表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
53/184

第52話 平和で平和ではない昼休み



 "嫉妬"……その言葉を口にした瞬間、マルクスの肩が跳ねたのを、達志は確かに見た。

 それは達志の言葉の肯定を意味しており、他人のそういう感情に鋭い達志は確信を得る。


 クラスメートの女の子が、別の男の子の彫像を作っている。それに嫉妬していたのだとしたらそれはもう……


「ははーん、マルちゃん、さてはお前リミのことすむぐっ!」


「な、なにを言おうとしてるんだキミは! バカなのか!?」


 確信を持った一言を告げようとするが、それはマルクスにより妨害される。慌てたように口を塞がれてしまった。 

 先ほどルーアが、リミの好きな人を暴こうとしたのをリミ自身が止めたときのと、同じようだった。


 それにしても、この反応こそが答えのようなものだ。リミへの厳しめの言葉は、おそらく好きな人に素直になれない性格ではないだろうか。

 好きな人に意地悪をしたくなる心情と似ている、それはまるで……


「ぷはっ……小学生かよ」


「なんだか知らんがものすごく失礼なことを考えているな」


 なにはともあれ、マルクスはリミのことが好きなのであろう。恋愛的な意味で。

 だから、リミが達志型彫像を作っていたのが気に入らなかった。壊すのはやり過ぎだと思うが。


 堅物のような雰囲気を醸し出しておいて、なかなかかわいいところもあるじゃないか。


「まあ……もぐもぐ……頑張れよ……むしゃむしゃ……諦めなきゃ……ごっくん……なんだってできるし……げっぷ……」


「まったく嬉しくない失礼な応援な上に、すごい上から目線だな。それと誰にも話すなよ?」


「んなヤボは……ごくごく……しねえって……ぷっはぁ……」


「信用できないなこいつ」


 マルクスの思わぬ秘密が暴けて、弱みを握れた感覚になり、達志としては大満足。

 その後も、リミやヘラクレスやルーア、クラスメートたちと、和気あいあいとした空間を過ごしていく。


「なあ、ゆ……如月先生が、仲間になりたそうにめっちゃこっち見てんだけど」


「隠れてるつもりなんですかあれ。尻隠して頭隠さずですよ」


 久しぶりの学校で、すっかり変わってしまった環境。そこで過ごすクラスメートは、どいつもこいつも難ありだが、いい奴らばかりだ。

 教師も、厳しめのムヴェルと優しめの由香とで、いい感じにアメとムチが完成している。


 このクラスでなら、これからも楽しくやっていけそうだ。笑いあっているクラスメートたちを見て、そう、思っていた。



 ドゴンッ!



 そんなことを考えていた瞬間……平和な空間には似つかわしくない、なにかが爆発したような、巨大な音が鳴り響いた。


「な、なんだ!?」


 突然の爆音。平和な昼休みは、無粋な音に邪魔される。爆音とともに、まるで校舎が揺れたような感覚を覚える。

 先ほどの、ルーアの爆発魔法を思わせる。


 驚き達志は、急いで窓の側へ。外を覗くとそこにあったのは、バイクに乗った集団が、校門をぶちやぶって入ってきている光景だった。

 テレビでしか見たことがないが、まるで暴走族だ。


「オラオラァ! オラ! オラオラァァアア!」


「……え、本当になにあれ」


 わかりきったことだが、完全に敵意剥き出し。友好の欠片もない。

 その先頭にいるのが、先ほどから「ヒャッハー」と叫んでいる男。まるで薬でもキメてるんじゃないかと思えるほどに、いい具合に頭のネジが外れている。


 だが問題なのは、そんな暴走族がなぜ学校に突撃してきたのか、ということだ。


「あれは……この辺で有名な、暴走族だな」


「へ?」


 隣から聞こえる言葉に、達志は視線を向ける。そこにはいつの間にか、マルクスが立っているではないか。

 マルクスはあれを、暴走族だと言った。暴走族みたいだとは思ったが、まさか本当に暴走族だとは。


 達志が眠る前の世界でだって、あんな世紀末みたいな暴走族は希少種だっただろうに。十年経ったこの世界で、まだあんなのがいるのか。


「知っているのかいマルちゃん」


「マルちゃん言うな。有名だと言ったろ。

 ……最近世間を騒がせている、暴走族の集団だ。で、先頭にいるあの男が、リーダーの蛾戸坂 鶏冠(がとさか とさか)。手配書も出回っているし、ニュースで見た顔だ、間違いない」


「……ぷ、ふふ……ぷはは! が、がとさかって……とさか、トサカって……ぶはははは!」


 そこまで聞いて、ようやく思い出した。確か入院中、暇だからとつけていたニュースの中に、そんな話題があった。有名暴走族の話。

 興味ないし忙しいで忘れていたが……


 それにしても、リーダーの名前を聞いた瞬間、達志は腹を抱えて笑う。

 リーダーの蛾戸坂だが、その頭はモヒカンヘアー……ますますいつの時代の人間だと言いたくなる。見ようによっては、ニワトリのトサカにも見える髪型だ。


「どうした? 狂ったか?」


 しかし、そんな達志の情緒が伝わるわけもなく。マルクスが若干……いや露骨に引いた顔をする。

 いかんいかん、ただでさえリミの件でよく思われていないのだ。これ以上評価を下げかねない行動は、慎むべきだ。。


 それに、よく思っていない達志に、わざわざ情報を教えてくれるのだ。思いのほかいい奴かもしれない。

 優等生っぽいから、その性というだけかもしれないが。


 ちなみにさっき聞いたが、マルクスは男子の、そしてリミは女子の、男女それぞれを代表したクラス委員らしい。


「ぶふふ……わ、悪い悪い。それよか……暴走族なのに学校来るってどういうことよ、なんのつもりだ?」


「知らん、あいつらに聞け」


「おや、あれは……」


 あのモヒカン共の目的がわからない。そんな中、窓の外を見つめるルーアが、声を上げた。

 それは、あの暴走族に興味が湧いた、という意味のものではなく……


「あいつら、以前私の魔法の実験体になってもらった連中じゃないですか」


 あの暴走族に心当たりがある……そういう意味での、発言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ