第168話 ナンパをされまして
海での準備は完了。
自然と、気分は高まる。なんせ、由香、さよな、リミ、セニリアと、みな美女揃いのラインナップ。男に生まれてきたことを感謝したいくらいだ。
幼なじみという点を引いたとしても、美人の部類には違いない由香とさよな。校内二大美少女の一人に選ばれているリミ。そして、かわいいよりもかっこいいが似合うできる女系のセニリア。
心配があるとすれば、美人揃いなだけにナンパとかされてしまわないかだ。
心配なら着いていけばよかったのだが、今ふと思ったのだから仕方ない。
「四人とも大丈夫かな……」
考えて……大丈夫だろうと、結論が出る。由香やさよなだってもう子供じゃないのだ、きっぱり断ることはできるだろう。それに、リミがいる。
彼女の魔法の前では、ナンパ男など氷付けにされてしまうだろう。
「なあ達志、先に泳いでちゃダメかな」
「いやダメだろ。子供じゃないんだから」
「ふふ、猛くんは元気ねぇ」
そんな会話をしながら、女性陣が戻ってくるまで……のんびり、待つことにする。
浜辺に場所取りをして、着替えをしている女性陣を待つ、達志と猛、それにみなえ。
達志と猛はすでに水着状態だが、泳ぐつもりのないみなえは動きやすい軽装といった形だ。
こうやって、のんびりと海を眺めている時間も……悪くは、ない。なにも会話はないが、これはこれでいい。
「平和だなぁ」
「平和だねぇ」
吹き付ける風が、冷たくも気持ちいい。その時、「あっ」と声を漏らすみなえが急いで立ち上がる。
「車の中に忘れ物してきちゃった。ちょっと行ってくるわね」
「忘れ物? 俺行こうか」
「いいって。ここで猛くんと待ってなさい」
言って、この場から去っていく。着いていくか、もしくは代わりに行こうとしたのだが……幼なじみとの時間を潰したくないからと、気を利かせてくれたのだろうか。
とはいえ、なにか話すことがあるというわけでもなし。こうしてのんびりしているだけなのだが。
「ねえ、おにーさん暇~?」
すると、誰かから声をかけられる。由香たちか、とも思ったが、声が違うしわざわざおにーさんなんて呼び方はしないだろう。
よって他人であると確信しつつ、声の主に視線を向けると……
「私たちと遊ばなーい?」
……三人組の女性が、いた。もちろん水着姿だ。
三人ともビキニで、驚くことに全員スタイルがいい。モデルをやってると言われても信じてしまうだろう。
ここまでくれば、彼女たちの目的はなにかと想像がつく。そう……いわゆる、ナンパだ。
まさかの、人生初のナンパである。
「なあ猛……」
「あぁ、間違いないな」
猛に確認をとっても、どうやら彼も同じことを考えているようだ。
ナンパ……それもナイスバディの女性からだ。男として、悪い気はしない。
もしも人を待ってなければ、着いていったかもしれない。
「えぇと、悪いけど……」
「あ、そっちの子弟? やだかーわいい。キミも一緒に遊ばない?」
「ぷっ……!」
角がたたないよう、柔らかく断ろうとしたところへ……女性の一人が、達志を指して話す。
その台詞に、思わず猛は吹き出してしまった。
どうやら、彼女らがナンパのターゲットとして選んだのは猛だけだったようだ。
そこは、いい。達志から見ても猛はいい男だと思うし、ナンパされても不思議じゃない。
問題は……達志が、猛の弟であると思われてしまったこと。それは、仕方ないことだとは思う。
なにせ、外見では兄弟の年の差があると思われても不思議ではない。本来同い年には見えないのだから。
だが、だとしても……達志にとってはショックで、猛にとっては笑いのツボだ。
親子だと思われなかっただけ良しとしよう……フォローにならないフォローを自分に言い聞かせる。
「もしかして誰かと待ち合わせ~?」
「あ、あぁ。だからキミたちとは……」
しかし、それで諦めるナンパではない。
「じゃあ、その待ち合わせの人が来るまででいいからさ。いいでしょ?」
「えぇと……」
「悪いけど、私たちがその待ち合わせなので。遠慮してもらえますか」
思いの外食い下がるナンパに、なんと答えればいいのか……言い詰まっていたところに、ナンパ女性の背後から声が。
自然と、みんなの注目は声の主に。
そこにいたのは……
「さ、さよな……」
「お待たせ、た、け、る、くん」
さよなを先頭にした、女性陣。付け加えるなら、笑顔のさよなを先頭にした、だ。
ただし、その笑顔は……笑顔であって、笑顔でない。
その迫力に、達志や猛だけでなく、ナンパ女性も圧されている。
「い、行こっか」
「そ、そうね」
「うん。お邪魔しましたー……」
さよなの迫力に圧され、女性たちは去っていく。
ナンパから解放された男二人ではあるが、一難去ってまた一難。さよなが怖い。
「よ、よおさよな。えっと……み、水着似合ってる、な?」
さすがにまずいと感じた猛は、すかさずフォロー。
だがこれは、苦し紛れに出た言葉などではなく本心だ。
女性たちが案外すんなり引き下がったのは……さよなの迫力プラス彼女たちの水着姿が原因だ。
なぜならそれは、モデルのような彼女たちをしてなお……勝てないと、そう思わせるほどの存在がいたからだ。
だから、似合ってるというのは嘘ではない。嘘ではないが、タイミングが悪く……さよなも、素直に喜べない。
「そんなこと言って猛くん、ナンパが嬉しかったみたいだけど?」
仁王立ちで腕を組むさよなが怒っている原因は、やはりナンパにある。潔く断ってくれなかったことが、彼女には不服だったらしい。
さよなが着ている水着は、フリルの付いた白いビキニの上下。さらに、花柄のパンツの上にはスカートを着用したタイプのものだ。
スレンダーなさよなの体型を引き立てる素材となっている。
ちなみに……この水着、『盛れる水着』と謳い文句があったのは、さよなだけの秘密だ。




