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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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第34話 タイミングを見計らっているだけです



 十年ぶりの登校への、不安な気持ち。

 その気持ちを察してくれたのだろうか。わざわざ電話してきてくれたのだ。電話の向こうにいる女性は、ホントに気遣いのできる幼なじみだ。 


 だが、ここで素直に弱味を見せるというのも、なんだか恥ずかしい。だから……


「大丈夫だって。俺のことより……お前こそ、自分のこと考えろって」


『……私?』


「猛に好きって言ってないだろ」


 ……だから、話題を切り替えた。照れ臭い気持ちが伝わらないために。

 瞬間、電話の向こうが騒がしくなる。


 ドンッ、ガラガラガッシャン! と、一体何が起きたのかというほどに大きな音が聞こえる。達志の発言は、どうやらさよなには効果抜群中の抜群だったらしい。


『なっ、なな……』


「二人の様子見りゃわかるって。付き合ってるどころか、二人の間にはなんの変化もないってのが」


『な、なに言って……』


「え、だってさよな、猛のこと好きじゃん?」


 ……再び、激しい音。好きだと言い当てられただけで、動揺しすぎではないだろうか。

 あのさよなが、こうも取り乱すのも珍しい。見えないけど。


「……あー、もしかしてさよな、バレてないと思ってた?」


 もしや、と思う。それならば、さよなの態度もまあ納得だ。

 自分が想いを寄せている相手がいること、その相手が知られているということ。隠しているつもりの当人からすれば、知られているのはそれは驚きだろう。


 さよなは当然、自分が好きな人がいるということも、それが誰かというのも伝えていない。


 うまく隠してきた自信もある。好意を向けられる猛はもちろん、由香も気づいてはいないだろう。

 三人の中で、気づいたのは達志だけだろう。


『いい、今それ関係ないよね!?』


「いやー、でも、こういうときでもないと聞けないしさ」


『……達志くんって、ホント自分のこと以外には、鋭いよね』


 おそらく、電話の向こうにいるさよなは、今頃赤面していることだろう。

 こんな反応が見れるなら、以前家に来た時にでもに言えば良かった。まあ猛も一緒にいた以上無理な話だが。


 直接見れないのが、惜しい。


「自分のこと以外……?」


『なんでもないよ。とにかく私はその……タイミングを見計らってるの』


「十年も?」


『……』


 暫しの沈黙。その後、どちらからともなく笑い出して……


「いや、悪い悪い。からかうつもりじゃなかったんだけど」


『……まったく、もう。私の話は今はいーの』


「まあそう言うなっての。お互い、頑張ろうってことでさ」


 予想以上のさよなの慌てっぷりを楽しんだが、それを無理矢理にいい話で締めようとする。

 電話口から嘆息が聞こえる。その相手に、先ほどはごまかしてしまった想い。緊張もいい具合にほぐれたため、それを伝えようと決意する。


「……わざわざありがとな、さよな」


『……うん。じゃ、まあ……お互い頑張ろうってことで』


 それぞれ、お互いの気持ちを交換して……電話を切った頃には、達志の中にあった緊張感は、さほど大きくはなくなっていた。

 結局は、さよなの気遣いに助けられたということか。


 さよなとの会話のおかげで、心に落ち着きが生まれた。

 達志は、一足早く、十年前と変わらぬ制服に腕を通していく。


 ……久しぶりに腕を通した制服は、サイズは変わっていない。それも当然だ。

 十年の月日が経ったとはいえ、達志の肉体の成長はあの頃から止まっている。久しぶりとはいっても、達志にとっては数日ぶりだ。


 制服のサイズが自然に変化するわけもなし、制服を着てみると以前と同じままの姿となった。


 寝起きにセニリアの飛行浴を目撃し、先程までさよなとの会話を楽しんでいた達志は、今、制服に身を包んでいる。


「……うん、相変わらずいい男だな。なんつって」


 大きな部屋に置かれた、豪華な姿見。女子でもないのだからいらないなと当初は思ったのだが、こうして自室にあると、それを活用する習慣が育つ。

 当然ながら、最後に見た自分の制服姿と変わるところはなく、それに満足なような、変わり身のない姿に少し残念なような。


 その場でくるくる回ったり、決めポーズをしてみたり。やることがないとはいえ、その行動はちょっと怪しい。

 その上、今や癖となった独り言をぶつぶつと呟いているのだから怪しさは急上昇だ。


 一人でないと絶対にやれない。


「……お、このにおいは」


 そうこうしているうちに、外から漂ってくるにおいが、部屋の中へと入ってくる。それは瞬く間に達志の鼻をくすぐり、食欲を引き立てる。

 セニリアの作る朝食が、もうじき出来上がる、ということだろう。


 香りだけなら、リミの料理も充分、食欲をそそられるものがあったのだが……


「なんでこうも違うかねえ」


 香りは、どちらも格別なのだ。問題は、その味だ。あの一件以来、味を確認するまでは見た目にも騙されない、と達志は誓ったのだ。


 母は当然のこと、セニリアの料理も絶品と言える。なのでリミを食事係から外し、母と交代制にしたのは正解と言えよう。

 リミには、悪いが。


「んじゃま、行きますか」


 ポツンと一人しかいない部屋での、独り言。当然返ってくる言葉はないものの、そんなことは気にしない。

 喋りたい欲求、喋欲が止まらないのたから仕方ないだろう。

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