第121話 不安しかない
さて、自己紹介は進む。
「アタシが使えるのは、闇属性の魔法さ! つっても、煙幕で相手の視界を塞ぐことくらいしかできねーんだけどな!」
何がおかしいのか、高笑いをしている。声が大きいため耳が痛い。
現に、隣のシャオは耳を塞いでいるし。リザードマンの聴力ってどうなってるんだろう。
「まーこれまで話す機会はなかった奴もいるけど、よろしく頼むぜお前ら!」
蘭花とはまた違った意味での、目立つタイプ、というのだろうか。
その勢いに押されるばかりだが……向こうからガンガン話しかけてくれそうなので、達志としては助かる。
そして今度は、ネプランテから促すように、次の人物にバトンタッチする。
「次はあっしでやんすね。小金山 バキ。魔法は使えないっすけど、その代わり自分で言うのもなんっすけど頭脳明晰で……」
「あっし!? やんす!?」
まだ自己紹介の途中であったが、もうツッコまずにはいられなかった。
マンガみたいなぐるぐる丸眼鏡に、ゴブリンと大差ないんじゃないかと思えるほどの身長。
なにより、その話し方が特徴的すぎる。
「ん、なにか問題でも?」
「あ、なんでもないです……」
いけない、せっかく本人がノリノリなのに、場の空気を壊すようなことをしては。ここは大人しくしておこう。
「バキはこう見えても、学年トップクラスで賢いんだよねえ」
「いやあ、照れるでやんす」
さっき自分で言うのもなんだけどって満更でもなかったくせに。
あとその見た目じゃ全然驚かないがり勉感だよ。……そう叫びたい気持ちを、ぐっと抑え込んだ。
なにはともあれ、残り一人だ。今までリザードマンやゴブリン、がり勉と、様々な人物と向かい合ってきた。
もうこれ以上驚くこともないだろう。
ほら、次の人物は……つやっつやの黒髪を七三にした、ちょっとナルシストっぽいけど、見た感じ普通の好青年じゃないか。
顔立ちは驚くほど整っているし。
がり勉に七三といつの時代だよと言いたくなるが。ともかく彼が口を開くのをじっと待ち……
「さあ、次はアニキの番っすよ!」
「!?」
いきなり声を上げたバキ。アニキと呼ばれたナルシスト。嫌な予感がする。
「その容姿から言い寄る女性は数知れず! しかしそれらを一刀両断! それもそのはず、なにせ小学生以上は女じゃねえ、それこそがこの人、毒島 ロペ!」
「ふっ……よろしこ」
「ダメだこのチーム!!」
最後の最後に、とんでもないのがぶっこまれてきてしまった。
このチームもうダメだと、確信してしまうほどに。
達志以外の五人の自己紹介。それが終わり、一抹の不安しか感じない。
男女種族問わないメンバー諸君。個性豊かな人々だが、最後の一人を紹介された時点で、もう不安しか残らないほどのインパクト。
なぜなら……
「めちゃめちゃロリコンじゃねえか……!」
しかもそれが、こうして堂々公言されていることが問題だ。
もうヤバイやつ確定である。大丈夫だろうかこのチーム。
「ロリコンとは失礼だね……ボクは、ただ小さな花を愛でているだけさ」
「それだけなら子供好きで許せるよ。でも、小学生以上女じゃねえとか言われてるんだけど、そこはどうなのよ」
「…………」
「なんか言えよ!」
無言は肯定の意を示す。
少なくとも達志はそう思っているため、毒島 ロペという人物が危険人物だと、早くも設定されてしまった。
達志がこのクラスになってから、初めて恐怖を感じた瞬間である。
「ま、まあまあ。体育祭に人柄は関係ないんだし、さ。とりあえず次行こうよ次」
赤チームの行く末に不安しかないのだが、ひとまず落ち着くようにと、蘭花が話を進めようとする。だが今、人柄は関係ないと微妙にディスったのを、本人は気づいているのだろうか。
というか、女性から見てどうなんだコレは。
……しかしまあ、蘭花の言う通りだ。ここで他人の性癖についてツッコんでいても仕方ないし、次に行こう。
次というかラスト。自己紹介してないのは、達志だけだが。
今更自己紹介の必要があるのかというほどに有名人な達志だが、それはそれ。
みんなしたのに自分だけしないなんていうのも、不公平だろうし。
「えー、い、勇界 達志……です。……よろしく」
こほんと咳払い。いざ……ものすごい見られてる。まるで心の中まで見られているんじゃないかと思えるほど。
やはり、こうして注目されると……少人数でとはいえ、緊張してうまく言葉が出てこない。
これじゃあ、リザードマンであるシャオのことを、どうこう言えない。
「十年間眠ってたんだよね! 起きたらびっくりした!? びっくりしたよね!」
うまく言葉が出てこない達志を尻目に、ぐいぐいくる蘭花。
だがこうして質問してもらえる方が、案外答えやすいのかもしれない。
「あ、あぁ、まあ……こんな、魔法当たり前のファンタジー世界になってるとは」
「そりゃ驚くよね。勇界くんは魔法は使えないんだよね?」
「あぁ。しかも寝てた期間が長すぎて体が弱ってたから、体育祭に向けて今鍛えなおしてる最中。
だから、あんま俺に期待はしないでほしいな」
テニス部でマルクスによる特訓を受けているとはいえ、それで体育祭を楽に勝ち抜けるなんて思っていない。
むしろ、それでようやく一般人と並べるかどうかって段階へ調整中だ。
だから、戦力に達志は数えない方が賢明かもしれない。そう告げると……
「うーん、勝ち負けもそうなんだけどさ。せっかくの高校イベント、楽しんだもん勝ちだと私は思うんだよ。勝敗は二の次にしてさ」
「そうそう。だからそんなしけた面してんなってあははは!」
勝負の勝ち負けよりも、まず楽しむことが大事だと、女性陣二人に励まされる。
明るい蘭花に、いやに声のでかいネプランテ。こうして励ましてくれると、達志の気も楽になるというものだ。
さっきは不安だなんて思ったが、いいチームかもしれない。そう思って、残る男性陣に目を向けると……
「………………」
「学校の外からの来客者……つまり、女児も来るということだ。どう合法的に近づくか……」
「さすがアニキ、いちいち考えることが犯罪的でやんす!」
喋らないシャオ、犯罪者予備軍ロペ、その子分バキ。……やっぱり駄目じゃないかな。三度、考えを改めることになった。




