表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第三章 変わったことと変わらないこと
102/184

第101話 応援します!



 わさびを飲むJK。


「五年前から一般普及して、今も人気商品なんですけどねぇ。それに今、女子高生の間では人気ですよ?」


 ぐびぐびと、リミはわさびを飲む。


「えぇえ……」


 それを、げんなりした様子で聞く由香。五年も前から出回っていて、なにかトラブルがないということは、ヤバいものではなくちゃんとした商品だということか。

 それにしても女子高生に人気だとか、なんの冗談だ。

 そういえばよく、校内の自販機から飲み物を買った生徒が、緑色の缶を持っているが……その正体はこれか。


 学校の自販機にまであるとは。今まで気にしたことがなかった。そして好んで炭酸わさびを飲む女子高生……なんだこのカオス。


「ま、飲み物にまで口出しする権利はないんだけどさ……」


 なんであれ、好きならそれでいい。教師とはいえ、飲み物だのなんだのと、そこまで口出しをするわけにもいかないし。

 思って、コーラを飲む。うん、やっぱりこれだよこれ。体に染み渡る、この感覚。たまらない。


 このわさび味……考えないようにしよう。


「ところで、由香さんはいつタツシ様に告白するんですか?」


「ぶふぅ!」


 油断していた。すっかり油断していた。

 コーラを飲んでいた最中に、とんでもない爆弾を投下されたものだから、あまりの衝撃にコーラを吹き出してしまう。


 その際、近くを歩いていた通行人の男性に、思い切りぶっかけてしまった。慌ててこちらが謝るも、「ありがとうございますっ」となぜかものすごい勢いでお礼を言われた。

 かけたコーラを拭く間もなく行ってしまった。


「……大丈夫ですか?」


「げほぐほ! な、なにをいきなり……」


 気管に入った。咳き込み、涙目になってしまう。


「だって、想いを寄せていた相手が目覚めたんですよ? 十年ぶりに。これはいくしかないですよ!」


 目をキラキラさせて、ぐっと拳を握っている。

 その際持っていた缶がベコッとへこんでしまうが、飲みきっていたのか中身がこぼれることはなかった。


 いつ告白するかなんて、全く予想していなかった発言に、戸惑ってしまう。そして思った以上にキラキラしたリミの瞳の前に、さすがの由香も困惑気味だ。


「そ、それはまだ、心の準備が……」


「由香さんって、そんなに悩むタイプだったんですか」


「ぐふっ」


 ストレートな言葉に、由香がダメージを負う。普段からそう思われていたのだろうか。リミはナチュラルに、相手にダメージを与えることがある。

 とはいえ、由香は思考型よりも行動型寄りなのは確かだ。


 そもそも心の準備と言ったって、達志が眠っている間にも十年の時間があったのだ。時間の問題でいえば、充分すぎる。

 ……ただ……


「やっぱり、いざたっくんが起きたら、言おうと思ってた気持ちが揺らいじゃって……」


「なんでしょうこの乙女。くねくねしてるのが妙にえろかわいいです」


 本人を目の前にすると、決心が鈍る。自分の中に募ったこの想いは、嘘ではないのに。

 ……それに、だ。一番の理由は……


「たっくんは確かに目を覚ましてくれた。それは嬉しい。でも……たっくんはあの頃と変わらないまま。私は、十歳も年をとっちゃった」


 十年前までは、同い年で同じ世界を過ごしていた。だが今は違う。

 教師と生徒という関係ももちろんあるが、それ以上に離れてしまった時間。


 達志よりも、十年の歳月を過ごし、年を重ねた。やっぱり達志の年頃なら、同じくらいの女の子と付き合ったりしたいものでは、ないだろうか。

 大人になってしまった自分が、達志に想いをぶつけたところで……それはただの迷惑になるのではないか。

 そんな気持ちが、拭えない。


 こんな想い、さよなにだって、ちゃんと話したことはない。リミが初めてだ。

 そして、この想いを聞いたリミはというと……


「申し訳ありません……」


 めちゃくちゃしゅんとしていた。耳はへたれ、さっきまではきはきしていたのが、嘘のように落ち込んでいる。

 というか泣きそうだ。


「……あっ。そ、そういう意味じゃないんだよ!?」


 そこで、気づく。

 達志と由香たちの間に、十年間の溝を作ってしまったリミの前でこんなことを言えば、それは当然リミに大きな負担となって、のし掛かる。


 気にしてないと言いつつ、こんなことをリミの前で言ってしまうなんて。ああもう私、なにやってんだ。

 慌てて、違うよ違うよと告げる。


「あ、あくまで理由の一つだから、ね! それにたっくん、年上好きかもしれないし、むしろこれってチャンスなのかなぁ!」


 自分で年齢差を気にした発言をしておきながら、これはチャンスだと手のひらを返す矛盾っぷり。自分でもなに言ってるのかわからなくなってきた。

 そこへ、いきなり顔を上げたリミが言う。


「由香さん……私、由香さんがタツシ様に想いを伝えられるよう、協力します! 応援します!」


「えぇっ?」


 リミも、なにを言ってるのかわかってるのだろうか。落ち込んでいる最中に、なにかの決意でも固めたらしい。

 胸元に持ってきた手を、ぐっと握りしめている。


 ちなみに持っていた缶は、もうベッコベコだ。


「由香さんのお手伝い……それが、由香さんに対する私の償いです!」


「えぇっと……」


 償いだと、そんなことまで言われてしまった。

 この目はあれだ、こうと決めたら引き下がらない目だ。昔から見ているからわかる。


 その気持ちは、嬉しかったりもする。応援してくれるのは純粋に嬉しい。

 ただ……それが、償いという義務感に押し潰された故の気持ちなら、そうは思えない。


「応援、協力は嬉しいんだけど……いいの? リミちゃんは」


「え?」


 由香の気持ちを応援……その気持ちに、本当に迷いも何もないのなら、大歓迎である。

 だがそうでないのなら……


「私がたっくんに告白したとして、もし付き合うなんてことになったら……リミちゃんは、本当にそれでいいの?」


 まだ恋も知らないこの子に、辛い気持ちを強いることになるかもしれない。そう、心配があった。


「えぇ、タツシ様と由香さん、大好きな二人がくっつくなら、これ以上の幸せはありませんよ」


 そんな心配をよそに、リミは迷いも何もない、ただ純粋な笑顔で答えるのだった。



 ……その後、帰宅したリミは、まだ帰ってきていない達志を気にして、ルーアに電話を掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ