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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第三章 変わったことと変わらないこと
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第130話 焼き鳥になりそう



 恋というものに、リミは鈍感だった。

 これまで告白されたことはあれど、自分から恋愛感情を抱くなど、初めての経験だ。


「私が? 恋? 誰に」


「あぁいやその……」


 これはしまった、とセニリア。うっかり恋をしてる、なんて口を滑らせてしまった。うっかりセニリアだ。

 恋をしてる、となれば、相手は誰だとなるのが必然だ。しかし、それを第三者から伝えていいものか。


 それに、もうほぼそうだとはいえ……リミが達志のことを、異性として好きだと、百パーセント決まったわけではない。

 こういうのは、自分で気づかせなければ。


「恋って、異性の相手のことを好き、って気持ちのことでしょ?」


「えぇ、まあそうですね、一般的には」


「一般的?」


「最近は様々な恋の形がありますので。恋も知らない姫が知るのはまだ先でいいです。

 それで、まあ姫の場合は異性だと思っていてください」


「異性かぁ……うぅん、タツシ様のことは好きだけど……」


 にやり、とセニリアは笑った。

 自然な流れで、恋の話に持っていけた。しかも、なにも言ってないのに、リミの方から達志の名前が出てくるとは。


 なんで真っ先に達志の名前が出てきたんですかねえ。


「セニリア? なんだか顔が気持ち悪いわよ」


「おっと失礼」


 こほん、と咳払い。いけないいけない、と頬を叩く。


 それにしても。パッと浮かぶ好きな異性で、達志のことを指摘するとは。

 惜しむらくは、好きとは言ってもライクとラブの意味を間違えているタイプだ、ということ。


 この際だ、もう少し踏み込んでみようか。


「ちなみにですけど、タツシ殿のことは、ライクとラブどちらで考えていますか?」


 これはもうほぼ答えではないだろうか? とセニリアは訝しんだ。


「それはもちろん、ライクのほうよ!」


「……」


 自信満々に答えた。照れる素振りすらない。

 そもそも恋もわからないこの子に、ライクとラブの違いなんてわからないのだ。うっかりセニリアだ。


 とはいえ、一連の行動は、恋する乙女のそれに間違いはないと思う。これでも、それなりに青春時代を送ってきたセニリアだ。

 自分が学生時代だった頃なんて、そりゃあもう……


 ……と、浸っている場合ではない。


(これは……想像以上に面倒なのでは?)


 ライクとラブの区別がついていないだけならば、そこを指摘してやれば済むが……

 そもそもライクとラブの区別を、どうわからせるのかという話だ。厄介すぎる。


 リミにはこれまで、色恋沙汰の話はない。誰かから好かれたことはあっても、好いたことはない。セニリアが知らないだけの可能性もなくはないが、まあほぼないだろう。

 つまり、リミは恋愛のれの字も知らないのだ。


 下手に、無理やり教えたとしても……それはそれとして、問題が発生しそうだ。

 ラブを自覚させても、ラブの気持ち自体を知ってもらわねば、意味がない。


 だがラブの気持ちを持ったことがないのだから、その気持ちをどうやって知ればいいのか……

 頭がこんがらがってきた。


「ど、どうすれば……?」


「せ、セニリア!? なんか頭から湯気出てるけど!?」


「……! あぁ、ちょっと面倒な考え事をしてて……軽く焼き鳥になりかけてました」


「ハーピィってそうなるの!?」


 こんなことになるなら、下手に話題を振るんじゃなかった。そのせいで頭の中は、ショート寸前である。後悔してももう遅いが。

 まず、恋というものを認識させることからだ。


「姫、タツシ殿と話してると、どんな気持ちになりますか?」


「嬉しい!  胸があったかくなる!」


「……タツシ殿がいないと、どんな気持ちになりますか?」


「寂しい、退屈」


「…………タツシ殿が他の女の子と話してたら、どんな気持ちになりますか?」


「なんか、胸がもやもやするかも」


「ダウトォオオオオ!!!」


 とりあえず質問攻撃という手段をとってみたが、案の定……それ以上に確信的な答えが返ってきた。

 これは間違いないどころではない。


 それが恋だよ! なんで気づかない!?

 ……声を大にして言いたい。無知とはある意味で罪である。


「……?」


 当のリミは、きょとんとした様子で首を傾げている。

 見ている分には、なんとかわいらしい女の子だろうか。


 ……本当になにもわかってない様子のリミを見ていると、いざその気持ちが『恋』だと知ったとき、どう反応するのか……想像して、怖くなる。

 しかも、達志とは一つ屋根の下なのだ。いつどんなきっかけで、自覚するやら。


 いや、この際気づいてもらった方がいいのかもしれない。

 あぁ、胃が痛い。リミの料理を食べるときもそうだが、今回はそのとき以上に、セニリアの胃を痛めていた。


「ただいまー」


「あ! タツシ様だ! タツシ様ー!」


 言葉が出ないとはこのこと……セニリアが頭を抱えていたところで、話題の中心にいた人物の声がした。

 外出していた達志が、帰ってきたのだ。


 それを受け、リミはぴょん、と飛び上がり、玄関に駆けていく。

 その姿はまさに、恋する乙女というやつだろう。しかし、リミは本心には気づかない。


 それに、達志自身、リミのことをどう思っているのか。

 こうもかわいくて、スタイルもよくて、一生懸命で、一途な子はなかなかいない……と、セニリアは若干親バカになっていた。


「タツシ殿、おかえりなさいませ」


「セニリアさん、ただいま」


 ともあれ……今、いくら考えても仕方ない。

 リミの、そして達志を観察し、さり気なくフォローしていく。それが、自分のできる精一杯だと、セニリアは心に決める。



 ……めんどくさくも、賑やかで楽しい日常。

 そんな日常を送る達志にとって、目覚めてから初めての、一大イベントがやってくる。

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