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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第三章 変わったことと変わらないこと
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第102話 ラブレターの日々



 ここは、勇界家リビング。こじんまりと縮こまって正座する達志と、その前に仁王立ちするリミの姿がある。

 どうしてこのような図になっているかというと、話は十数分前に遡る。


 ルーアの家にいた達志は、ルーアに掛かってきたリミからのお怒り電話により、その後すぐに帰宅してきた。

 開扉一番、「遅い!」とリミの一言に一喝され、結果としてリビングに正座することになってしまった。


 反省を示すには、この体勢が一番だ。


「もうっ、心配したんですよ!? 帰ってこないし、連絡もないし……なにか、あったんじゃないかって……ふぅっ!」


 とはいえ……ただ怒られるだけならまだいい。良くはないが、まだいい。

 だが、怒りながらも、そこに涙という別角度からのパンチがくれば、話は別だ。


 今達志を叱っているリミは、時折泣いている。主に心配した、の辺りで。

 多分、事故に遭ってたりしたらとか、襲われてたりしたらとか、そんな不安要素が彼女に、涙を流させたのだろう。


 要は、怒っているのか泣いているのか、もうわからない状態だ。


「あ、あのー、リミ……」


「ふぇぇ……な、泣いてないでふ……べ、別に心配してたわけじゃあ……」


 ついさっき心配したと言ったばかりなのに、心配してたわけじゃあと言われても。説得力がないどころか、ツンデレってすらない。

 泣いているのが恥ずかしいのか、目元を押さえている。めちゃくちゃ泣いている。


「姫、そろそろ……」


 いつも冷静なセニリアが戸惑っている。三十分もこの状態なら、当然だろうが。


「ダメです! タツシ様にはもう少し自覚というものを……」


 自分が原因とはいえ、達志は十年も眠っていたのだ。またなにかあったのではと、心配になってしまう気持ちが確かにあるのだ。

 だからこそのお叱りだし、涙だ。


 達志もそれは充分わかっているが、いかんせん正座を三十分というのは、なかなかキツい。

 この体の状態なら尚更だ。


「リミちゃん、もうご飯も冷めちゃうし……」


 本来この役割は、母であるみなえのはずなのだが……リミのあまりの剣幕に何も言えなくなってしまっている。

 ただ遅くなっただけならばともかく、一報もなかったのはまずかったようだ。


「遅くなったのはともかく、連絡もしなかったのは悪い。忘れてた」


 達志の言い分としては、ルーアの家でいろいろなことがあった。互いの過去を吐露したり、クマに会ったり……あまりの衝撃の連続に、すっかり頭から抜け落ちていた。

 が、それを言い訳にするつもりはない。

 連絡をしなかったのは事実だし、その件でみんなを心配させたことに変わりはない。


 だから素直に謝るが、それがまたリミに引っ込みをつかなくさせているらしい。

 このままじゃまた、魔法を暴発させそうな勢いですらある。


 本当に悪いと思っているのとは別に、半分はその心配から、早くリミに落ち着いてほしかったりする。

 あと、このままではルーアにも矛先が向きかねない。


「わがりまじたぁ……ぐすっ」


 達志の真摯な謝罪と他二人からの宥めにより、とりあえず落ち着いたらしい。

 ぐすぐす言いながらも、わかったと納得してくれた。


 情緒不安定……とはちょっと違うのだろうが、これからリミを過剰に心配させるのはよそう、と心に固く誓うことになった一件となった。


 その後も、なんとなく気まずかったのだが……それでも、時間は過ぎていく。

 夜を越え、そして翌日。リミにいろんな意味で絞られ、みなえにも注意され……結構反省した達志は、あまり眠れなかった。

 明るくなっている外を見て、少し眠いが、二度寝するにも微妙な時間だし、起きようと思う。


 今日もリミと揃って登校。学校にて、下駄箱で上履きに履き替えて、教室に向かう。

 その行程の中に、今までの達志の生活の中にはなかったものが、一つ増えている。それは……


「……はあ、またですか」


 ため息を漏らすリミ。下駄箱を開き、その中を見てのため息のようだ。それがどんな理由であるのか、すでに達志は知っている。

 これこそが、達志が経験した新しい行程。


「ははは、モテモテだなリミ」


 下駄箱からなにかを取りだし、再度ため息。それは紙……手紙のようにも見える。というか手紙だ。しかも一枚や二枚ではない。

 白色や桃色、色とりどりの封筒は華やかにも見えるが、リミはまったく嬉しそうではない。


 それもそのはず、リミは毎日のようにこれを経験しているのだから。


「笑わないでくださいよ、困ってるんですから」


 うんざりしたような顔のリミは、ひとまず複数の封筒……ラブレターを抱え直す。さすがに、その場で破り捨てたりはしないようだが、もう後で捨ててしまいそうな勢いだ。

 毎日毎日、登校の度に、下駄箱にラブレターが入っている。


 端から見ればうらやましいことこの上ない光景も、その当人ともなれば、話は変わってくる。


「そんなモテていいと思うけどなぁ」


「そりゃあ、好意的な感情を持たれるのは、悪い気はしませんが……でも、毎日毎日だとさすがに。いちいち断るのも面倒ですし」


 リミも初めから、こうも面倒そうな態度だったわけではないだろう。

 だが、毎日のように繰り返されるラブレター攻撃は、さすがにリミの寛大な心も耐えきれなかったらしい。


 とはいえ、律儀にも一人一人に返事はしているらしい。もちろん名前がわかるものや、告白場所を指定されているものなど、告白する意思のあるものに限るが。

 一番困るのが、好きですとか、自分の気持ちだけを書いてあるもの。


 告白するでもなく、気持ちを伝えるだけのためにラブレターを送る相手とか、なにがしたいんだと思う。そしてこっちに何をしてほしいんだと思う。

 名前もなしにあなたを想っていますとか、怖すぎる。


 とりあえず仕方なしといった具合に、ラブレターの束を鞄に突っ込む。モテる女も大変だということだ。

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