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第137話 私を取り合わないで



 なぜか達志を取り合う、どろどろした空気が発生している。


 無論それは、受け取った達志が感じているだけのものだし。そもそもリミはともかく、男に取り合いされても嬉しくもなんともない。

 とはいえ、二人共目が本気だ。二人のお題が達志に共通するものであれば、当然なのかもしれないが。


「なあ、二人のお題っていったい……?」


「そ、それは……」


 達志も、自分がどうして二人にも狙われるのか、知っておきたい。だから聞いてはみたのだが、やはりリミは言いにくそうだ。

 対してバキは……眼鏡を押さえ、笑っている。


「ふふふ……あっしのお題はこれでやんす!」


「なになに……『同じチームの男子(人間種に限る)』。ふむふむ……なにこのくっそ簡単なお題!? ヌルゲーにもほどがあるだろ!」


「驚いたようでやんすね」


「あぁすごくね! 誰が考えて誰が採用したんだコレ! あとこれ別に俺じゃなくてもよくない!?」


「いや、たっつんでないとダメっす。なんせ、あっしがたっつんをかっさらえばヴァタクシアはお題クリア不可能に追い込むことが出来る! そうすれば、あっしの一人勝ちって寸法よ!」


「めんどくせえ!!」


 要は、バキは達志でなくてもいいのだが、リミは達志でないとダメ。ならば先に達志を連れていき、リミがクリアできない状況を作り出す。

 結果、リミはこの種目を勝ち抜けないということだ。


 もちろんリミのお題が、百パーセント達志でないといけないことはないだろうが……ここで達志を失えば、大きなタイムロスになるのは間違いない。

 そもそもこの状況が、わりと時間ロスだ。


「おまっ、きったねえ! 同じチームの俺が言うのもなんだけど汚いな!」


「はっ、勝てばいいんすよ勝てば」


「いたよ、俺より卑劣な奴がここにいたよ!」


 リミの申し出を拒否する……その選択肢が浮かんでしまった達志よりもよっぽど卑劣な男が、目の前に立っている。

 汚いというか、そこまで考えるともう逆にすごい。ルール上問題はないのだが。


 それを実行しようとしているのだ。

 バキも達志でないとダメならばまだしも、これは嫌がらせに近かった。


「さあたっつん、事情がわかったらあっしと一緒に……」


「理由は、それだけですか?」


「へ?」


 達志に手を差し出すバキ。しかし、その動きが止まる……否、止められる。

 なぜなら全身、氷に包まれていたのだから。顔を除いて。


 なんというスピードだろう。瞬きの間に、小柄とはいえ人一人の顔除く全身が、氷漬けになってしまった。

 そしてそれをできるのは、この場には一人しかいない。


「あー……リミ、さん?」


「どんな理由かと思えば……そこで、しばらく見物しててください。全部解ける頃には、もうこの種目は終わってるでしょうが」


「つ、つめたぁあああ…………くはない! おそらくは火属性の魔法で温度を上げているおかげか!? 凍傷にならないための配慮を忘れないとはぁああ! さすが魔法優等生ぃいいいい!」


「説明乙」


「とはいえ……お、おのれ! 魔法であ、足止めとは、なんて卑劣なぁああ! 卑怯だぁああ!」


 お前がそれを言うのか……誰もが思ったが、誰が言うよりも先にリミが動いた。

 そして、バキの顔を正面から捉え……


「もう、あんまり騒がしくすると、脳みそだけ凍らせて思考停止させちゃいますよ?」


 拗ねたようにかわいく頬を膨らませ、今この場において世界一物騒なことをかわいく言い放った。


「…………」


 それには、バキだけでなく全員黙るしかなかった。


「さ、行きましょうタツシ様!」


「……はい」


 手を引かれ、従う達志は……リミを絶対怒らせないようにしようと、改めて心に誓った。それはもう、すごい誓った。

 リミなら、最悪達志を氷漬けにして運ぶことも出来る。それはごめんだ。


「あー、ひんやりするー」


「日差しが強くなるばかりだから助かるよー」


「いや冷蔵庫代わり!? それより助けてでやんすー!」


 後ろでは悲痛な叫びと、意外に快適にしているチームメンバーの声が聞こえる。

 バキは冷たくないと言っていたのに、外から触るとひんやりする。不思議だ。外側は冷たく、内側は冷たくない氷ということだろう。


 その点も含め、高速で人を彫像に変える技術はさすがとしか言えない。

 とりあえず、リミにバキに対する配慮があってよかったと、心から思う。


『おーっとここで第一着のゴール!』


 と、ここでゴール。他のメンバーはようやくお題を探しに行ってたり、まだ氷の足場に手間取っていたりする。

 審判にお題を見せ、緊張の一瞬。


『お題クリアー!』


 これで、リミの一位が確定した。圧倒的なリミに対しての、拍手喝采が湧きおこる。

 圧倒的も圧倒的な展開であったが。


「なあリミ」


「はい、なんですか?」


「リミのお題って、結局なんだったんだ?」


 終わったのだから、もう聞いてもいいだろう。先ほどまで、達志には見せてもらえなかった。

 なので達志は、ずっと気になっていた疑問を投げかけることに。


 果たして答えてくれるだろうか。かすかな期待をもった問いかけは……


「……内緒、です」


 顔をそらされ、拒否された。気にはなるが、無理に聞き出すわけにもいかないだろう。


 その後次々と、お題をクリアした人たちがゴールしていく。

 リミの魔法は本当に強力なようで、当然他にも魔法を使えるメンバーはいたものの、氷の足場自体を破るには至らなかったらしい。


 一番対処しやすそうな、浮遊魔法使いなんかがいなかったのは、リミたちには幸運だっただろう。

 なにはともあれ、借り物競走はリミの圧勝で幕を閉じた。

 ちなみにバキは時間切れで失格になった。

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