第18話 魔法のお勉強
せっかく異世界な現実になったのだ。気になっていることを聞いてみよう。
「こほん。それよかリミ……さっきからちょいちょい回復魔法とか聞くんだけど、やっぱ他にも種類ってあったりすんの?
復元魔法、ってのも一回見たんだけど」
「あ、はい! おっしゃる通り、魔法には様々な種類……属性があります。えっと、確か……」
達志からの質問に、息巻いて答えようとするリミ。身振り手振りで伝えようとするのだが、その手が止まる。
どうやら、どう説明したらいいかがわからなくなってしまったらしい。
美しく整った眉を寄せ考え込み、ついには涙目にすらなりつつ、セニリアへと振り返る。
「せ、セニリアぁ……」
「……承知しました。ではタツシ殿、私から説明させていただきます」
考えがまとまらない……どうやら、あまり頭がよろしくないらしいリミ。
そんなリミに成り代わり、セニリアは魔法についての説明を引き継ぐ。
眼鏡スーツという姿も相まってそれは、まるで教師のようだ。自然と、姿勢が伸びてしまう。
ますます由香のお株を奪われているような気もする。
「……まず魔法というものについての説明を、簡単に。魔法とは、空気中に漂う"生命の力"をエネルギーとし、体内に取り込むことで、発動させることが出来ます。
生命のエネルギー……わかりやすく言うなら、魔力、という言葉ですね。
前提として、魔法を扱える者と扱えない者にも分かれます。ここまではいいですか?」
「はい、先生!」
病室という教室で、今魔法による授業が行われている。その錯覚に、思わずセニリアを先生呼びしてしまった。
一瞬面食らった表情を浮かべたセニリアだが、悪くないと思ったのか、指摘はしない。
なぜか悔しそうなリミの表情が、目に入った。
「人には魔力を体内貯蔵できる場所があり、魔力を取り込むことで魔法を可能とします。貯蔵可能な魔力は、人によってそれぞれ差があります。
貯蔵していた魔力が尽きれば、しばらく魔法は使えません」
「空気中に漂ってるのに、魔力が尽きることってあんの?」
「そうですね……例えば、全力疾走した後は疲れで走れませんよね? しかし、しばらく休めばまだ走れる。
魔力=体力、こう考えてもらえるとわかりやすいかと」
「なるほどー」
「なんで姫が納得してるんですか……」
セニリアによる魔法講義の生徒は、いつの間にかリミという生徒を一人追加していた。
達志の座っているベッドの隣に椅子を持ってきて、座っている次第だ。
「……こほん。
魔法にはそれぞれ、火、水、土、風の四属性があり、これが基準となります。ただし他にも確認されている属性があり、その中に光と闇の属性というものもあります。
……この二つを加えた六属性が、今までに確認されている魔法の属性です」
魔法の属性……一つ口に出す度一本指を立てていき、グーの状態から始まった手の平は、五の時点で折り返す。
そのため、六つの属性を言い終えた頃には、親指を折り、四本の指が立っている状態になっていた。
「……ん、でもそれだと、回復や復元って……」
「えぇ。先の六属性に属さないもの……それらは、無属性と分類されます。種類は多様で、例えば飛行、例えば透過、例えばサイコキネシス……中でも、回復魔法と復元魔法は、希少とされています。
……とはいえこれに関しては未だ不明確な点が多く、回復魔法と復元魔法は光属性ではないか、との声も上がっています」
「なぁるほど。
……つまり火属性使いだと、火を扱うド派手な演出が売りだが言っちまえば火しか出せない。
無属性だとド派手な演出はできない代わりに、やれることの引き出しの多さが売りってことか」
「そのように考えていただければ。ご理解が早いようで、さすがです」
一つの属性に特化した魔法。レパートリーが多く多種多様な魔法。聞いただけでは、達志にはどちらが良いものなのかはわからない。
だがそれはきっと、そういう問題ではないのだ。どちらにも、それぞれの良いところがある。
さすがだと誉められ、少しだけいい気分。
「我が国では、希少とされている回復魔法、復元魔法を扱える者を、医師としてスカウトしているのです。
初めは小さな力も、鍛えれば大きな力に……それは、どの属性にも言えることです。立派に、人を救えるだけの力を手にした者たち。
その中でも選りすぐりの医師たちが、今日までタツシ殿の治療に努めてきたのです」
それは、達志の治療をこの十年間続けてくれた医師たち。ウルカを始め、いずれそれぞれの医師たちにも、改めてお礼を言わねばなるまい。
魔法による講義を聞きながら、達志は改めて心に誓うのであった。
その決意の一方で、隣で頭から煙を出しているリミ。
初めて彼女の姿を見たときは、勉強できる系お姫様かと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
というか、起きたばかりの達志でさえ理解できた内容、それにすらついていけてないようだ。
そんなリミを達志は、ただただ見ないふりをすることしかできなかった。




