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第159話 いざ水着売り場へ!



 水着を買いに来た由香、ショッピング中のさよなと遭遇。


「そ、そっかぁ。じゃ、私はここで……」


「待ちなさい」


 さよなと出会ったことは誤算だ。お互い、ショッピングによく利用する場所なので会わないことはないが……

 まさか、水着売り場でエンカウントするとは思わなかった。


 なので、今日は出直そう。先ほど固まったはずの覚悟を早くも砕き、踵を返したところで……肩を、掴まれる。

 もちろんさよなに。


 振り向き顔を確認すると、笑っている。さよなは、笑っている。その笑顔が、なんだか怖い。


「水着、選ぶんでしょ?」


「さ、さよなちゃん……?」


「選ぶんでしょ?」


「い、いやぁ、も、もう買ったし……」


「買い物袋も何もないし、その鞄の中にも入ってないよね。今から選ぶところだったんだよね」


 笑顔だ、ものすごい笑顔だ。だが、威圧感がすごい。


 さよなは、女性だ。その上デザイナーだ。その前に一人の女性だ。

 なので、由香が水着を選びにきた……なんておいしいシチュエーションを見逃すはずがないのだ。むしろ由香の水着を選ぶつもりなのだ。


「いやいや、いいって! ほら、家の中探せば、昔の水着が出てくるかもしれないし……」


「何年前の水着着るつもりよ! そもそも水着だって、最後に買ったのは達志くんがあんなことになる前でしょうが! あんた三十歳手前で学生時代の水着着るつもり!?」


「さ、さよなちゃん? なんか口調が変わってるんですけど……」


 由香の手をとり、ぐいぐい距離を詰めてくる。普段おとなしいからかはわからないが、なにかに集中したときは人が変わったように積極的になる。

 デザインの仕事のときなんか、すごい剣幕だった。


 由香は知らないが、以前の体育祭準備の件で達志のリストバンド、猛のハッピを製作する際に見せたそれと、まさに同じだ。


「いや、実は去年買ったやつが……」


「うそ! 由香ちゃんあれ以来水着買ってないでしょ! 私わかってるんだからね!」


「な、なんでそんなこと……」


「わかるよ! 私も……猛くんだって、そうなんだもん。幼なじみなめんな」


 達志が眠ってしまって以来、水着を買っていない……それは由香だけでなく、さよなや猛も同じことだったのだ。

 だからこそ、由香が嘘をついていることもわかる。幼なじみなのだから。


「うっ……で、でもぉ……」


「観念しなって。だいたい、どうしてそんなに嫌がるの」


「嫌ってわけじゃ……ないよ。そりゃ、私だってかわいい水着買いたいけど……」


 別に、水着を選んでもらうのが嫌なわけではないのだ。

 むし自分で選ぶよりも、さよなならばセンスもいいに決まってる。


 反射的に帰ろうとしてしまったが、考えてみれば……ここでさよなに会えたことは、運が良かったのではないだろうか。


「嫌じゃないのね。なら私が見立ててあげる! 大丈夫、男子高校生なんてちょろいから、由香ちゃんならちょっと際どい水着着て誘惑すればすぐに落とせるって!」


「なんてこと言ってるの!?」


 テンションが上がってからか、口調が変どころかとんでもないことまで言い出すさよな。ちょろいだの誘惑だの、こんなことを言う子ではなかったのに。


「だ、だいたい私は、別にたっくんを誘惑なんて……」


「あっれぇー? 私は男子高校生としか言ってないのに、誰が達志くんなんて言ったのかなぁ?」


「~~~! もー!!」


 まさかさよなにからかわれる日が来るとは……月日の流れとは怖いものである。

 とはいえ、このやり取りが楽しいのもまた事実だ。


「ふふ、由香ちゃんかーわいい。じゃ、このまま水着選びに行こー!」


「え、ちょっ……」


 すっかりテンションの上がったさよなに手首を掴まれ、そのまま由香は……引きずられるように、水着売り場の店内へと引っ張られていく。


 さて、水着売り場の店内へと足を踏み入れた由香であったが……目の前の光景に、圧倒されていた。


「ふぁあ……なに、これ……」


「なにって、水着だけど」


 目の前に広がるのは、水着、水着、水着……水着ばかり。それはわかる。白や黒や、いろんな色のものがいろんな形で展示されている。

 水着売り場なのだから、当然だ。


 店内は、水着を選ぶ客で賑わっている。さすが、この辺りで一番大きなデパート、そして新しくできた水着売り場。感心する。

 だが……由香には、素直に感心する暇などない。なぜなら……


「こここっ……こんなのが、みみ、水着なの!? ほとんど紐じゃない!」


「いや、わざわざそこから選ばなくても……」


 由香が手に取ったのは、一般的なビキニタイプなどの水着ではなく……面積の少ない、少なすぎるほぼ紐とも言える水着だ。

 顔を真っ赤にする由香であったが、その姿にさよなの中でいたずら心のようなものが芽生える。


「じゅ、十年前まではこんなハレンチな水着、なかったはずなのに……」


「どうかなぁ、存在自体はしてたと思うけど……というか由香ちゃん、もしかして十年前から水着を買ってないどころか、水着を見てすらいない?」


「だ、だって……海にも行かないのに、水着なんか見ても意味ないし……」


「まあわかるけど……私は、仕事柄いろんな服見たりするから」


「水着は服じゃないよ!」


 紐のような水着が十年前からも存在していたかはともかく、どうやら由香は十年前から、水着売り場に足すら踏み入れてないらしい。

 だから今、どんな水着が流行っているのかも知らない。


 これは……さよなの中にあるデザイン欲が、暴れまわる。


「よし、よし……と。なら、早速二着目からの水着も選んじゃおっか」


「うん。…………あれ、今二着目って言った? 私が手に取っただけの水着もカウントされてない? ねえ?」


 別に選んだわけではない。ただ派手で目についただけの水着……

 それを手に困惑する由香をよそに、さよなは水着を選んでいく。


「あのー……私の水着だから、私も選ぶよ……」


「だーめ。どうせ由香ちゃん、地味目の選ぶつもりでしょ? せっかくスタイルいいんだし肌出していかないと! 胸もお……お、おおき、い……ん、だし……ちっ」


「さよなちゃん?」


 由香のことだ。かわいい水着が欲しいとは言っていたが、あんな紐水着を見た後ではなるべく露出の少ない、地味な水着を選ぶはずだ。

 さよなは考える。


 露出が多い=かわいいというわけではないが、それでもさよな的には、由香にはちゃんと、合った水着を着てもらいたい。

 なので自分には圧倒的に足らない胸部の自滅をしてでも、ちゃんと選びたい気持ちがある。


 だが、由香自身がどんな水着を選ぶかも気になる。もしかしたらさよなが知らないだけで、センスはいいのかもしれない。

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