか手懐けられるものじゃない。そもそも本来なら、こっちの世界に干渉してくること自体おかしいんだ」
「へぇー?」
てっきり魔物というやつに会えると思っていたのだが、どうやらそれは叶わないらしい。残念だ。
当然だが魔物は元々異世界……サエジェドーラに生息していた生き物だ。
マルクスの話によると、そもそも魔物が世界を渡ってこちらに干渉してくることが、おかしいのだという。
「あれ、ってかサエジェドーラ……マルちゃんたちがいた世界って、滅びたんじゃなかった?」
「誰がマルちゃんだ。……正確には人の……いや『生物の住める環境ではなくなった』、だ。
魔物という存在を除いてな」
魔物以外が住めなくなった世界……それが、サエジェドーラの現状。
魔物以外だなんて、そんなピンポイントなことあるだろうか。あるんだろう。
「そもそもさ、魔物って何? マンガとかじゃよく見るけど、実際に」
「知らないのに飼ってるか聞いてきたのか!?」
素朴な、しかしわりと重要な疑問が浮かぶ。魔物という存在についてだ。
「それは……あれだ。なんか、ただのモンスターに邪悪なアレが入って生まれる……?」
「いっきなりざっくりした説明になったぞ! さっきまでの自信満々な様はどうしたよ!?」
「仕方ないだろ! 魔物の存在については諸説様々なんだ!」
とはいえ、さすがにざっくりしすぎだろう。
見た目は不良でも、中身は優等生のくせに。と愚痴りそうになった達志の頭上から、声が降り注ぐ。
「まあマルちゃんの言うように、魔物についてはいろんな説があるんだけどさ。一番有力なのはこれだぜ」
「ヘラ……」
「人間の邪な心から生まれる穢れたなんかが魔物になるとか、生き物に乗り移って乗っ取るとか」
「あれ、一番有力説も途中からざっくりしてきてない? というか、マルちゃんの説明とそんな変わんなくね」
魔物についての説明云々はざっくりしているが、一応大まかなものはわかった。とにかく、魔物は良くない生き物、ということだけ覚えておけば問題ないだろう。
せっかく魔物に会えるかと思ったが、危険ならばやめておいた方がいいだろう。
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