第44話 えんもたけなわとなりまして
それにしても、だ。今こうして正座をさせられてしまっているわけだが……改めて、目の前の光景のすさまじさを感じる。
ポンコツウサギ姫、馴れ馴れしいスライム、中二ロリサキュバス、不良っぽい見た目の優等生眼鏡、ケンタウロスの担任教師、自分のクラスの副担任になっていた幼なじみ……
字面だけ見たら、とんでもない。
他にも、様々な種族のクラスメートがいる。
それに、ファンタジーびっくり人間だけでなく、達志や由香と同じ、純粋な人間もいる。
この星出身か、それとも異世界出身かは、見ただけではわかりかねるが。
「ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい」
落ち着け落ち着けないと言い合うスライムと少女。正座中うなだれている少女。ぶつぶつ言っている眼鏡。面白いものを見学する姿勢のクラスメイト。
これが、達志がこれから過ごしていく世界なのだ。
「ぷっ……」
思わず、吹き出してしまう。これが日常……はさすがに騒がしすぎるが、こんな日々が続くのか。
想像して……その、楽しげな光景に、思わず笑みがこぼれたのだ。
だがその笑いを、少女は聞き逃さない。
「あぁ! 今、今笑いましたね!? 私を笑いましたね!?」
「ごめんごめん。てか、別にルーアを笑ったわけじゃないって」
この場で笑ったのが不思議だったのだろう。
リミは純粋に疑問を浮かべ、マルクスは大丈夫かこいつ、といった視線を向けてきている。
その視線に物申したいところだが、放置しておこう。勘違いしてしまっているルーアに、説明するのが先だ。
「いや……なんか、楽しいなって。こういうの、スゲー久しぶりな気がして」
感覚としては、こんなバカ騒ぎはほんの一ヶ月前のことだ。幼なじみの由香と、猛と、さよなと、クラスメイトたちと。
バカやったり笑いあったりしていた。
病院で目覚めて、リハビリやその後の準備……登校までの間に、およそ一ヶ月が経っていた。
それはつまり、達志にとって学校は、一ヶ月前の出来事なのだ。なのに、どこか懐かしい。
だから、こういったバカ騒ぎがつい嬉しく、体の方が反応してしまう。
「……土下座させられて反省して喜ぶなんて、タツってばあれなんですか? そういう趣向の人なんですか?」
「まあタツもいろいろあんだよ。お年頃なんだよ」
「変態め」
「あれ、ここでその評価おかしくない!?」
感慨深く感じていたのに、なんだか不当な認識をされている気がする。
違う、断じて違う。至ってノーマルだから。
「……ふふ」
達志が、自分に対する認識の改めを訴えかける中、またも笑い声が。それは達志のものでは、というか男のものではない。
声の主は、自分が笑い声を上げてしまったことに気付く。
しまったと口元を隠し、若干頬を赤く染めている。
「す、すみません……皆さん楽しそうで、つい……」
笑い声の主……リミは、赤くなってしまった顔を隠すように俯いている。リミも、同じようについ笑ってしまったのだと言う。
ならば仕方ないなと、達志はそう思ったのだが……周りの反応が、達志の想像していたものとは違っていた。
「あれ、みんなどったの?」
見れば、達志以外の全員、リミを見つめたまま固まっているではないか。
ルーアやヘラクレス、マルクスまでもが。他のクラスメイトも、驚いた様子でリミを見つめているのだ。
「り、リミが笑ってるの、初めて見ました……」
「マジで!?」
驚いている理由として、衝撃的な発言が飛び出す。
先ほどルーアが、リミのことを一匹狼ならぬ一匹兎だと言っていた。それはさすがに大袈裟だろうと、思っていた。
だが、今の周りの反応を見る限り……
「タツシ様!? そのかわいそうなものを見る目はいったい!?」
「いや……別に……」
「目をそらさないでください!」
普段のリミを、確かに達志は知らない。だが、達志といるときのリミは、元気な女の子そのものだ。
無口で無表情などと、考えられない。
どうしてそこに二面性があるのかは、わからないが……
「つまりリミたんが活発キャラになったのは、タツのおかげってことだ」
「お、俺?」
ヘラクレスが言うように、つまりはそういうことだろう。達志が来る前のリミと、来てからのリミ。
それはクラスメイトの驚きを見ると、違いが明らかだ。
達志としては、自分がなにか特別なことをしているつもりはない。ならば、リミが変わったということだろうか。
それは、喜ばしいことだ。
……喜ばしいことだ。だが……
「リミ……なんかお前のこと、とてつもなく心配になってきたよ」
「いきなりどうしました!?」
クラスメイトに、これまで笑顔の一つも見せなかったとは。いったい、どれほど周囲と距離を置いていたのか。
その不器用な人間関係が、達志は心配でならない。
「はぁ……なんか、気が削がれました。まったく……」
これまでのやり取りを見てか、ルーアは深いため息を漏らす。それから、未だ絶賛正座中の三人に視線を向ける。
「次はないですからね? そうなれば、我が封印していた力を解き放つことになろう!」
呆れ果てたルーアにより、ようやく三人は解放される。しかし、次はないという宣言と共に、手をクロスさせ、右手を眼帯に添えている。
決めポーズ、なのだろうか。
封印された力はともかくとして、次はないということを肝に銘じておこう。
「はいはーい、じゃあそろそろお開きにしよっか!」
一旦の決着がついたところで、クラスメイトの一人がパンパンと手を叩いて、歓迎会のお開きを口にする。
後半は正座しかしていなかったが、達志にとって有意義な時間であったのは、確かだ。
みんなも、満喫したのだろうか。名残惜しそうな顔や、楽しかったねという声が聞こえる。
ちなみに、その後由香は、自分も歓迎会に混ざりたかったぁと、泣いていた。
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