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第136話 借り物を探して



 さて、借り物競争が開始。

 それと同時……


「"アイス・フィールド"!」


「ほらー!!」


 開始直後、リミは魔法を発動させる。

 それにより足場は氷漬けになり、夏だというのに周囲には冷気が漂う。まさにスケートリングのような地面となる。


 予想した通りではあるが、だからといってすぐに対応できるものではなさそうだ。


 実際に、リミ以外のメンバーは転倒したり、生まれたての小鹿のように足をぷるぷるさせたり……万全とは言いがたい状況だ。

 その間、リミ本人はすいすいと滑っていく。


 あの運動靴で、まるでスケートのように。どうやって滑っているのかと、目を凝らすと……どうやら、靴裏を凍らせて、滑りやすくしているらしい。

 あんなこともできるのかと、感心する。


「また種目が変わってる気が……それより、あいつは?」


 このままではうまく動くことが出来ない的な意味で、リミの一人勝ちになってしまうだろう。

 もしやこれが狙いで、リミが出場したのだろうか。運要素かと思いきや、リミの力をふんだんに活用したわけだ。


 他にも動き出しているのが数人いるが、リミとは同じチームのようだ。

 同じチームなら、当然対策はしている。そのため、行動が早い。


 そんな中で、他チームの人間でいち早く行動している人物がいた。

 達志が探していた、同じチームでクラスのバキだ。小柄な男。


 驚くのは、彼の動きだ。

 他のメンバーは、歩くのに手間取っている……というのに、彼はまるで、足場が普通の地面だといわんばかりに、歩き始めたのだ。


「……どうなってんの、あれ。普通に歩いてるけど」


「言ったろ、あいつは研究熱心なんだって。あと発明家でもある。

 大方、靴裏から熱が出る改造とかしてて、氷を溶かしてるんじゃねぇかなぁ」


「へぇー……え、今すごいこと言わなかった? 熱? 改造?」


 今隣からすごいことを言われた気がするが、追及する前に周りがワッと盛り上がる。

 研究熱心と学年トップはともかく、そこから改造なんていろいろぶっ飛んでいる気がするが……それは後で聞くとしよう。

 今は勝負の行方の方が重要だ。


 バキも動き出したが、リミが早くも、借り物の紙が入れてある箱へとたどり着く。

 先に駆け出していたのに加え、スケートのように滑っていたのが大きいだろう。


『緑チーム、ヴァタクシアさんが早くも箱へと到着! 果たしてなにが書かれた紙を引くのでしょうか!』


 司会の実況、観客も盛り上がる中でリミは箱の中へ手を入れ、しばらく模索した後に手を引く。

 その手には、一枚の紙が。


 そこになにが書かれているかで、勝敗に大きく左右する。出来るだけ難しいものであってくれ、と願う達志。

 その思いが通じたのか、リミはその場に立ち尽くし、紙を見つめている。


 その間にも、少し遅れてリミのチームメンバーやバキがたどり着く。

 他のメンバーも、苦労しながらも歩みを進めている。ある裳のは、魔法を活用して。


 しばらく立ち尽くし……ようやく、リミが動き出す。

 キョロキョロと首を動かした後に、目的のものを見つけたのか、その方角へと走り出す。それは、達志が座っている場所と同じ方角で……


「……へ?」


 同じ方角、というよりもまるで、達志を目指しているかのように走るリミ。彼女は、そのまま達志の目の前まで走ってきて、立ち止まる。

 その視線は、一心に達志を見つめていて。


「タツシ様……その、ちょっと着いてきてくれませんか」


 予想だにしない言葉を、言った。

 リミとは、いわば敵対するチームではあるが……そのリミは、達志に着いてきてくれと告げる。


 この状況で着いてきてということは、リミの引いた紙に書いてあるお題が、達志に関係あるということだろう。

 それも、自チームでなくわざわざ他チームである達志ではなければいけない、なにかが。


「えっと……俺?」


「はい、タツシ様です」


 再度確認するが、聞き間違いではない。

 ここで申し出を拒否する……ということはルール違反ではないが、他チームだから、という理由だけでそんな意地悪をするという卑劣なことは、残念ながら今の達志には出来ない。


 また、ほぼありえないとは思うが、お題と一致した人物が一人しかいない場合もあるし。

 なので……


「わ、わかった」


 と、返答。もちろんリミに協力するということは、リミチームの勝利に貢献するということである。

 それは痛いが、それでもリミがわざわざ自分の所に来てくれたのが実は嬉しかったりする。お題の正体はわからないけど。


 お題の内容はなんだろうか。聞こうとしたが、妙にそわそわしている。

 みんなのいるところでは言いにくいことなのだろうか、ならば後で二人になったときにでも聞いてみようか……

 そう考えながら、立ち上がろうとしたとき。


「待つでやんす!」


 特徴的な語尾を持つ言葉に、阻まれる。

 達志の知る中でこんな話し方をするのは、一人しかいない。


「ば、バキ?」


 同チームの小金山 バキ。人間ではあるが、特徴的な容姿、特徴的な言葉遣い、特徴的な名前と、いろんな種族入り乱れるチーム内でも存在感のある人物だ。


 その彼は、他の選手が苦戦している氷の足場を乗り切り、紙を引いたはずだ。

 だというのにここにいるということは、彼のお題もこの付近にあるということだろうか。


「悪いが、たっつんはあっしがもらうでやんすよ」


「……聞き捨てなりませんね。私からタツシ様を奪おうだなんて」


 達志の奪取宣言を告げるバキに、向き合うリミ。心なしか、少し辺りの気温が下がったような気がする。


「ば、バキの目的も俺、なの?」


「えぇ。だからその女にたっつんをやるわけにはいかないでやんすよ」


「タツシ様は渡しませんよ」


 二人の間に火花が散っている気がする。そして台詞だけ聞くと、まるで二人が達志を取り合おうとしている内容ではないか。いや、実際そうなのだが……


「なんか、昼ドラみたいなドロドロ感が……」

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