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第167話 海へ来た!



「海だ~!」


「海だー!」


 青い海、白い砂浜、照りつける太陽。

 目の前に広がる大きな大きな海に、両手を上げて声をあげるリミと猛。「おーっ」と雄叫びをあげているが、そのせいで注目を集めてしまっている。


「二人とも、他の人の迷惑ですから」


「そ、そうだよ、恥ずかしいから……なんで猛くんまで一緒になってるの」


 そんな二人を注意するセニリアとさよな。まるで二人の保護者のようだ。

 セニリアに関しては間違っていないが。


「だってだって、初めての海なんですもん!」


「だってだって、久しぶりの海なんだぜ!?」


「だってじゃないよ!」


 まるで子供のようにはしゃぐ二人に、さよながツッコミ役へと回る。リミがはしゃぐのはわからんでもないが、猛もなんて。

 大人になったと思っていたが、まだまだ子供ということか……


 なんだか、おかしくなってしまう。


「おい達志、なーに笑ってんだよ」


「べ、別に?」


「はんっ、そんなこと言って、お前もはしゃぎたくて仕方ないくせに」


「猛くんはもう大人なんだから自重して!」


 二人のやり取りを見つめていると、あの頃に帰ったようだ。

 大人になっても、その関係までは変わらない。


 ふざける猛とそれを注意するさよな。懐かしくて泣けてしまいそうだ。


「なあさよな……大人になってもさ、子供心を忘れないって素晴らしいと思わないか?」


「二十後半の男が海で叫んでる姿が素晴らしいとは思わないかなー」


 あと意外に、さよなは辛辣である。


「さーさーみんな、とりあえず着替えていらっしゃいな。場所は確保しておくから」


 まだ海についたばかりで騒ぎ立てるメンバーに、パンパンと手を叩いてみなえが一旦静かにさせる。

 年長者だからか、こういう場の沈静化は心得ているようだ。


 決して少なくない浜辺を見回しながら、場所の確保を目指す。


「あれ、おばさまは泳がないんですか?」


「この年でそれはちょっとね。私は、荷物を見張っておくわ」


 そもそもみなえが海に来たのは、保護者としてだ。

 もちろん、ここにいる半分以上は成人した大人であるが……みんなが満足に遊べるように、率先して荷物番を買って出るためでもある。


 どうしたって、荷物番が必要になれば一人あぶれてしまう。ならば、自分がその役目を担おうと、やって来たのである。

 とはいえ、そこにマイナスの意味はない。実際、海でははしゃぐ年でもないと心得ている。


「そういうことでしたら、ご厚意に甘えさせてもらいましょう」


「そうですね……って、セニリアさん!? なにしてるの!?」


「? なにって着替えですが……」


 みなえの提案が、受け入れられたところで。

 突然、この場で服を脱ぎ出そうとするセニリアの奇行に、慌ててさよながそれを止める。


 まさかこんなところでいきなり服を脱ごうとするなど、誰が予想できただろう。


「ここ! 公共の場! 着替えるとこあっち!」


「いやしかし、下に着ていますし……」


「男の人ならともかく女の人がその認識はダメ! 恥じらい捨ててきたの!?」


「私だって恥じらいはあります。下が水着でなければ、こんなところで脱ぎませんよ」


「そういう問題じゃない! ああもう、いきますよ!」


 さよなが過労死してしまわないか心配になるくらい、セニリアの中の常識はどこかずれている。そりゃ、どうせ水着を着ているのだから恥ずかしくない理論はわかるのだが……

 常識人と思っていただけに、意外だ。


 セニリアの手をとるさよなが、更衣室を指差す。リミも由香も、ただただ苦笑いを浮かべるばかりだ。


「まあ女性陣は着替えてきなよ。俺らは待っとくから」


「だな、俺らこそ下に履いてるし」


 達志と猛はというと、同じく下に水着を履いているからと……その場で、脱ぎ出す。

 男はこういうとき、楽だ。


 露になった男二人の半裸に、「きゃっ」と目を手で覆うのはリミ、由香、さよな。

 しかし、指の隙間からしっかり見ている。


 大工である猛は、職業柄動くことが多いからか、引き締まった体をしている。達志は、体育祭に向け肉体改造をしていたおかげもあって、猛ほどではないが筋肉のついた体だ。

 ちなみに、二人ともトランクスタイプの水着だ。


「あらあらまーまー、猛くんったらこんなに立派になって」


「お、おばさん、やめてくださいよ」


 無遠慮に猛の腹筋を触るみなえの行動が、さよなには羨ましい。これが、幼なじみの母親というポジションか。


 さよながやったら通報されかねない行為を、平然とやってのけるとは。さすがである。

 猛も、やめてと言いながら満更ではなさそうだ。


「どしたの、さよなちゃん」


「な、なんでもない。こほん。じゃ、私たちはあっちで着替えてきますね」


「おーう」


 女性陣は着替えに向かい、残った達志、みなえ、猛は場所確保へと向かう。

 あまり海から離れておらず、かといって近すぎない場所がベストだ。


 周りでは、カップルや子連れらしき集団が、日々の鬱憤を忘れるかのように羽を伸ばしている。きゃっきゃうふふの光景……なんと、平和な時間だろう。


「おーい、この辺でどうだ?」


「お、いいじゃん。ここにしよう」


 場所を確保し、日差し防止のパラソルを地面に刺す。ブルーシートを敷いてから、荷物を置いて準備は完了。あとは、女性陣が来るのを待つばかりだ。

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