第21話 知らなかった……
リミも魔法を使える。その事実に、達志は胸を高鳴らせる。
「へぇ! 確か、火、水、風、土の属性の魔法があって、それに光と闇を加えた六属性があるんだよな。リミはどの属性なんだ?
それとも、サイコキネシスとか飛行とかがある、六属性に属さない無属性ってやつか?」
「私は、氷属性の魔法を使います」
「早速どれにも当てはまらないカテゴリー出てきたんだけど!」
目の前の少女は何属性の魔法使いか。それを見定めようとして、早速出鼻をくじかれた。
セニリアの説明に聞いた六属性とは違うし、無属性とも違うっぽいのだが……
「こ、氷……」
「はい!」
「申し訳ありません、タツシ殿。私の説明不足でした。そして姫はポンコツでした」
「!?」
困惑する達志に、自信満々に答えるリミ。二人の様子を見て、自身の説明不足を呪うセニリアは、ペコリと頭を下げる。
その意味がわからなくて、達志は疑問をぶつける。
「え、説明不足って、もしかして氷属性を付け加え忘れてたとか、そんなパターンですか?」
「いえ、姫は確かに氷の魔法を使いますが、氷属性というものはありません」
「えっ、じゃあ私の魔法って一体……」
「姫。姫は魔法技術以外ポンコツなんですから、少し黙っててください」
「!!?」
リミとセニリアの間で、微妙に認識のズレがある。だがそれよりも、セニリアが姫と慕うリミのことをポンコツ呼ばわりしたことに驚いた。
慕っているのかいないのか、どっちだろう。
それは本気の罵倒ではない。リミも、ショックを受けてはいるが、本気で落ち込んではいない……と思う。
わかりやすく、文字通り沈んでいるが……それもオーバーリアクションで、本気ではないのだと思いたい。
「……ふふ」
その光景に、達志は軽く笑みを浮かべた。
まるで日頃から繰り返しているやり取りのように、それはあっさりとしていて。ここにきて、二人の関係性を再確認できた気がする。
こんな軽口が叩けるのも、二人の信頼の深さあってのものだろう。
「えぇ、氷の魔法に関係しているのは、詰まるところ火と水です。姫の魔法についてですが……姫は、火と水、二つの属性を使うことができるのです」
「えっ!?」
氷…その正体は、火と水、二つの属性にあるのだとセニリアは語る。
リミはその二つの属性を使うことができるのだと。そして、それを聞いて驚く達志……ではなく、驚くのはリミ。
その反応からすると、自分が火と水の魔法を使えると、知らなかったのだろう。
「火と水……この二つの魔法を兼ね合わたものです。火の魔法によって気温を変化させ、水の魔法を固形化。
その結果、二つの魔法が組み合わさり、氷の魔法が使えるようになるわけです」
「へぇ……なんか勝手に思ってたけど、一人一属性ってわけじゃないんですね」
「はい。人によっては二種類の属性、三種類の属性、と複数使えます。ですので、火と水を組み合わせる姫のように、複数の属性を組み合わせ、新たな魔法を作り出すことが可能なわけです。
とはいえ、簡単なことではありませんが」
それぞれの属性を組み合わせ、新たな魔法を作り出す。まるで理科の実験のようだが、実際には大して異なるものでもないだろう。
そして、それをリミは、知らずのうちにやっていたというわけだ。
「し、知らなかった……私、火と水の魔法使えたんだ……」
なぜ本人が知らないのだろう。
「本来なら、そこ止まりです。しかし姫は、幼少の頃より魔法技術の才能だけは群を抜いていました。
火と水という単純な魔法ではなく、それらを組み合わせ、氷の魔法という、複雑で新たな魔法を開拓したのです」
どうやらリミは、魔法技術の才能は他を圧倒しているらしい。
そしてそれは、無意識に新たな物事への取り組みとなり、結果として新しいものを見つけた。
ただし応用ができて基礎ができてないという、視野が広がったような狭くなったような、いまいちよくわからない結果であったが。
「と、というか、知ってたなら教えてよ!」
「これくらい、ご自分で気付かれるかと……」
「うぐっ……」
どうやらセニリアは、基本リミに仕える従者としての立場を理解はしているが、その上で度々毒を吐くことがあるようだ。
「……とにかく、私は火と水の魔法も使えるんですね!」
「姫、くれぐれも場所を弁えてくださいね」
「わ、わかってます! 病院では、回復魔法及び復元魔法以外の魔法は原則使用禁止。念を押されなくても、それくらいわかってます」
腕を組み、膨れるリミはセニリアを睨みつけるが、かわいらしいためあまり迫力がない。
しかも、尻尾や耳はパタパタ動いているのだ。
おそらくは、新しい魔法(厳密には使えたけど知らなかっただけだが)を使えるとわかったことにより、浮かれているのだろう。
つまり嬉しいのだ。
嬉しがっている様子が隠しきれておらず、そんなところに彼女の素直さが見える。
セニリアもそれに気づいているのか、達志も共にクスクスと笑みをこぼしていた。
その二人の様子を、リミは訳がわからない、と言わんばかりに眉を寄せ、見つめているのだった。




