第27話 懐かしき我が家。のはずだ
道を歩き、角を曲がり、ついに我が家へ。
「さ、着いたわよ!」
「……これは……」
母が指差す先を、見る。見上げる先にあるのは、懐かしき我が家……
……ではなく、豪邸とも見間違う程の、大きな家。てか豪邸だ。
場所は間違ってないと思うが。引越しでもしない限り、十何年と住んだ家の場所を、間違うはずがない。
達志にとっては一ヶ月にも満たない前の記憶だし、なにより母がここが家だと言っているのだ。
「驚いた? 達志があんなことになって、せめてものお詫びだって……家のリフォーム代の費用、リミちゃんが全部に出してくれたのよ」
「発想が突飛すぎるだろ! リフォームの域越えてんだけど!」
「費用はリミちゃんが負担してくれて、家の改築を猛くんがしてくれて、家のデザインをさよなちゃんが考えてくれたの」
「思わぬ繋がりすぎる!」
豪邸となった我が家。お詫びだと言って、家のリフォームに行き着くリミもリミだが……受け入れる母も母だ。それに猛とさよな、この二人も。
思い起こせば、今猛は大工、さよなはデザイナーをしていると言っていた。
だがしかし、それがまさか、双方ともが自分の家のリフォームに関わっているとは思わなかった。いやリフォームかこれ?
二人に視線を向けると、照れたように笑っている。嘘ではないらしい。後別に褒めてない。
信じられないが、ここが我が家であることに違いはないようだ。とはいえ、リフォームというよりもはや別物の家だ。
「リミから、支援はいらないって突っぱねたんじゃなかったのか?」
「生活に関してはね。リフォームに関しては、お言葉に甘えることにしたわ」
「母よ」
リミたちからの援助を断っていると聞いていたが。ちゃっかりしている人である。
それにしても、こんな大きな家に一人で住むのは……いろいろ大変そうだが。
恐る恐る、家に近づく。しかし、玄関先に行くための……目の前の、門を見る。
門があること自体、考えられないが……もう、突っ込みどころがありすぎて、どこから処理していたらいいかわからない。
母は、なんでもないように門を開き、家の敷地内へ。なので達志も、それに続く。
庭まであるではないか、もう元の家の原型を留めてない。
まさか玄関先に行くまでの間にもある程度歩くことになるとは。
そして、扉を先に開けるようにと促され……達志は、うなずいた。
「……た、ただいまー……」
扉に手をかけ、いざ。
懐かしくあるようなないような。そんな複雑な思いのまま帰宅。素直にただいまと言えないが……だが家の中の香りは、達志の知っているそれと、同じものであった。
それを感じただけで、懐かしさも蘇る。
「お帰りなさいませ!」
「うん、ただい……は?」
ようやく戻ってきたという気持ちを実感して。家の中から返ってくるはずのない言葉に、達志は固まった。
母は、斜め後ろに立っている。というか、お帰りなさい『ませ』などは言わないだろう。
猛、さよなも同様だ。サプライズで由香が、なんてこともなさそうだ。
改めて家の中を見る。玄関には、白髪を揺らし、頭からウサギの耳を伸ばした、赤い瞳の少女が……
ここにいるはずのない少女が、正座して待っていた。
「り、リミ!?」
「はい! お帰りなさいませ、タツシ様! お母様!」
もはや別物と化した我が家。それに衝撃を受け、中へと入る。すると、玄関先にはウサギの耳を持つ、白髪の少女が正座していた。
まるで、ドアを開けて誰かが……達志が帰ってくるのを、待っていたかのように。
「……なにしてんのリミ」
少女……リミは、退院した達志を、今か今かと待ち構えていた。
そして今、帰ってきたこの家の住人を、出迎えているわけだ。
「ここ俺ん家なんだけど……え、そうだよね? 俺ん家なんだよね?」
自宅にいるはずのない少女の存在に、疑問を浮かばせていた達志は、急激にここが自宅であるのか不安になる。
ここがリフォームされた我が家だと言われ、半信半疑。匂いはあの頃のままだが、目の前の少女の存在が不安を起こす。
もしやみんなで俺を騙し、実際はリミ宅へ連れて来られたのではないか? と。
そうでなければ……
「えぇ、タツシ様のお家で間違いありません。私は、退院したタツシ様が帰ってくるのを、待っていただけです!」
「……あぁ、そう。そう、なの」
どうやらここは、達志の育った家で間違いはないらしい。
そしてリミはわざわざ、達志の退院に合わせて、ここで待ってくれていたということだ。
迎えに来るメンバーにはいなかったが、迎える手筈は整えていた、というわけだ。
「お帰りなさいませ、ミナエ殿、タツシ殿。タケル殿とサヨナ殿も、こんにちは」
ふと、家の奥から、最近聞き慣れた声が届いた。
声の主、奥から現れたセニリアを目に映し、またもいるはずのない人物がいることに、驚く。
……まあ、リミがいる時点で、セニリアがいる可能性も考えてはいたのだが。
「セニリアさん……」
「お疲れでしょう。片付けは済んでおりますので、どうぞ中へ」
促されるまま、達志は家に上がる。後ろの三人も、それに続く。
玄関から、奥の部屋へと隔てている扉。それに手をかけ、開けると……
そこには、ドラマなんかでよく見る、どこぞのパーティー会場のような空間があった。
天井にはシャンデリアがぶら下がっており、とにかく明るい。この広間だけで、以前の家の全部屋足した大きさくらいはあるんじゃないだろうか。
「……こんな家に一人とか……母さん、大丈夫かよ」
以前の家は、ごくごく普通の一軒家。達志とことりの部屋があり、両親の部屋も。
だが父親はことりがが幼い頃に他界。その後達志は眠り、リフォームしたこの家にことりと二人で住んでいた。
だがことりは、達志が眠っている間に事故に遭い……
……結果、この家にみなえ一人で住むことになっているのだが……
「おや、聞いてないのですか?」
「うん? 聞いて、って?」
「姫と私も……この家に住まわせてもらってます」
「……えっ」
何気なく呟いた一言に返ってきたのは、達志の耳を疑う言葉だった。その顔で母を見るが、否定はない。
さらに、猛やさよなもなにも言ってこないということは、これは周知の事実だ、ということだ。
「まあ、母さん一人よか安心するけどさ……」




