第14話 謎のウサ耳少女登場
病室に顔を覗かせた女の子……しかし、顔の半分以上が隠れているため、残念ながらわかるのは髪の色と瞳の色……
だが、それよりも達志の目を引くものがあった。それは彼女の頭に生えた白い耳。それに……
「えっと……とにかく、入ったら?」
「! は、はひ! し、失礼します!」
達志の言葉に、少女は肩を奮わせ、オーバーなリアクション。その姿に苦笑いを浮かべつつ、達志は深呼吸を繰り返す少女を見つめた。
何度か繰り返した後、ついに少女は足を踏みだし、その姿を達志の前に見せる。
由香とは違い、今度こそ知らない女の子だ。
今まで一度も日焼けをしたことがないのではないかと思えるほどに、白い肌。腰まで伸びた白髪は美しく手入れされ、まるで輝いているかのような印象を受ける。
全体的に、白い、といった印象だ。
サラサラの髪に指を通しても、引っ掛かることさえないだろう。その瞳に宿る赤い色には、見る者を惑わす魅力があるように思えた。
スタイルはよく、出るところは出て、締まるところは締まっている。年齢は達志と同じくらいであろうか。
その美貌は、思わず見惚れてしまうものがあったが、目を引かれるのは何も彼女の容姿だけではない。
その身に纏う制服……それには、達志自身見覚えがある。
何故ならその制服は、達志が通っていた高校のものだったのだから。紺色のブレザーに、同じく紺色のスカート。
胸元には赤いリボンが付いており、端的に言うならばそれはセーラー服だ。
美しい容姿と、懐かしい制服。その姿に、思わず息を呑む。
「こ、その、こ、あ、こんばんは……」
「え、あぁ……こんばんは」
おどおどした印象の少女は、なんとか声を絞り出し、お辞儀をする。
達志もまた、我に返り、軽く礼をする。頭を下げた少女の耳が、ぴょこんと揺れる。
謎の少女……その頭にぴょこんと生えるのは、動物の耳。それはウサギのように白く長い、いわゆる、ウサ耳だ。
見た目は人間と大差ないのだが、その頭にはウサギの耳が生えている。白いウサ耳は彼女の容姿に見事にマッチしている。白い肌、白い髪の色、赤い瞳……まさに、ウサギだった。
謎のウサギ少女は、なんの目的でここを訪れたのか。達志の疑問が通じたかのか、疑念の視線を受ける少女は、緊張したように口を開く。
「あ、あの! 私、リミ・ディ・ヴァタクシアと言います! リミと呼んでください!
覚えているかわかりませんが、じゅ、十年前、たた、タツシ様に助けていただいて……ずっと、お礼が言いたかったんです! それで、ずっとここへ……
あぁ、いきなりタツシ様なんて、なれなれしくしてしゅみましぇ……っ」
わかりやすく緊張しているウサ耳少女……リミと名乗る少女は、白い頬を赤く染め、口早に自分の主張を言葉にする。
早口で、所々噛んではいたが、その内容を聞き取ることはできた。それを受けて、達志は理解する。
つまりは、ウルカから聞いた、『達志が助けた少女』というのは……彼女のことだ。そして、自分を助けたことで達志は十年間眠り続けた……
それを負い目に感じていた彼女は、こうしてお見舞いに来たわけだ。
「キミ……」
「リミです!」
「……リミ、ちゃん……」
「リミです!」
初対面の女の子を呼び捨てで呼ぶのには抵抗があったのだが、どうやら呼び捨てでないと許してくれそうもない。
緊張している様子の彼女は、しかし頑なだった。
「……えっと、じゃあ、リミ。リミは、ここに来るの初めてじゃないの?」
「はい! 毎日通わせていただきました!」
達志の質問に、リミは真っ直ぐな姿勢と声で答える。ウサ耳もぴんと立っており、まるでリミの感情とリンクしているよう。
その姿勢は、どこか気丈としていた。それにしても……
「ま、毎日……?」
「はい! 一度も欠かしたことはありません! タツシ様が眠ってしまった日から、ずっと……」
毎日通っていたという告白。それには素直に驚いた。十年間、一度も休むことなく来てくれたというのか。
負い目に感じていたにしろ、それだけの理由で……否、達志にとってはそれだけでも、リミにとってはそうではなかったのだ。
それほどまでに、この子は罪悪感を感じていたのだろう。そしてさっき達志に名前を尋ねたのも、目の前の人物が、自分を助けてくれた人物だと再確認するため。
確かに、言いようによっては、この子を助けたせいで達志は事故にあったのだ。しかしそのことで、この子を恨んだりするわけではない。
むしろこんなに自分を想ってくれていて、達志にとっては何だか嬉しいくらいだ。
……ところで。
「その……様っていうのは?」
「あ、これはその……私が勝手に、呼んでるだけです。タツシ様が嫌でしたら、やめます」
「嫌ってわけじゃ……ないけど」
嫌というわけではないが、誰かから様付けをされるというのは、なんだかむずがゆいのだ。そんな呼び方、これまでの人生の中で呼ばれたことなど当然ない。
助けてくれた恩人、という気持ちからか、達志のことを様付けで呼ぶのは、リミにとっては当然なのかもしれない。
それでも、気恥ずかしいことに変わりはないのだが。
「まあ、呼び方はさておいて……リミが責任を感じることはないよ。俺が勝手にやったことだし……
むしろ、キミが無事でよかった」
「……ぶわっ」
「うわ!?」
なんにせよ、責任を感じている少女に、その必要はないと伝えなければ……そして、それを素直に伝えた結果。
突然涙を溢れされ、リミは号泣してしまった。
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