第135話 拮抗する展開
綱引きを一人で制してしまった、リミ。
いつかセニリアが、魔法以外はポンコツと言っていた。あの恐ろしい料理がいい例だ。
が……やっぱり、この子は単に脳筋なのではないのだろうか?
「リミがいない種目で点を稼ぐしかねえなこりゃ」
幸い、一人が出れる種目には回数制限がある。
リミが出ない種目で、点数を稼ぐしかないだろう。
ちなみに今の種目、赤チームは四位だった。
「ちくしょう! ふざけやがって!」
「待て待て! いきなり胸ぐらを掴むな! 情緒不安定かてめえ!」
「またあんた出てねえのかよ! ホント使えねえトサカだないつ出るんだよ! その無駄にガチガチの体、ここで使わないでいつ使うんだよ!」
「なんだと!?」
やはり、要注意人物はリミである。
達志の言うように、リミのいない種目で点数を稼いでいくしかない。みんなも薄々、そう思っている。
もちろん、リミ以外を侮っているわけではないが……さすがにリミみたいなのが、他にもいるとは考えにくい。というか考えたくない。
「はぁ……まあ済んだことは仕方ないか。次は役に立てよ」
「なんかお前どんどん俺へのあたり厳しくなってるな!?」
済んだことは考えまいと、一旦置いておく。考えるべきは、今後の対策だ。
対策といっても、魔法の使えない達志にできることなんて限られているけど。
だからせめて頭で戦うしかないか。いけるのだろうか、そんなんい成績もよくないし。
「不安だ……」
「達志くん、結構情緒不安定だよねー」
まさか、体育祭でここまで頭を悩ませることになるとは思っていなかったが、それはそれで面白い。うんうんと唸る。
そんな達志の立ち位置が、チーム内で面白枠になりつつあるのを、達志は知らない。
そんなこんなで、魔法ありきのめちゃくちゃな体育祭は、その後も順調に種目を消化していく。
魔法だらけ飛び回りだらけの、ほぼ戦場状態。
とはいえ、達志のように魔法が使えない者も純粋に楽しめるあたり、さすがの配慮といったところだろう。
「いやぁ、まさか単なる学校行事が、こんなにハチャメチャになるとは……どっかのゴリラのなんちゃってテロとは、えらい違いだな」
「お前喧嘩売ってるよな!?」
戦場と化したグラウンドには、あちこちにクレーターが空き、種目が変わる度に復元魔法で元に戻している。
もう見慣れたとはいえ、わりととんでもない光景が繰り返されている。
これが単なる学校行事だというのだから、開いた口が塞がらない。下手したら戦闘でも起こったのかと、聞きたくなるほどだ。
ゴリラのテロでも、ここまでならなかったのに。
「それぞれ拮抗してるみたいだね~、うんうんいい盛り上がり具合じゃない」
蘭花の言うように、それぞれのチームのポイントは、拮抗している。
今のところ一位こそ緑チームであるが、どのチームにも逆転のチャンスはある。
それに、まだまだ種目は残っている。とはいえ、リミやルーア以外にも、それなりに強者が集まっている緑チームは、油断ならない。
他にも、ヘラクレスやマルクス……達志の周りにいる一癖も二癖もあるメンバーは、頭一つ飛び出た成果を出している。
「さて、次の種目は……借り物競争、か」
プログラムを確認すると、次なる種目は借り物競争。
赤チームからは、ザ、ロリコン王であるロペをなぜかアニキと慕う小金山 バキその他が出場する。
他チームの注目メンバーといえば……意外にも、リミの姿があった。もっと力や、魔法を活かせる種目に出ると思っていたのだが。
借り物競争とは、言わば運要素の強い種目だ。
なにを借りることになるかによって、勝敗は大きく左右される。借り物の紙に、物理的に無理なものはさすがに書かれてはいないだろうが……
難易度に差が出るのは明らかだ。
もっとも、こういう種目ならば、運が良ければ勝ち抜くことも出来る。
出場種目に制限がある中、こういったものにリミのような強力な魔法使いが出てくれたら、願ったりだ。
「とか思ってたら、開始直後から足場が氷漬けになったりしてな。あははは!」
「不安になるようなこと言うのやめてくれない!?」
今まさに頭をよぎった不安要素を後ろから囁かれ、達志は咄嗟に振り返る。
そこにいたのは、ゴブリン女子であるネプランテだ。出来るだけ考えないようにしていたのだが、本人は楽しそうに笑っている。
あとなぜ思考を読めたんだ。
「あはは、お前いーいリアクションするなあ!」
「はは、そらどーも」
とはいえ、ありえない話ではない。足場を凍らせてしまえば、競争以前にちゃんと移動することが出来るかも、危ういのだから。
その点を考えると、やはり油断は禁物だ。
「まあウチからはバキも出るし、そんなに心配はいらないっしょ」
「あぁ、あのロリコン腰巾着か」
「あははひでー言い様だな」
マンガでしか見ないようなぐるぐる丸眼鏡を着用した、ロリコンロペをなぜかアニキアニキと呼んでいる、あの男小金山 バキだ。
正直、心配いらないという言葉自体がもう信じがたくはある。
「あいつガツガツのがり勉だから、いろんな魔法の研究してんだよ。それにあの小柄な体型なら、すばしっこさにも定評があるしな」
「な、なるほど」
ここで達志がどう思っても、達志以上に彼のことを知っているクラスメイトにそう言われては、信じるしかない。
それに、聞いた限りでは不安要素が少しなくなったのは、事実だ。
学年トップだという彼ならば、いろんな魔法についての知識を持っているはずだろう。ならばそれに賭けてみるのも悪くはない。
そう考えているうちに準備が完了し、出場メンバーは定位置に。そして、種目が開始される。




