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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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第5話 異世界移住のお話



 当たり前のように獣人が存在し、そして魔法まで存在する世界。その世界観はまさしくファンタジーの物語であり、しかしこれは現実の物語。

 こんな世界になったのには、当然理由がある。


 異世界を渡ってのお引越し。それが、十年前に起こった、歴史的にも類のない出来事である。その頃には達志は眠りについてしまっており、この歴史的大事件を彼は知らない。


 だからこそ、彼の混乱を招いていることに他ならないのだが。


「引越し……」


 お引越し、と聞くと、多少なり親近感のようなものが湧いてくる。なぜならばそれは聞き慣れたごく普通の言葉であり、馴染みも深い。

 ……とはいえ、それが世界を渡ってとなると話は変わってくる。


 家から家へ、県から県へ、などと一般的な移動などではない。

 世界から世界へと、常識的には考えられない、とんでもなく規模の大きなものだ。


「そう、引越し。ま、言葉では簡単だけどね。……世界間を渡る技術はあった。だからこそ世界間の交流もあったわけだしね。

 けど、一つの世界に住まう者たち全てを移住するとなると、それはそれは大変なことでね」


 世界を渡った引越し……それを大変と称するが、大変の一言で済ませるには控えめ過ぎるものだろう。その光景を見ていない達志には、実際どんなことがあったのかはわからない。


 やはり控えめな表現になるが、大変……な出来事であったのだろうが、想像するには達志の頭では力が足りない。


「私達の住む世界は、サエジェドーラという名でね。

 純粋な人間はもちろん、我々のような獣人、エルフ、ドラゴン、スライム……と、多種多様な種族が暮らしていたんだ」


「それはまあ……なんか予想つきました。えと、魔法とかも、ですよね」


「あぁ。サエジェドーラでは、魔法が発達していてね。そしてキミたちの世界では、科学が発達している。それらを共有し、ギブアンドテイクの関係で二つの世界の交流が成されていたんだね」


 話されるサエジェドーラという世界。それはまさしく、達志の知るファンタジーの世界。

 その世界と、自分達の住んでいる世界に交流があったなどと、そんな夢物語のような展開が起こっていたとは……


「なんか……すごいかも」


 異世界との交流など、夢物語の話だと思っていた。よくテレビで宇宙人と交信する、霊と交信する、などと、興味は持っても信じてはいなかった達志。

 だからこそ、現実にそんな出来事が起きていたことに、達志は興奮を隠せない。


「そもそもの始まりは、二つの世界の波長が干渉したことが原因と言われている。以前から王国では、異世界に対する交流を目的に研究が重ねられていた。

 そのうち、その方法を見つけ、異世界へ渡る術を見つけ出したとされている。ま、我々一般人には深い事情は聞かされてないんだけどね」


 どうやら、世界間の交流、それを先に発見したのはサエジェドーラの方らしい。

 よって、異世界を渡る方法が判明し、交流が開始されたということだ。


「交流は、順調だった。お互いがお互いの良いところを提供し、尊重する。とても良好。

 ……しかし、平和はそう長くは続かなかった」


 始まりはいろいろあったが、それも時間の問題。後にあるのは平和な両世界関係。科学を、魔法を……

 お互いの世界にしかないことを共有し、それを技術として組み込んでいく。

 平穏で尊い時間…………しかし、異変は唐突に訪れる。


「交流が始まって、一年と少し……だったか。そのくらいの時間が経った頃。すっかり両世界間の交流は日常的なものとなっていた。

 その頃だよ、サエジェドーラに異変が起こったのは」


 それはまだ、異世界交流が公に発表される前のこと。異変が……いや、異変というには言葉が足りない。この場合は……


「異変、というのは適切ではないね。我々はそれを、災厄と呼んでいる」


「……災厄?」


「あぁ。…………災厄だ」


 それは何の前ぶれなく訪れた。今から十年と少し前、サエジェドーラを襲ったもの……それは、原因不明の災厄だ。

 空気の中になにか紛れたのか、それとも水に異変が起きたのか、はたまた別のなにかかわからない。


 災厄の訪れと、異世界感交流の開始時期はある程度重なっている。

 異世界との交流を始めたのが災厄の原因ではないか……とも噂されたが、どうやらそれは関係ないというのは、証明されている。


 原因不明の災厄。……草木は枯れ、空気は汚れ、生き物にも害を及ぼす。

 害……とは具体的には、体が石のように動かなくなる、砂のように崩れ落ちる、原因不明の病に見舞われる……といったものだ。


 症状に一貫性はないが、それは最悪死をもたらす呪いとも言えるもの。


 だが、この『生き物』とは、知性なき獣に限られた。知性ありし生き物には何故かなんの害もなく、災厄によって犠牲となった者はいなかったのだ。

 もっとも、家畜などが犠牲になったため、間接的に彼らの生活は脅かされた。

 人々の生活に影響をもたらし……また、人々にもいつ牙をむくか、わからない。


 細菌とも、毒とも、はたまた科学兵器とも噂されていたが、真意は定かではない。

 死を運んでくるそれを、なにと断定することも出来ず、彼らはそれを災厄と呼んだ。


 これを災厄と呼ばずして、なんと呼ぼう。死を呼ぶ、最悪の災厄。


 それはすぐに広まることはなく、しかしゆっくり、ゆっくりと世界を侵食していく。それが世界を覆いつくすほどに蔓延していけば、世界は存亡の危機に陥ることだろう。


 災厄を回避する方法……そこで提案されたのが、異世界への移住計画だった。


「けれど、原因不明の災厄……それが発生した世界の住人の移住など、簡単に認められるものではなかった。空気感染はしない……など解明はされていたんだけど、それを証明するのもなかなかね」


 元々、異世界の者を受け入れることに抵抗はあるだろう。それに加え、原因不明の災厄が起こった世界の住人。

 当然といえば当然であろうが、災厄の存在が邪魔をし、話はうまくは進まなかった。


 とはいえ、いつ腐敗しゆくともわからないサエジェドーラ住人に、時間は残されていない。


「話は平行線。いつ終わるともわからない話し合いは……しかしある時唐突に終わりを告げたんだ」


 終わりの見えない話し合い。このまま平行線で進むのかと思った話し合い。

 それは、唐突に終わりを告げたのだ。


「話し合いがまとまったってことですか?」


「あぁ。十年前に起こった、"とある出来事"が決定打となり、結果異世界への移住が決定したんだ」

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