第28話 ひとつ屋根の下!?
こんなバカでかい家に、たった一人。そんな寂しい展開になっていなかったという事実に、ほっと一息。
こんな豪邸に住んでみたい気持ちはあっても、やっぱり一人だと寂しいだろう。
リミたちが母と同じ家に住んでいる……この事実は、達志にとって安心するものだった。
「……あ、そういうことか」
以前……達志が目覚めたその日、リミが病室に訪れた時。時間が遅くなり、いっそのこと病室に泊まるつもりでいたリミ。
その時、彼女はこう言っていた。
『両親はタツシ様のこととなれば寛大ですし、お母様にはメールすれば大丈夫です』
……と。
両親、とお母様、と二つに分けているのが、少し気にはかかったのだ。言い回しが不自然に感じられた。
わざわざ意味を問いただすほどではないが、少しだけもやもやした気持ち。
複雑な事情でもあるのか、とか、リミは頭がアレなので単に言い回しを間違えたのでは、いう可能性も考えたが……
しかし、両親とお母様がそれぞれ別を指しているなら話は別だ。
自分の両親、達志のお母様……そういう意味だったのだ。
「……ところでリミ、学校は?」
豪華な内装に、言葉を奪われる。だが、リミがここにいる理由を、聞いておかないわけにはいかない。
今はお昼過ぎ……もしも、十年前から学校の概念が大きく変わっていなければ、今は授業中のはずだ。
なのに、彼女は今ここにいる。
まさか休んで、達志が帰ってくるまでずっと待っていたのだろうか。
休んでまで退院の見送りに来なくていいとは言ったが、休んでまで家で待つな、とは言ってないし。
「まさか、休んで……」
「いえ、早退しました!」
返ってきたのは、予想外の言葉だった。
今日は休みなんです、と言われた方がまだ納得できた。だがまさか、早退とは。
欠席がダメだから早退をしました、と言うのか。どちらも結局はこの時間を休んでいるではないか。
なのに、リミは『えっへん顔』を浮かべているため、達志としてはもうなにも言えない。
「お、おう……」
休んでまでそんなことしなくていい、と叱るつもりだったが……そんな気力もなくなってしまった。
まあ、わざわざ早退して待ってくれていたのだ。実は嬉しい気持ちもある。
「ひゃー、いつ来てもやっぱ広いなー」
「この広さだと、一人二人増えたところでスペースは関係ないでしょうね」
はしゃぐ幼なじみ二人。二人も、そしておそらく由香も、ちょくちょくこの家に来ているのだろう。改めて、部屋をぐるりと見回す。
まるで別物になってしまったが、とにかく我が家に帰ってきたのだ。
……そういえば、だ。
「なあなあ。俺が戻ってきたら、リミとセニリアさんの二人って……」
「はい! これからも、よろしくお願いいたします!」
達志が戻ってきて、この家には母と二人になる。ならば、母を気遣ってリミたちが暮らす必要はない……
そう思ったが、当たり前のように、リミはここに居残り続けるつもりのようだ。
もちろん広さに関しては充分過ぎるものがあり、この広さだと人手もあった方が、いろいろ助かる。
しかしそうなると、同年代の女の子と一つ屋根の下状態ができあがってしまう。達志はひそかに胸踊らせる。
まあ、家が大きすぎて、そんなときめきイベントにときめかない自分もいるが。
「達志が戻ってきて、ますます掃除のしがいがあるわね」
「掃除って、まさかこの家全部をじゃないよね? とんでもないよここ、とても一日じゃ終わんないよ」
「ホントならメイドを数十人つけようとしたのですが、家事くらい自分でやる、って断られてしまいまして」
「そこは素直に受け取っとこうよ! 数十は多いにしても!」
家中を掃除しようとすれば、おそらく一日では終わらないだろう大きな家。このリビングだけでも、それだけかかるのか。
それを一人でやろうなど、無謀過ぎる。普段使う部屋だけに限定しているのだろうか。
いくら家事好きだからといって、人数が増えてもメイドの件、受け入れれば良かったのに。
「ってことは、母さんとセニリアさんの二人で家事回してたのか。すげーな」
「あれ、タツシ様、今、ナチュラルに私を、外しませんでした?」
「ごめん、なんか二人に比べたらリミはポンコツな気がして……」
「ひどい!
……まあ、間違ってないですけど」
リミはあまり家事は得意ではなさそうだ。
それに偏見だが、周りのことは全部セニリアがやってしまうイメージがある。
そのとき、きゅう、と空腹を報せる腹の音が鳴った。
「! タツシ様……よ、良ければ、私料理お作りします!」
家事ができないと思われたことへの挽回のつもりか、これ幸いとばかりに、リミが申し出た。
「え、マジで? なら、お願いしようかな」
「……!」
腹の音を聞かれていたことに、恥ずかしさを覚えるが、それよりもこの空腹を満たしたい感覚に襲われる。
久々に母の手料理も食べたいが……せっかく言い出してくれたのだ。その申し出に甘えることにしよう。
そして、リミが料理を作ると言った瞬間……場の雰囲気が凍ったことに、その時の達志はまだ、気付いていなかった。




