第143話 お昼ご飯の時間!
さて、午前中の種目がすべて終わり……時間は、お昼ご飯の時を迎えていた。
家族や友達と、弁当を持ち寄って和気あいあいとした空間を過ごす。
ある意味、体育祭のメインとも呼べるイベントだ。
もちろん、用事で来れなかったりする場合もあるから、みんながみんなというわけではないが……
その点で言えば、達志は恵まれていた。
「いやぁ、母さんとセニリアさんの弁当楽しみだな」
「私も作りたかったのに……」
見学に来ているみんなの所へ向かいつつ、早くも腹の虫が暴れだす。
先ほどのビーチフラッグスで体力を使ったため、余計にお腹ペコペコだ。
ちなみにビーチフラッグスは、ラストランナーであるヤー・カルテアが怒濤のトップで旗を勝ち取り、チーム戦としては彼女所属の黄チームが、一番点数を稼ぎ幕を閉じた。
情けない話、まったく活躍できなかったが……そこは、午後の部で活躍することで、挽回できると思いたい。
きっと最後には派手な活躍を飾ってみせるから、その時に備えて今は、腹を満たすのだ。
「お、いたいた」
この辺りにいる、と連絡を受け、探していると……視線の先に、母みなえの姿を発見。
ちょうどいい木の下、ブルーシートを敷き、座る母の隣にセニリアがいる。
さらに……
「お、猛。それにさよなも。そこにいたんか」
「おう、お疲れさん」
「達志くん、リミちゃん、お疲れ様」
幼なじみである茅魅 猛、五十嵐 さよなの二人も座っていた。
幼なじみといっても、見た目では親戚のお兄さんとお姉さん程度に見える。
誰も、この三人が幼なじみだとは誰も思うまい。事情を知る人でなければ。
さよなはともかく、猛はわざわざ休みを取って来たらしい。以前、行くとは言ってくれたが。
嬉しい気持ちと、そこまでしなくても、という気持ちで押し潰されそうだ。
そして……恥ずかしさでも、押し潰されそうだ。
「猛、その服……」
「あぁ……例の応援衣装だよ」
座る四人を見て……まず注目するのは、猛だ。正確には、猛が着ているものだ。
それはいわゆる、ハッピだ。私服の上に羽織っている。まさに今、猛が言った『応援』にぴったりの衣装だ。
これは以前、達志と猛がさよなの家に呼び出され、半ば強制的にデッサンされたときの……その、完成した衣装だ。
ちなみに達志は、作ってもらっていたリストバンドを、ちゃんと手首に付けている。赤色の、かっこいいやつだ。
デザインとして、赤を基調とし、所々に黒い斑点がついているもの。
身に付けたことのないものを付けているというのに、やけにしっくりくる。さすがはさよなだ。
「なんだ、ジロジロ見て」
「いや……」
応援衣装を着ている猛……その姿は、なんというか、目立つ。
季節は夏であるというのに、暑苦しそうな黒い色を基調としており、背中に赤い文字ででっかく『志』と描かれている。
なんとも気合の入った衣装……というか、それを着ている猛が、めちゃくちゃ張り切っているみたいだ。
「猛……」
「言うな達志。俺もさすがにこれはと思ったが……あの威圧感には勝てなかった」
「そうか……」
せっかくさよなが、張り切ってデザインしたものを……
……というより、「私がデザインしたものが着れないのかオオン?」といった気迫の前に、だんまりを決め込むしかなかったらしい猛。
なんだか想像しやすい。
色や文字以外にも所々、凝ったデザインをしてあるな、という箇所があるのだが……
達志としては、これを着ている猛と、これを作らされたであろうさよなの知り合いが気の毒である。
気持ちは嬉しいが。
「なあ、もしかしてその『志』って文字……」
「もちろん、達志くんの名前から取ったんだよ!」
えっへん、と、ない胸を張るさよなに対し、達志はなにも言うことができない。
だって『達志』から『志』を取って、それがハッピの背中に描かれているなんて、どう反応すればいいのか。
これなら普通に、志って意味だけの方が良かった。
不幸中の幸いなのは、『志』が達志を指している、とパッと見わからないところだろう。
なんか張り切ってる人がいるな、程度で。
「けど驚いたよ。猛くん、それ着たまま達志くんの応援始めようとするんだもん。恥ずかしいから止めたけど」
「そのための応援衣装じゃないのかよ。着たまま黙って座ってたら気まずいわ。もう着たんだし、どうせならめちゃくちゃやってやろうかなって思ったが」
「やめてくれ! 主に俺が恥ずかしさで倒れるわ!」
背中に『志』を載せた、黒ハッピの男。
そんな男にそんな格好されて、名前を呼ばれて応援された日には、羞恥やらなんやらでどうなってしまうかわからない。
一方、人に派手な衣装着せといて、いざ応援するとなったら恥ずかしがる気持ちがよくわからないが……
投げやりになった猛を止めてくれて、さよなに感謝である。
「まあまあみなさん。話は食べながらでもできますし……まずは、腹ごしらえといきませんか?」
話に夢中になっていたところへ、せっせと弁当箱を並べるセニリアの声が届く。
それは一般的な弁当箱ではなく、重箱だ。しかも何段にも重なったものがいくつも。
「えへ、張り切っちゃった」
母親の「えへ」など聞きたくもないが、そんなこと気にならないくらいに、達志は目の前の光景に釘付けになっていた。
弁当箱の蓋が開くと、そこにはなんとも豪華な品々。
一段にはまるごとご飯、一段にはまるごとおにぎり、そしてその他おかず尽くし……
肉から魚から野菜、それはもう色鮮やか且つ栄養を考えられた、メニューだ。
これを、みなえとセニリアの二人で作ったというのか。
見ると、みなえは自慢気にVサインを、セニリアは軽く会釈をしている。




