第119話 チーム分けのお時間
さよなの部屋で衣装作り。
それからまた日が経ち、いよいよ体育祭でのチーム分けの時間がやって来た。
クラス内は、自分がどこのチームで誰と一緒になるのかと、ざわざわしている。
「みんな落ち着きねえなー」
去年一度経験してるからだろうか、不安よりも楽しみだといった表情が多い。
それだけ、チーム分けというのは各々の士気に大きく関わってくるのだと、理解させられる。
「ま、誰と一緒になるかで勝率も変わるだろうしな……ってより、二年生ともなると、それなりに上下学年と付き合いが出てくる。人柄もわかってくるだろうし。
だから、仲いい人やこれを機に仲良くなりたいって気持ちの方が大きいんだろ」
「じゃあ俺はその楽しみを味わえそうにねえな」
達志も一応、テニス部での人付き合いはあるが、それだけだ。そもそも入部してからそんなに日も経っていない。
付き合いが深いのは、同じクラスであるマルクスを除けば、部長とシェルリアだけだ。部長は部長だから、関わってくれると言えなくもない。
だから、立場としては一年生のようなものだ。ただし、一年生であれば入学したての、ピカピカの一年生。
対して達志は、二年生からのスタートとなっている。本来の一年生のような立場では、通用しない。
結局、特別仲がいいのは、クラスメイトの若干名だけだ。
「まー、チャンスだと思ってさ。知名度はあるんだから、タツのほうからちょっと声かければ、すぐに仲良くなれるさ」
「いやな知名度だけどな」
部長やシェルリアが知っていたように、達志の名前だけは、多分全校生徒に広がっている。
ただの復学生ではないので、納得できる部分もあるが。
十年眠ってた生徒が復学……ネタとしてこれ以上のものはないが、それにしても、まるでマスコミかよと突っ込みたくなる勢いだ。
そういえば、目覚めた直後はマスコミが動いていたと聞く。リミあたりが牽制してくれたのか、達志が詰め寄られるようなことはなかったが。
「さて、ではこれから、体育祭のチーム分けを発表する」
そんなことを考えていたが、教卓に立つムヴェルの声により、意識を戻す。
ざわざわしていた生徒たちは、その声だけでピシャリと静かになる。
傍らには由香も立っており、なにが楽しいのかニコニコしている。
ビシッとしろビシッと。
「確認のために言っておくが、体育祭では五チームにわかれての競争となる。
これは他クラス、他学年との交流を深めることも兼ねているため、しっかり交流してくるように」
黒板をチョークで叩きながら、ムヴェルはそれぞれ、チョークで文字を書いていく。
今さらながら、そういうのは魔法で書いたりしないんだ……とも思う今日この頃である。
黒板には、赤、青、黄、緑、桃とそれぞれ書かれている。
それが、わかれたチームの『色』を意味することは、説明されなくてもわかる。
ただ、戦隊ヒーローかよとツッコミたくはなった。
「さて、ではメンバーを発表していくとしよう。チームの色ごとに読み上げるので、如月先生は名前を書いていってください」
「わかりました」
ムヴェルが紙を広げ、由香がチョークを持って、黒板の前にスタンバイする。
あの紙に、チームごとに名前が書かれている。読み上げられたそれを、由香が黒板に書き起こしていくのだ。
「ではまず、赤組からの発表だ。順に名前を読み上げるから、呼ばれた者は返事をするように。イサカイ タツシ」
「いきなり!?」
メンバーが発表されることになり、自分はどこになるのか……そう思っていたら、いきなり名前を呼ばれた。
思わず達志は、声を上げてしまった。
だが、ムヴェルから鋭い眼光を向けられ、「すみません……」と言ってから、頭を下げる。
とりあえず、返事と捉えられたためか、達志の名前が黒板に書かれていく。
「タツシ様、トップバッターですね!」
「それはいろいろ意味が違うと思う」
「まあ良かったじゃねえか、焦らされるより真っ先にわかってよ」
「うーん……」
両隣から、それぞれ言葉をかけられる。達志としては、正直もう少し名前を呼ばれるまでのドキドキを味わっていたかったのだが……
まあ仕方ない。
考えてみれば、不思議なことではない。名字順に発表するなら、『い』の字から始まる達志は、一番最初に呼ばれてもおかしくはない。
五チームわけならなおさらだ。
それでも、まさか一番最初に発表された赤チームになるとは、思わなかったが。
「次、青は……」
そうしている間も、チームわけのメンバーは次々、発表されていく。
達志とよく絡む人物の名前もあれば、あまり話したことのない人物の名前も。
そして……
「……以上、メンバー発表は終わりだ。確認だが、自分の名前がない奴はいるか?」
メンバーを全て読み上げたムヴェルは、紙を置いて、生徒を見回す。
誰も反応しないのを確認。どうやら名前抜けはないらしく、全員が振り分けられている。
クラスの人数は、三十二名。
これを五分割すると、六人ずつと残り二人になる。赤、青、黄、緑、桃……それぞれに検討するチームに名前が書かれており、バランスを考え割り振られている。
人数としては、六、七、六、六、七といった具合だ。
全校クラスの人数が、一律に三十前後とは限らないが……それに近いものとしよう。
そして一学年が五クラスあったとして、それが三学年。
五つのチームにわけるとはいっても、一つのチームそれなりの人数にはなるだろう。
「では、これをもってチームわけの発表を終わる。自分が誰と一緒なのか、確認しておけよー」
そうして、黒板に書かれたチームメンバーを確認する。
そこに書かれていたのは達志と、よく絡むメンバーにとりあえず限定すると……
赤
勇界 達志
青
マルクス・ライヤ
黄
ヘラクレス
緑
リミ・ディ・ヴァタクシア
ルーア・カラナ
桃
見当なし
と、なっていた。
(パワーバランス、おかしくねえ?)
盛大に叫びたい気持ちを、達志は必死に抑え込んだ。
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