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第171話 母親の前でなんてことさせようとしてんだよ



「なにそれ」


「なにそれ、じゃないよ! 日焼け止めだよ! もしかしてこの太陽の下を、ノークリームで遊ぶつもりだったの!? 甘いよ!」


「ノークリームって……」


 夏……それは、お肌の天敵でもある。海で、素肌を多く露出しているともなれば余計にだ。

 なので、対策はバッチリしなければならない。


 日焼け止めクリームを塗ることで、少しでもお肌を大切にするのだ。


「そうですね。姫も、もうちょっとその辺自覚してください」


「い、いいじゃないそれくらい……私肌荒れにくい体質だし」


「「いけません」」


 どうやら、普段は日焼け止めとか自主的に行わないらしいリミに、セニリアとさよなの圧が迫る。怖い。

 その肩を掴んで、おとなしくさせるために引っ張っている。


「おとなしくしてください。じゃないとこの場で水着を剥ぎますよ」


「なんてことを!?」


 セニリアは、リミを慕っているはずなのだが……たまに、ホントにそうであるのか疑わしい時がある。


 ブルーシートにうつぶせにさせると、その健康的な背中が露になる。

 ここに、今からセニリアが日焼け止めクリームを塗っていく。


「ではタツシ殿、よろしくお願いいたします」


「えぇええっ?」


「やるか! 母親の前でなんてことさせようとしてんだよ!」


 まさかの発言に、達志は条件反射のようにツッコむ。なんて魅力的……いや危険なお願いをするのだろうか。

 だが、嫁入り前の娘の肌を、まさか自分の母親の前で触るわけにもいかない。

 達志が断ると、気のせいか「ちっ」と舌打ちのようなものが聞こえた気がした。


 リミの背中にクリームを塗っていくセニリアの姿を、じっと見ながら……達志は、無心で己に日焼け止めクリームを塗っていく。

 なにも考えちゃダメだ、変なこと考えちゃダメだ。


 結局、リミとセニリア、由香とさよながそれぞれペアになってお互いに日焼け止めクリームを塗っていた。

 達志と猛は、自分で塗った。みなえには、セニリアが塗っていた。


「よーし、あそぼー!」


「おー!」


 日焼け止めクリームを塗り終えた由香とリミが、はしゃいで声を上げる。

 由香は吹っ切れたのか、もじもじするのをやめたようだ。


 そのため、けしからんボディを惜しみなく露にしている。それが、周りの男たちの目を奪っていると、果たして気がついているのだろうか。


「うーん、絶景かな絶景かな。やっぱ、海っていいねぇ」


「そんなこと言ってるとまた叩かれるぞ」


 きゃっきゃうふふの景色を見ているのもいいが、それでは海に来た意味がない。

 なので、達志と猛もその中に混ざる。


 由香とリミ、さらにさよなとセニリアという、美女揃いの中に男二人。

 それはよくも悪くも、周りの視線を集めることになる。


「なんだあの二人、あんなに女の子侍らせやがって……」


「全員レベルたけーな」


「あの子とかおっぱいやべーよ、揺れてるぜ」


「ねえあの子、誰かの弟かな? かわいー」


「いい筋肉してんじゃねぇかあの野郎」


 様々な声が、聞こえる。

 中にはなんだか怪しげなものもあったが、華麗にスルー。聞かなかったことにしよう。

 今はただ、この幸せな時間を過ごせばいいのだ。


 水遊び、ビーチバレー、スイカ割り……


「いや、これはおかしいだろ!」


 気がつけば、達志の首から下は砂浜の下に埋まっていた。


 隣にはスイカが置いてあり、さらに目の前にいるのは目隠しをして木の棒を持った由香。

 目隠し由香なんかえろいな、とか思う余裕なんてなかった。


 なにをされるかなんて、明らかだろう。


「いつの間にこんなことに!? 気づかなかった俺も俺だけど!」


「暴れるなよ達志ー、暴れたら当たるぞ?」


「ありそうな未来言うのやめてくんない!?」


 ただでさえ、由香がスイカ割りだなんて不安しかないのだ。手元が狂って頭直撃なんて充分にあり得ることだ。


「くそ、抜けない! か、母さん助けてくれよ!」


 どれだけしっかり埋まってしまったのか、まったく動けない。

 こうなれば、外部から助けてもらうしかないのだが……


「うぅ、達志がみんなと楽しそうに遊んでる……」


 ダメだこの母親、なんとかしないと。


 どうやらみんなと楽しく遊んでいることが嬉しいらしいが、こっちはそれどころではない。

 下手をしたら頭がかち割れるのだから。


「ほら由香、右右!」


「あぁ行き過ぎ! もうちょい左!」


「そうじゃないって、回れ右!」


 そんなことを考えているうちに、地獄のスイカ割りが始まってしまった。

 由香は外野の声に耳を傾け、ふらふらと歩いている。


 由香が歩く度に、由香の二つのスイカも揺れて……と、こうなったらせめて目に映る景色を楽しもう、と覚悟を決める。


 なあに、なんだかんだ言っても、本気で頭に振り下ろすわけがない。

 どうせ目隠しに隙間があって見えてるとか、頭に当たりそうになっても直前で魔法で動きを止めるとか、そういうオチが待っている……


「ここ! たぁ!」


「っひ……!」


 次の瞬間、達志の右真横に棒が振り落とされる。それは直前で止まることはなく、遠慮の欠片もなかった。

 というか、頬にちょっとかすった。


「なな、なにやってんの!? ねえバカなの!? バカなんだね!?」


「ご、ごめん……」


 今のはほんの数センチずれただけで、直撃してしまっていた。それほどまでにぎりぎりの展開だった。

 由香もさすがに申し訳なさそう。そう思うなら、なぜこのスイカ割りをやったのか。


「……あれ、これもしかして、俺が声出して誘導すればよかったのでは?」


 ここにきて、重大なミスに気付く。なにも、埋められている達志が声を出してはいけないという決まりはないのだ。

 今だって、別に誰にも注意されてないし。


 なので今度は、達志が誘導。


「ほら、左左!」


「う、うん」


「いやそっち右! 俺から見て左なんだから、お前から見て右だってのこのバカ!」


「う、うぅ!」


「うわお前、振り回すな! やけになんなよ当たる当たる!」


「なにしてんのあいつら」


 その後、苦労しながらも由香にスイカを割らせ、粉々になったスイカをみんなで食べることに。

 達志が埋められた理由は、まったくわからなかった。


「は、はいたっくん、あーん……」


「いえいえ、こちらにあーん」


 生首状態の達志に、あーんをしてくれる美少女と美女。埋められた理由がまさかこれが理由だとは、思いたくないし言ってほしくない。

 そして早く助け出してほしい。

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