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第164話 海に向けて



 さよなの水着は見れなかったわ、ルーアは帰ったわ……なにをしに来たんだろう、あの子は。

 水着を買いに来たはずなのに、他人の水着着替えを見ただけで満足して帰っていってしまった。


「ま、そう気を落とさないでよ。自分で言うのもなんだけど、その水着なら達志くんなんかイチコロだから!」


「うん…………って! べ、別にたっくんのことは……落とすとか、そんなんじゃ……」


「はいはい。わかってるから」


 由香自身、達志への想いが消えてはいない……さよなには、それがわかる。

 本人は否定しても。ごまかそうとしたって、わかる。


 十年という月日が経ち、達志と由香は同い年の幼なじみという関係にありながら、お互いの歩む時間に大きな差ができてしまった。

 これが、由香の気持ちにも達志の気持ちにも大きな障害となっている。


 その想いは消えることはなかった……故に、二人は現実的な問題に直面してしまった。

 由香は十年その想いを抱き続けたままで、達志に至っては十年も経ったという感覚すらないのだ。


 教師と生徒という関係になってしまった以上に、十年という時間が二人の間に壁となって立ち塞がる。しかも、問題はそれだけではない。


(……リミちゃん、か)


 達志が十年間眠る要因を作るに至った存在……リミ。

 彼女は、十年前達志に助けられてから、ずっと達志のことを気にかけてきた。それが時を経て、達志と同い年にまで成長した。


 友達という贔屓目を抜いてもリミは美人だ。

 そんな女の子が、純粋に自分のことを慕っている……男ならば、このシチュエーションになにも思わないはずがない。


 達志に対するリミの態度は、助けられた恩義によるものか、それとも恋愛によるものか……それはわからない。

 だが、経緯はどうあれ同じ異性を十年も想い続ける……これはもう、恋と言ってしまっても差し支えない。と思う。


 もしリミが恋愛感情を達志に抱いたら……もしくは、すでに抱いていてそれに気づいたら……それは、由香にとって年月以上の障壁となることだろう。

 だから……


「由香ちゃん……頑張ろうね。私も、応援するから」


「? う、うん?」


 由香にはとりあえず、今度の海で達志を悩殺してもらいたいものだ。



 ――――――



 リミから、海へ行く予定があることを知らされてから翌日。

 達志は、自室にて机に突っ伏していた。昨日の体育祭での失態を恥じてでは、ない。


 こうやって、誰かとどこかへ遠出する……それは久しぶりのこと。なのだろう。それを考えていた。

 達志にとってはそれほど真新しいことでもない。こんなことを言ったら、空気を悪くするだろうから言わないが。


 由香たちにとって、達志とは十年越しの遊ぶ予定なのだ。

 その気持ちに、水を指す権利などたとえ達志本人であってもあるはずがない。


 ならばなにを考えていたのか……それは……


「海かぁ……やべーすげー楽しみ。由香やリミ、さよな、セニリアさんの水着かぁ。いやそれ以前に俺、泳げるのかなぁ?」


 海へ遊びに行ったときのウハウハテンションが、今から来ていた。

 海……なんて素敵な響きだろう。しかも、一緒に行く女性陣は皆、スタイルのいい人ばかり。


 なんだかんだいっても、お年頃の男子高校生なのだ、楽しみなものは楽しみ。

 とても本人たちの前では言えないから、こうして一人のときにニヨニヨ笑うしかない。


 自分が眠っている間に、成長した由香とさよな。特に由香は、男にとってはとても危ない方向に成長しているので、楽しみな分心配でもある。

 良からぬ輩に、ナンパされないといいが。


 ……無理だろうな。なので自分が、しっかり守ってやらねば。


「……って、あいつのが大人なんだよな」


 つい同じ歳で考えてしまったが、由香の方が年上なのだ。人生の場数も、自分とは比べ物にならないだろう。

 自分が由香を守る必要は、どこにもない。子供のリミのことは、保護者セニリアが目を光らせているだろうし。


 次の問題として、達志が泳げるかどうか、だ。眠ってしまう前の達志は問題なく泳げていたが、こうして目覚めてからは不明だ。


 体が固くならないよう、母であるみなえは定期的に息子の体をマッサージしていた。それプラス魔法。

 そのかいもあって、十年寝たきり状態にも関わらず、達志の体はスムーズに動かせた。


「体力まではなぁ」


 身体は動かせても、体力の低下は免れない。

 今でこそ普通に生活する分には問題ないが、目覚めたばかりの頃は階段を上がるだけで息切れを起こす始末だった。だから……泳げなくなっている可能性が、高い。


 仮に泳ぎを覚えていたとしても、体力は衰えているため長く泳げはしないだろう。

 さすがに沈むほど低下しているとは思いたくないが……


「泳ぎの練習、なんてできないしなぁ」


 ただ体力をつけるだけ、とは違う。それならば筋トレや走り込みなど、いくらだってできる。だが泳ぎに関しては、そうはいかないだろう。

 十年前……達志の中では去年だが……それだけのブランクがあれば、泳げなくなっている可能性もあり得る。


 そんな格好悪い姿、見せたくないが。

 確かめようにも、近くにプールなんてないし……ぶっつけ本番しか、ないのであろうか。

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