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第142話 ぶつかり合いの結果!



 なにかが飛んできて、達志はそのなにかを、なんとか避けることができた。

 どうやら、マルクスの仕業だ。彼は、レースを共に走っていたもう一人を掴み、引っ張り……後ろにぶん投げたらしい。

 つまりは、人間砲弾だ。そんなのありかよ、と叫びたい。


 結果、後ろを走っていた達志にぶつかりそうになったが、それを避けることに成功したのは幸運だった。

 いや、ぶつかりそうになったのではない。マルクスは、完全に達志を狙っていた。


 思わぬところで、体が反応してくれたらしい。それでも、体勢を崩してしまったことに変わりはなく……転びそうになり、手をぶんぶん振ってしまう。

 バランスをとろうと右往左往する腕……それはなにかを掴んだ。


「おわっ!?」


「ぶはっ!」


 幸か不幸か、前方を走るマルクスの服を掴み……そのまま、勢いあまって二人とも転倒。

 ……するかと思いきや、その場で踏ん張る。


 さらに驚くことに、後ろから達志に掴まれているにも関わらず、マルクスはそのまま走るのを続行。

 人一人がぶら下がっているため速度は落ちるが、人一人をぶら下げての状態で足を進め続ける。この体のどこに、そんな力があるのだろうか。


「ちょ、そんな引っ張らないでぇ!」


「お前が、離せば、いいだろ!」


 ここで手を離せば転ぶ。しかも距離を離されてしまう。

 かといってこのまま掴み続けても、ただ引きずられるだけだ。ついていくのもやっとだし。


「なら、寸前で……っておわぁ!?」


「ふん!」


 こうなれば、旗を取る寸前でこちらから手を伸ばし、先に取るしかない。勝つためにはそれくらいしないとダメだ。

 決してズルくなんてない。ズルくなんてないのだ。


 が……そうそううまくはいかない。やると決めるや否や、体勢が大きく崩れる。

 マルクスが、強引に達志を引き剥がしにかかったのだ。


 なんとか離されないように、必死に掴む達志だが、異様に強い力で振り払われる。人の皮を被ったゴリラじゃないかと言いたくなるくらいに。

 握力ゴリラなんて、リミだけで充分だ。


「いでっ」


 派手に振り払われた達志は、後頭部強打。地面に打ち付けてしまう。

 残念な結果に終わりながらも、振り払われる寸前……達志は、見た。マルクスの額から、なにかが生えているような。


 五人で競う、このビーチフラッグス。スタート時には、当然五人いた。

 しかし、スタート直後にマルクスタックルにより一人転倒。達志を狙った生徒も、勢い余ってマルクスにやられ、これも転倒。

 さらに、スタートし順調に走っていたもう一人は、マルクスに人間砲弾に使われ、顔面を地面に打ち付けた。


 残っていたのは、達志とマルクスの二人のみ。

 激しい攻防の結果……しがみつく達志を、マルクスは強引に振り払う。


 そして……


「っ、つつ……あー、あちゃー……取られちったか」


 打ち付けた後頭部を擦り、達志は起き上がる。そして、見た。

 達志を振り払ったマルクスの手に、旗が握られているのを。旗は一つゆえに、この種目には二位、三位が存在しない。

 そのため、旗を取ったチームの一本勝ちだ。


 達志は結局、意気込み充分結果不十分となったわけだ。

 悔しいが、不思議とさっぱりしていた。


 ちなみにその後の五戦目も、達志所属の赤チームは旗を取れなかった。

 なので、ビーチフラッグスではまったく点を取れなかったことになる。


「うぅ、面目ない」


「いやあ、すごかったよ。どんまいどんまい」


 ビーチフラッグスが終わり、達志及び赤チーム他メンバーは、テントへ戻る。

 五人いて、一点も点が取れなかった。その不甲斐なさに、沈む一同。


 しかし、迎えてくれるチームメンバーは、誰一人としてそれを責める者はいなかった。


「確かに勝てなかったのは、残念だったけど、みんな楽しそうだったしね。

 特に、勇界くん!」


「お、俺?」


 チームメンバー一人一人を労いつつ、蘭花は達志を指差す。

 その手で、達志の手を取り、ぶんぶんと振った。


「そうそう、見ていても、楽しんでいるのが伝わってきたよ!」


「お、おう、そうか……」


 正直、一生懸命でよく覚えてはいない。

 しかし、見る側がそう感じたということは……実際、達志は楽しんでいたのだろう。


「そ、れ、にぃ」


 蘭花が、意味ありげに、達志の耳元に顔を近づける。


「いやあ、敵チームなのに、勇界くんのことを応援しているあの子、すごく情熱的だったよ」


「あの子?」


 まるで内緒話をするように、蘭花は言う。

 一瞬、それは誰のことかと思った。敵チームで、達志のことを応援している人物など。ほとんどの人物は、同じチームの人を応援するはずだ。


 しかし、そこまで考えて……達志は、ある一人の人物の顔が、思い浮かぶ。

 その人物は、同じチームならばおそらく、いの一番に駆け寄ってくるだろう自信があった。


 ……リミは、達志の応援を、してくれていた。


「……そっか」


 自然と、達志の表情も柔らかくなる。

 このあとは、待ちに待った昼食の時間だ……その時に、リミと一緒に食べよう、という話をしている。


 その際、お礼を言っておくとしよう。

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