第181話 リミを捜せ
捜索魔法……それは、誰か捜している人がいる時、その人を捜すのに非常に役立つ魔法だ。
そして今、もっとも欲しい力でもある。なんて都合がいいのだろう、神様ありがとう!
それにしても、魔法には本当にいろんなものがある。
これは、火、水、風、土、光、闇の六属性どれにも属さない、無属性というやつなのだろう。回復魔法や復元魔法と同じ部類だ。
「すげーじゃんか! 限定的な魔法な気もするけど!」
「そんなことないですよー。リアとの待ち合わせで、リアがどこにいるかを探って後ろから驚かすの、楽しいんですから」
「え、いつも後ろから現れると思ったらそういうことだったの!?」
限定的だが、すごい力……それをこの子は、なんてしょーもないことに使うのだろうか。
「ま、ぶっちゃけ犬扱いも間違ってないと思うっすよ? センパイ」
「や、そういうつもりで言ったわけじゃ……」
シェルリアもだが、達志もはーちゃんには口では勝てなさそうだ。
だが、今はそんなことはどうでもいい。はーちゃんの捜索魔法……せっかくいい手札が出てきた。というのに、肝心のリミの体の一部はおろか身につけていたものすらない。
むしろ持っていたらドン引き案件とはいえ。
だが、それがある場所なら知っている。リミが身につけていたもの……それは、海に来た際のリミ自身の荷物。つまり、今猛らが日向ぼっこしている所だ。
「……結局戻るしかない、だと?」
なるべくみんなにバレないようにリミを捜したいというのに、リミを捜すために手っ取り早い方法がみんなの所に戻ることだとは……
ひどい矛盾に、思わず達志は額を押さえていた。
――――――
「そういうわけで、リミが身につけていたものを貸してくれ!」
「もしもし警察ですか?」
「待って! 話を聞いて携帯置いて!」
猛たちが待つ場所へと戻ってきた達志は、リミを捜すための手掛かりを借りに来ていた。
しかし、その言い方は誤解しか与えない。
スマホを取り出す猛をとりなし、なんとか事情を説明。
「……で、リミちゃんとはぐれたから手掛かりを貸してくれと」
「うむ」
「姫とはぐれたぁ!? なにをしておられるのですかタツシ殿ぉおおおおお!!」
リミとはぐれたことは、出来れば内緒にしたかった。
しかし、仕方のない場面にまで迫られてしまったのだ、話さないわけにはいかない。
セニリアに肩を揺らされ、意識を飛ばさないようふんばりつつ達志は話す。
「だ、だからこのは、はーちゃんの力で、捜してもらおうと……」
「ちーっす、どもー」
「姫ぇ! どこですか姫ぇ!」
「セニリアさん、飛んで捜そうとしないで! 騒ぎが大きくなるから!」
「カオスか」
だが達志は思う。確かに、セニリアであれば捜せるのではないか。
なんせ彼女はハーピィで、飛ぶことが可能だ。人捜しにうってつけではないか。
……いや、リミのことだ。飛んでいるセニリアを見つけたら出てくるより逃げる可能性の方が高い。空からの探索は、逆に言えば向こうからも見つけられるということになる。
上空からセニリアが地上のリミを捜すより、地上のリミが上空からセニリアを見つける確率の方が高いのだから。
となれば、やはり頼れるのははーちゃんの魔法だけか。
「あ、こ、この間、ファミレスでお会いした、先輩の幼なじみの……」
「どうも、改めて茅魅 猛だ。えっと、シェルリア・テンさんだったよな?」
「は、はい!」
あちらでは妙な再会が起こっている。
シェルリアが猛に送るのは熱い視線であるが、それは決して色恋に関するものではない。達志にはわかる。
『幼なじみさんの、お体素敵……! き、きっと先輩は、こ、この体格差に為す術なく組み伏されてうへへへへ……』
きっとこんなことを考えているに違いない。それがわかる自分が嫌だ。
だがシェルリアの本性を知らないさよなは……シェルリアの熱視線を勘違いし、嫉妬のオーラを出している。
心配するな、問題ない……そう教えてやりたい。だが、それを保証するにはシェルリアの本性を話す必要がある。
あんなのでも一応、達志にとっては同じ部活の後輩だ。彼女のアレな姿を広めたくはない。
なので彼女のことは、一旦放置で。
「そういうわけでセニリアさん、リミの荷物から適当に彼女のものを」
「わかりました」
同居同然とはいえ、年頃の女の子の鞄を漁るわけにはいかない。
落ち着いたセニリアに、リミの鞄の中から適当なものを取ってもらい、それを受けとるが……
「……なんで、はちまき?」
「手に取ったのがそれだったので」
「いや、そういう意味でのなんでじゃなくて……ま、いいや」
リミが、なぜはちまきを海に持ってきたのか。この際、それは置いておこう。
なんにせよ、リミの持ち物が手に入った。それをはーちゃんに手渡し、彼女の探索魔法に任せてみることとする。
彼女はしばらく、はちまきを握ったまま目をつぶり、うーん……と唸っていた。が、突如としてなんの前触れもなく目を見開く。
「かっ! いた、こっちだよ!」
「えっ、ホントに!? てかそれ魔法なの!? 占いとかじゃなくて!?」
今の一連の動作を見る限り、犬ににおいを追わせた方がまだ確実な気がするが……今は、この謎の魔法に頼るしかない。
そのままなにかに導かれるように走り出すはーちゃんを、達志は見失わないように追いかけていく。
「きーつけろよー」
「って来ないのかよ!」
「はぐれたのお前だろ、責任もって連れてこい」
まさかの、初のはーちゃんとの二人きり。
リミを捜すためとはいえ、不安を拭いきれない達志であるが、今は彼女を信じて、追いかけていくしかない。




