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第145話 はむはむはむ、しくしくしく



 なんだか、猛とセニリアが仲良さげだ。

 しかも……


「えっとえっと……猛、くん?」


「どうした達志。なんでお前がくん呼びなんだ?」


「いや、その……セニリアさんと、仲良いね……なの?」


「なんだそのおかしな文章は。

 仲良いっていうか……弁当作ってる時に、なんか意気投合してな。ま、以前から交流あったりはしたんだけど」


「へぇ、そう……えっと、今名前、呼び捨てにしてなかった?」


「あぁ。まあ本人が嫌ならやめるけど、ちゃんと許可は取ってるぜ?」


 名前呼び捨ての衝撃に頭がついていかないが、本人はいたって冷静だ。

 本人に、特別な意味はない……というのも、昔から猛は、異性に対しても名前を呼び捨てにするタイプだったのだ。


 だから、不思議ではないといえばないのだが……先ほどから固まってしまっているさよなが、気がかりでならない。


「お弁当……共同作業……深まる二人の仲……」


「落ち着けさよな。なんにもないから」


「はむはむ」


 一旦さよなを落ち着けはしたものの、なにもないとは、断言しにくいのが事実だ。

 だってセニリアは美人だし、悔しいが猛はカッコいいし。


 だがまあ……心配するだけ損な気もする。

 猛は昔から、モテてはいたが色恋沙汰に興味なしな性格だったし、セニリアもお堅い性格で、恋愛には不向きそうだ。


 それに男女の友情などいくらでもある。

 いけないいけない、年頃とはいえ、すぐに物事を恋愛に結びつけてしまうのは、いかがなものか。


「あ、タケル殿、口にソースがついてますよ」


「あ、マジ? ありがと」


「ノォオオオオ!!!」


「はむはむ」


 目の前で、猛の口元に付いたソースを拭き取ってやるセニリア。

 その光景に発狂するさよなと、なんともいえない気持ちになる達志。


 恋愛に結びつけてしまうのは云々と、思ってた矢先にこれだ。やるせない。


「ん、どうしたさよな」


「はむはむはむ」


 当の猛はきょとんとしており、原因の一端はお前にあるんだよと言いたくなる。

 とりあえず背中を叩くことで、さよなを落ち着かせるしかない。


「まあ、気にすんなよ。今は多分、なにを言っても逆効果だから。それより……」


「はむはむ……」


「さっきから食べ過ぎじゃない!?」


 今のはなにも深い意味はないただ世話好きなセニリアさんが世話の焼ける猛くんに対して子供相手に接するのと同じような感覚だそうに違いない……

 まるで、呪詛のように呟くさよな。


 そんな彼女に軽く恐怖を感じつつ、隣ではむはむやっている人物へと、ツッコミをいれる。


 先ほどから、このやり取りを気にすることなく、並べられた料理を食べている人物。ウサギなのに、ハムスターみたいに頬を膨らませているリミだ。

 騒がしい中で、黙々と食事を進めている。


「はむっ……ごくっ、ん。ん、んっ……ぷはぁっ……すみません、あまりに美味しくて」


「美味しいよ、美味しいけどもリミって結構神経太いのな!」


 達志にとって、今にも胃が痛くなりそうな光景なのに、このウサギはのんきなものだ。

 とはいえ、リミになにをわかれというのも、無理な話かもしれない。


「セニリアとタケル様、とても仲が宜しいですよね!」


「かはっ」


「追い討ちかけるのやめたげて!」


 食事中も、どうやら一連の流れを見ていたらしいリミは純粋に、二人の仲の良さを思ったらしい。

 しかしその発言はさよなにクリティカルで、悪気のない笑顔がまぶしい。


 そしてその流れを見回し、年長者であるみなえは微笑ましそうに、お茶を飲んでいる。

 一番神経が太いのはこの母親かもしれない。


「それにしても残念ねぇ、由香ちゃん来られなくて」


 だがそろそろ自分も会話に混ざりたかったのか、会話の合間を狙って切り込んでくる。


 話の流れを変えるとしては、良い話題だ。このまま二人の話題を続けるのは、さよなには酷だと判断したのだろう。

 なので、この場にいそうでいない人物……如月 由香の話を、切り出した。


「ま、仕方ないっしょ。教師は基本、教師用テントで食べるらしいし」


「でも残念です」


 そう、幼なじみではあるが教師である由香は、この場にはおらず……教師用のテントで、昼食をとっている。

 なんだか寂しい気もするが、決まりならば仕方ない。


 とはいえ、由香も教師生活は長いのだ。幼なじみである猛やさよなと一緒に食べられないのは残念だが、同僚とも楽しくやっているに違いない……

 そう思いながら、おかずを口に運んでいく達志であった。


 ――――――


「しくしくしく……」


 一方教師用テントでは、こじんまりと隅に寄って弁当を食べる、由香の姿があった。

 その正面に、もう一人……由香の同僚の女性教師が、いた。


 彼女は以前、由香と飲みに行った人物だ。


「……泣くか食べるかどっちかにしてくださいよ、如月先生」


「うぅ、たっくんと一緒に食べたかったぁ……」


「誰!?」


 ちなみに二人がこんな隅にいるのは、男性教師からの誘いがしつこいからなのだが……

 それから逃げるうち、二人だけの食事となってしまったわけで。


 しかし、由香の様子がおかしいのは、誘いにうんざりしているからではなく、別にあるようだ。

 たっくんとは、誰だ。はて彼氏でも来ているのだろうか?


 以前お酒に付き合ったときといい、如月先生って結構めんどくさいんだな……

 発見した新たな一面を、嬉しく思えばいいのか思わなければいいのか、よくわからない女性教師であった。


「たっくぅん……」


「はいはい、たっくんじゃないけど一緒に食べてあげてますから、元気出してください」


「あぃい……」


 泣きながら食べる……めんどくさく、そしてかわいい人間であるなと、きゅんとした瞬間である。

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