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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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第22話 初めてのお友達



 リミとセニリアが達志の病室を訪れて、二人との会話により達志の心細い気持ちも、ずいぶん紛れていた。

 母であるみなえ、幼なじみの由香、猛、さよなとは違い、達志とは全く関わりのなかった人物。


 達志の勇敢な行動により救われた少女と、彼女の従者との会話は、達志に新鮮な風を送り込んでくれていた。


「いやあ、なんか二人と話してると、由香たちとは違った意味で新鮮だわ」


「喜んでくれたなら、なによりです」


 達志が楽しそうにしているだけで、花の咲くような笑顔を浮かべる少女。

 見る者全てを虜にしてしまうようなその笑顔は、達志が知る由香……十年前の由香を彷彿とさせる。


 大人になった由香も、雰囲気は十年前と変わってはいないが、今の由香は少し会った程度しか知らない。

 達志にとっては、昔の由香と比べることはできない。


 活発で笑顔が似合い、ごまかすのが下手な女の子。それは由香とリミの二人に被るところがあり、もしも二人が会ったら気があうことだろう。

 ……と、そこまで考えて、そのもしもが実現しているのではないかと思う。


「そういえば……リミと、由香たちって知り合ってたりする?」


 思えば、リミや由香たちは、十年間もお見舞いに来てくれていたのだ。

 由香たちはリミのように毎日でないにしろ、その時間の中で、出会いがなかったと考える方が不自然だろう。


 ……リミが今回のように、面会時間過ぎに訪問していなければ、だが。


「はい! タツシ様の幼なじみのお三方とは、この病室で出会いました。

 忘れもしません、私とセニリアがお見舞いにこの病室を訪れた時、お三方がいらっしゃって……」


「私も忘れられません。ユカ殿、タケル殿、サヨナ殿……タツシ殿の幼なじみを前に、自身の行いを悔い、大粒の涙を流しながら反省し、お三方に謝罪する姿は今でも……」


「ちょ、ちょっと!? 何言ってるの!?」


 しみじみと、三人と出会った時のことを思い出すリミ。

 それに倣うようにセニリアもその時のことを思い出すが、それはリミの恥ずかしい話も同然のものであった。


 リミは顔を真っ赤に、セニリアに駆け寄る。


「涙と鼻水で顔を汚し、私のせいで……すびばぜん……と何度も謝る姿は、思わず私ももらい泣きしてしまうほどで……」


「ねえもうやめよ!? その話やめよ!? 泣き真似しなくていいから、掘り起こさなくていいから!」


 彼、彼女らから幼なじみを奪ってしまったことを悔いていたリミ。それは三人を前にしたことで、感情の抑えが決壊し、溢れ出したのだ。

 幼なじみに対しその反応だったということは……達志の母に対しては、これ以上の反応だったのではないかと、想像するには容易い。


「それはその……なんて言えばいいか……」


「タツシ様気を使わないで! ……こほん!

 と、とにかく! それを機に皆さんとは連絡先を交換して、時々やり取りを……」


「すげーや、着々と異世界交流捗ってる」


 達志の事故をきっかけに、知り合った人たち。事故がいいことだとは言えないけれど、こうして人の輪が広がっていくというのは、なんだか胸の奥が温かくなる。

 その自分が原因となれば、事故にあったかいがあるというものだ。

 ……いや、やっぱりそう思いたくはない。


 三人とは、今は良好な関係を続けているのだろう。耳や尻尾が揺れ動いており、それは嬉しさの感情を表しているというのは、すでにわかっている。


「姫にとっては、この世界に来てからの、初めてのお友達ですから」


「ちょ、余計なこと言わなくても……それに、お友達なんてそんな、皆さんにとって大切な人を奪った私なんかが……」


「そうですか? お三方はもう……というより、あの頃からも怒ってはいないと思いますが。

それに、彼らは初めから、姫に友好的だったじゃないですか」


 達志の知らない、彼女たちの中での話。

 リミは責任を重く受け止めてしまう気質らしいが、セニリアの言うように、三人共そのことは、気にしていないだろう。


「そうだぞ。あいつらがそれくらいで怒ることないって」


「そう……でしょうか。でも、それくらいって……」


「タツシ殿がそう言っているのです、そうなのです。ですからお友達でないなどと言っては、せっかくのこの世界での初めてのお友達が……

 いや、あちらでも、お友達いましたっけ?」


「いい、いましたよ! いますよ! セニリアも知ってるでしょ!?」


 センチメンタルになりかけたリミを、セニリアはほとんど強引に連れ戻してくる。「冗談はさておき……」と告げているが、リミは元の国では姫という立場。

 そんな立場の人間に、気軽に友達ができるだろうか?


 ……これ以上考えててはいけない気がした達志は、頭を振って思考を中断する。

 リミに友達がいたかどうかの議論は、これ以上考えても、いろんな意味で傷つく気がする。リミが。


「あはは、二人って本当に仲良いのな。ところで話変わるけど……いまさらでいきなりだけど、セニリアさんって、純粋な人間?

 それとも、リミみたいなケモッ娘?」


「ホント話変わりましたね!」


 新しい話題を探していた達志の目に映ったのは、リミの感情に従うかのように揺れ動く、ウサギの耳と尻尾だ。

 ザ、秘書なセニリアは見た目は人間であるが、もしかしたら耳や尻尾を隠しているのかもしれない。それとも、純粋な人間か……


 今までの会話で話題にならなかったのが不思議でかなわないが、話題一新のためにもいい機会だろう。

 質問を受けたセニリアは、一度咳ばらいをして……


「私は……ハーピィです」


「はー……ぴぃ……」


 自らの種族を、語る。見ただけでは人間と違わない姿。しかしその実態は、ハーピィという種族なのだという。

 聞き覚えのある単語を噛み締めた達志は、己の頭の中に眠るハーピィのイメージを引っ張り出してくる。


「ハーピィっていうと……見た目は人っぽいけど、腕に鳥の翼が生えてる、足が鳥のそれ、っていうやつですか?」


「えぇ、その認識で問題ありません。よくご存知ですね?」


「そりゃまあ、ケモッ娘やハーピィやエルフなんてのは、異世界ものじゃ王道パターンですから。脳内シミュレーションはバッチリなわけですよ」


 実際に口で言われただけでは判断しようがない。しかし、ここでセニリアが嘘をつくことはないだろう。

 今普通の人間に見えるが、その気になれば翼に変化するという。腕が。


 できる秘書系従者に、ハーピィという属性が追加された瞬間である。


「なんでしたら、飛びましょうか?」


「……いや、大丈夫です」


 言葉だけでは信用に欠けると判断したのか、実際に飛んで見せようかと、窓を指すセニリア。

 それはつまり、そこの窓から外に出て、飛ぶということだろう。


 その光景を思い浮かべ、あまりにシュールな絵面が出てきたために、達志は苦笑いを浮かべた。


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