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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
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第65話 訴えたら勝てる



 血を見て気分が悪くなったパイアは、今ベッドで横になっている。逆にベッドに寝ていたリミはすっかり元気になったため、ベッドから立ち上がっている。

 要するに、リミが寝ていた場所に、パイアが寝ているのだ、今。


「……え、何この状況」


 先ほどまで怪我人だった人物を診るために来た保健教師が、回復したとはいえ怪我人と入れ代わりにベッドに寝ている。

 なんとも珍妙すぎる光景である。


 青ざめた顔のまま、パイアはベッドに横になっている。先ほどまでとの温度差で、逆にこっちが青ざめそうになる。

 リミは結局、体調は回復したし……まあ、つまり……


「先生が来た意味がまったくなかったってことだな」


「はぅ!」


「イサカイ、お前ホント容赦ないな」


 とりあえずリミが動けるようになったので、達志としては目的は果たせたわけだ。

 結果的に、パイアを連れてきて血を見せた挙句に、気分を悪くさせたというものになったわけだが。


 さて、とにかくリミが回復したのだ。ちなみにセニリアは帰った、窓から。

 で、達志にはもう一つ行きたいところがある。


 先に行っておいてもよかったのだが、眠ったままのリミを一人にはできなかった。それに、ちゃんと目覚めるまで自分で、待っていたかった。

 状況はかなり違うとはいえ、眠りから目覚めた時に誰も居ないというのは、不安になることを、達志は知っている。


「で、タツの行きたいとこって?」


「あぁ。ほら、生け捕りにしたトサカゴリラの行く末を見届けたくてさ」


「そこだけ聞くとものすごい不穏ですね」


 そう、達志が気になっていたのは、リミの魔法……ではなく、ルーアの魔法がほぼ直撃したことにより、気絶したトサカゴリラの現状だ。

 ちなみに、何度もトサカゴリラと呼んでいたため、もう本名を覚えていない。トサカに関する名前だった気がする。


 別にトサカゴリラがどうなろうと知ったこっちゃないが、行く末がどうなるのかは気になるところ。まあ、野次馬精神だ。


「そんなわけでゆ……如月先生。トサカゴリラ今どこにいるか知ってる?」


「さっきからトサカゴリラトサカゴリラって言ってるけど、ちゃんと蛾戸坂って名前があるんだよあの子」


「……そんな名前だっけ。いやあ、だって見た感じトサカから生えたゴリラだしさ……うん?」


 そうそう、そんな名前だった。すぐに忘れそうだが。

 ちゃんと名前を覚えているなんて、律儀だなぁと思う……が、ふと、今の会話に違和感を覚える。


 気にしすぎかも、しれないが。


「あれ、聞き違いかな。今トサカゴリラのこと、『あの子』って言わなかった?」


 聞き違い……ではないようにも思うが、それでも聞き違いであることを願う。今由香は、トサカゴリラこと蛾戸坂を『あの子』と言ったのだ。

 その表現は、大抵は年下相手に使うもの。由香は二十七歳……まさかあれで二十代だとでも言うつもりか?

 とても悪い冗談だ。


 いやそれ以前に、名前を訂正したりとした由香の口振りはまるで、知り合いを説明するかのようなものに思える。


「え、だって……あ、そっか。たっ……勇界くんは知らないんだっけ」


「いや、知らないってなにを……」


蛾戸坂 鶏冠(がとさか とさか)くん。彼、ウチの学校の生徒だよ?」


「……………………え」


 聞き違い……どころの話ではなかった。由香の口から語られたのは、それは到底信じがたいもので。

 話を続けようとする由香。しかし、達志は『ストップ』と自分の手でジェスチャーをして、ひとまず深呼吸。


 とりあえず落ち着いて、それから自分の耳を指で軽く刺激。最後にもう一度深呼吸をしてから……


「悪い、もう一度頼む」


「あ、うん。えっと、蛾戸坂 鶏冠くん。彼、ウチの学校の生徒だよ」


「嘘だろぉおおおおおお!!?」


 やはり聞き違いでもなんでもなかった。それは、とんでもない衝撃だ。あまりの衝撃で吐きそうなくらい衝撃だ。

 あまりの衝撃に立っていられない。その場に膝をつき、崩れ落ちる。


 だって……あれが、この学校の生徒なのだという。とても冗談を言っているようには見えないし、冗談ならどれほどいいだろう。

 だって、あれが由香より年下どころか、自分達と同年代なのだという。そんなの信じられない。


「だって、どう見ても三十……いや四十はいってるおっさんだったじゃん!! あんな貫禄しといて、学生とか嘘だろ!?」


「この上なくストレートに言うよなタツって」


「あ、そっか。きっと何十年も留年してるんだろ! それなら学生のまま、五十歳くらいでもおかしくない!」


「なんで増えていくんだ。現実を受け入れろ。彼はまぎれもない、年齢十八歳の高校三年生だ」


「一個上ぇええええええ!!」


 今自分たちが二年生で、トサカゴリラが三年生。あれと一つしか違わないなど、信じられない。というか信じたくない。

 本来であれば、達志は今より十年の時をその身に刻んでいたはずだ。

 だが、今より十年を足したところで、アレに見た目では遠く及ばないだろう。


 まあ詰まるところなにが言いたいかというと、あれで高校生なのは詐欺だ、ということだ。

 詐欺どころではない、訴えたら勝てる。

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