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第170話 ちょっと待ったコール



 由香の水着姿をお披露目された、三人の反応は……


「まあ、よく似合ってるわよ由香ちゃん!」


 まず一人。幼なじみの母からのお言葉だ。どうやら息子の、褒め言葉レパートリーのなさは、母親譲りだったらしい。

 そして肝心の、男二人の反応はというと……


「…………」


「…………」


「なんか言ってよ!」


 無反応。というのも、決して水着が似合ってないとか、バカにしてるとか、そんなことではない。

 むしろ、その逆。似合いすぎていて、言葉が見つからない。


 いや……似合いすぎていて、という言葉は正確ではない。そこにあったのは、男に多大なるダメージを与えるための兵器だ。

 これをなんと表現すればいいのか、わからない。


 由香の水着は、言ってしまえばビキニタイプ。トップに三角形のデザインブラが施されたタイプの、三角というものだ。


「うぅ……」


 黒い色のそれは、一見すると由香には似合わないように思う。選ぶなら白に近しい色だろうと、誰もが思う。だが、そこなのだ。

 敢えて黒を選ぶことで、由香の純白な容姿がより目立つ。


 さらに、背中は細い紐タイプになっており、背中を魅せることも忘れない。下も、紐で結ぶタイプなため、ちょっぴりとした危うさが顔を出す。

 そして、なにより最大の特徴がバストにある。星模様をあつらえてある水着は、自然と由香の胸元への注目を集める。


 他の三人のように、特徴のある水着とは言えない。だが……


「シンプルイズベスト! それこそが由香ちゃんをもっとも引き立たせるの!」


 シンプルであるが故に、由香の魅力を120%以上引き出している。いろんなタイプの水着があれど、由香の終着点はこの、シンプルなビキニタイプに収まったということ。


 由香は、恥ずかしいのか自分の体を隠すように、自らを抱き締めている。だが、それにより胸元が強調されることに気づいていない。

 そんな、由香の水着を見た男二人は……


「海、着てよかったな」


「あぁ、まったくだ」


 成長した幼なじみの肢体をしっかり目に焼き付け、その後鼻血を流した。

 鼻血ってこういうときにマジで流れるんだ……と学習した二人である。


 それから、二人は……


「さいってー!」


 それぞれ右頬に、赤い紅葉を作った達志と猛は現在、由香の前で正座させられている。むろん、砂浜の上で。

 その理由は、言うまでもないだろう。


「まあまあ由香ちゃん。女冥利に尽きるってものじゃない?」


「でもおばさん!」


 由香の水着姿を見たことにより、鼻血を吹き出し、由香からのビンタをいただいた二人は、なにを言うまでもなくただ黙していた。

 それが理不尽なものであろうと、なにも言わずに。


「しかし、興奮すると鼻血って本当に出るんですね。漫画の中だけじゃなかったんだ」


「セニリアさん! 他人事だと思って!」


 自分の身体に興奮した……それは由香にとって、とても恥ずかしくあり若干嬉しいものではある。さよなじゃないが、達志を誘惑できたということだろう。

 猛までは予想外だったが。


「タツシ様は、ああいう大人の方が好きなんですね……」


「いや、誤解……でもないかもだけど! 違うから! これはあれだよ、生理現象だから!」


 リミから、怒っているやら悲しんでいるやら、もしくは蔑んでいるやら。

 とにかくいろいろな感情が混ざり合った瞳を向けられる達志は、弁明に必死だ。


 弁明もなにも、鼻血出したことに変わりないのだが。


「猛くんは、胸が大きいのがいいんだねえ……そうなのそうなんですか」


「さよな? ぶつぶつ言わんでくれなんか怖いんだが?」


 対してさよなは、猛を責めるわけではなくなにかに絶望している。

 その理由がわからないのが、猛が猛たるゆえんだ。


「許してくれよ由香ぁ。その水着、めっちゃえろ……似合ってるんだしさ!」


「そうだぜ。そのたまら……スタイルの良さが引き立ってるし恥ずかしがることねえよ!」


「言い繕うとしてもごまかせてないよ」


 さっきから砂利が膝に食い込んで痛い。それに熱い。早く解放されたい二人は、それはもう必死だ。

 その必死のお願いに、由香は……


「はぁ……もういいよ。似合ってないって言われるよりは嬉しいし。せっかく海に来たんだもん、怒っても仕方ないよ」


「「由香ぁ……」」


 結局、許してしまう。まあ、みなえの言うように女冥利に尽きると前向きに考えていこうではないか。

 二人の反応はオーバーすぎたが、似合ってないと一蹴されるよりはずっといい。


「さ、終わり終わり。若者は遊んできなさいな」


 パン、と手を叩き、微妙な雰囲気になってしまったのをみなえが空気を変える。

 ここで、いつまでも水着評論をしていても仕方がない。


「俺ら、もう若者って歳じゃないっすよ」


「私にとっては、いつまでも子供なのよ」


 苦笑いを浮かべる猛にみなえは、自分にとってはまだまだ若いと告げる。

 達志だけではない。ここにいるみんな、子供のようなものだ。


「そうだ、私いろいろ持ってきたんですよ!」


 と、リミが荷物の中から取り出すのは……ビーチボールに浮き輪、そしてなぜかスイカなど、様々なものがあった。

 よほど、今回のお出かけを楽しみにしていたのだろう。


 その瞳は、早く遊びたいとキラキラしている。


「そうだな。じゃあまずは……」


「ちょっと待ったー!」


 そこに、ちょっと待ったコール。それを言ったのは誰であろう、さよなだ。彼女の手の中には、一つの容器が握られている。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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