第41話 ロリっ子委員長中二アホ毛サキュバス
隣に座った、ルーナ・カラナという女の子。見た感じ、おとなしめの女の子だと思っていたが……
急激なテンションの変わりようを見て、達志は確信した。これはあれだ中二病だ。その場に立ち上がり、高らかに宣言している。
にも関わらず、クラスメートは誰も見向きもしない。つまり、オープン中二病ということだ。
ちなみに、ルーアは学級委員長というやつらしい。中二病=内向的なイメージが達志の中に勝手にあったため、これには少し驚きだ。
そして、本人の感情の高ぶりに呼応するかのようにアホ毛がピコピコ動いている。どういう原理なのだろうか。
「ロリっ子委員長中二アホ毛か……属性詰まってんなぁ」
「ロリ言うな! あと誰が中二だ! 高校生だ私は!」
……ついでに頭の悪い、も付け加えておこう。
「ま、今回は無礼講ということで見逃してあげます」
「そらどうも」
「ふふ……その様子だと、ずいぶん気が楽になったんじゃないですか?」
こちらの思惑を見透かすようなその表情に、思わず達志は胸を高鳴らせる。こちらの顔を覗き込んでくる上、距離も近いのだから仕方ないだろう。
痛々しい中身とはいえ、顔は整っている。かわいい部類の顔なのだ。
その距離感とは別に、ルーアの言葉は達志の心に深く、染み込んでいく。
「……確かに、な」
初めてのクラスで、見たことのない人たちに囲まれて、緊張していた達志。しかし、それはこの歓迎会により、ずいぶんと気が楽になっていた。
こうしてルーアと話せているのが、その証拠だ。
他のクラスメートとはまだあまり話せていないが、この気持ちを持ち続ければ、話も難しくはない……と思う。
「ごっほん!」
……と、背後から大きな咳ばらい。ルーアの方向に体を向けていたため、背後ということは……達志の隣に座る、リミが咳ばらいの主だとわかる。
達志はゆっくりと振り向いて……
「リミ? どうしたの?」
「別に、なんでもないです。ルーアさんとやけに顔が近いなとか、タツシ様が鼻の下を伸ばしてるなとか、思ってませんから」
見るからに不機嫌なリミにその理由を問い掛けるが、返ってくるのは、意味のわからないように見えてわかりやすいものだった。
要は、達志とルーアの距離が近いのが不機嫌の理由なのだ。
だが、それでリミが不機嫌になる理由が、達志にはわからない。
「べ、別に鼻の下伸ばしたりは……」
「それはズバリ、私のサキュバスとしての魅力がそうさせているのでしょう!」
「……はい?」
自覚なくとも、美少女に詰め寄られればそうなってしまうのかもしれない。
無自覚の中でそうなっていたのかと、自らの顔を触る達志に投げ掛けられたのは、意外過ぎる言葉だった。
その台詞を告げた少女は、びしっ、と達志に指を突き付けている。
「……ちょっと待て、今……俺の聞き違いじゃなければ、ルーア……サキュバスって言った?」
「そうですとも! 我が名はルーア・カラナ! 強大なる力を封印されし、可憐なるサキュバス美少女!」
「今自分で可憐とか美少女って言わなかった?」
またもテンションがおかしくなってしまったルーアを見つめながら、達志はただただ思っていた。
……俺の想像していたサキュバスと、違うと。
「いや、でもサキュバスってこう、あれだよ……こんな貧相な体じゃなくて、もっとこう……由香やセリニアさんがサキュバスって言われた方がまだ……」
「なにかぶつぶつ言っていますが、とても失礼なことを言われているのは、びしびし感じてきます」
「タツシ様、残念ながらこの貧相ロリがサキュバスなのは、事実です」
「誰が貧相ロリですか! 物凄い毒吐かれた!」
もしや達志を騙しているのではと思っていたが、達志よりも遥かに付き合いの長い、クラスメイトのリミが言うのだから、間違いないだろう。
よもやリミまで嘘をつく必要はあるまい。
「ロリっ子委員長中二アホ毛サキュバス……ロリのサキュバスとか委員長中二病とかアホ毛生物とかやっぱ盛りすぎだろ」
「キャラ設定が盛り盛りで目立とうとしてるんですよ」
「口悪すぎでしょ! タツは気が楽になったとはいえ容赦ないし、リミに至ってはなんですか設定って!
そもそも設定言うならリミの設定だっていつもと全然違いますからね! あなたそんなキャラだったのか!
それになんですか白髪ウサ耳美少女って! うらやましい!」
「設定設定言うなよ!」
二人からの容赦ない評価に、ルーアは困惑気味だ。特に、リミからそのような評価を貰うとは思っていなかったのだろう。
リミはというと、達志と仲良くしているのがもやもやするので、言動が刺々しくなってしまったのだが。
「えっと……普段のリミって、こんなキャラじゃないの?」
リミの設定、という言葉に少し引っかかる。それに、そんなキャラ、とは。
「えぇ! こんな容赦ないどころか、普段は無口クールなオーラを醸し出し、群れることを好まぬ一匹狼……いえ、一匹兎ですからね!」
うまいこと言ったと思っているのか、台詞の後にどや顔を決めているのが腹が立つ。が、敢えてそのことには触れないこととする。
それよりも達志が気になったのは、普段のリミのキャラだ。
達志の前では、天真爛漫な活発な少女なので、無口クールだなどと……とてもそんなイメージとは結び付かない。
とはいえこれも、嘘をつく必要はないので、真実ということだろう。
ちらと、リミに視線を向ける。その視線に気付いたリミは、ポッと顔を染めて……
「た、確かにあまり誰かと話すことはありませんが……」
「それがこうも話上戸になるとは。これは場の雰囲気が原因だけではないと見ました。加えて、先ほどからの私に対しての反応から察するに……は!
もしやリミは、タツのことがす……」
「わー! な、何言ってるんですかあ!」
リミと達志をちらちらと見つめながら、なにやら確信めいたものを得たルーアは手を叩き、自らの推理を披露しようとする。
が、それを先読みしたリミは真っ赤になり、慌てふためく。
そして、その口を塞ごうと……
「……あ」
「あー……」
しまった、とリミが声を漏らした時にはもう遅い。目を閉じ手をわたわたと動かしていたリミが見たものは……
全身氷漬けになっている、ルーアだった。




