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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第三章 変わったことと変わらないこと
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第100話 十年間の想い



 隠しきれていると思っていた由香の気持ちが、リミにバレていた件。


「タツシ様と由香さんの関係を知ってる人なんて、数えるほどもいません。だからこちらから話さない限り、お二人が幼なじみなんて知るよしもないです。

 けど……由香さんの想いについては、鋭い人は気づいてるんじゃないですかね?」


「マジか」


「マジです。視線とか言動とかわかりやすすぎです」


 もし、由香の想いが不特定多数にバレているとして。それが本当だとしたら、どうなってしまうのか。

 まず、恥ずかしさで間違いなく死ねる。


 リミの言うように、こちらから話さない限り、由香と達志の関係が周りに知れ渡ることはないだろう。

 だとすると……これは単純に、教師が一生徒に想いを寄せている、という構図になるわけで。


「……記憶消す魔法とかないかな」


「ないから素直に受け入れてください」


 ずん、と肩を落とす。あくまでまだ可能性の段階ではあるが、自分の想いが知られているかもしれないと思うと、気が気でない。


「それにしても、タツシ様も幸せですよね。由香さんみたいな女性に想ってもらえてるなんて。

 私が言うのもお門違いですけど……十年もの時間がズレてしまった幼なじみへの消えない恋心、素敵だと思います」


 そうリミが言う。リミ自身、達志が十年間眠ることになった原因を作ったのだ、負い目はある。

 由香が伝えられたかもしれない想いを、十年もの間、彼女の心の中に押し留めてしまったのだ。


 達志の時間……正確には、彼が幼なじみたちと過ごすはずだった時間。それを奪い、それだけでなく、彼の周りの人たちにも多大なる影響を与えた。

 今挙げた由香の想いが、まさにそれだ。


 彼女の想いを、伝える時間を奪った。


 だから……決してロマンティックとは言えないけれど。

 十年もの時間、好きという想いを持ち続けていた由香を、素直にすごいと思うのだ。


「なんだか照れるなぁ。けど私はてっきり、リミちゃんもたっくんを好きなんだと思ってたけどな。だからさっき、スタイル云々の話をしたのかと思ったし。自分をもっとよく見せたいとかで」


 由香は、リミに対して恨みの感情を抱いてはいない。それどころか、リミが自身の恋敵になる可能性すら受け入れているようだ。

 これまでの行動を見ていればそう思うし、人の恋心を止められはしない。


「スタイル云々は、単に気になっただけですよ。

 ……私は、自分の命を顧みずに、見ず知らずの私のことを助けてくれたタツシ様を恩人だとお慕いしてます。感謝と、尊敬と……それに、こんな素敵な人がいるんだと、胸が熱くなりました」


 ポツポツと語るリミの表情は、本人は気づいているのかわからないが、とても穏やかだ。

 それはまるで、愛しい人のことを話すときのような。


 ぼんやりと、由香は思う。リミはおそらく、今まで恋をしたことがない。十年間ずっと達志のお見舞いに通っていたのだ、そんな暇があろうはずもない。

 加えて、達志はリミにとってヒーローのようなもの。恋を知らないリミの感情が、ごちゃごちゃになっている可能性はないか。


 もしかすると、リミが気づいてないだけで実際は。

 それに、もしも由香に対して負い目を感じているのなら……遠慮という気持ちが、彼女本来の気持ちを、隠しているのかもしれない。


 あくまで予想でしかないし、本当の気持ちは彼女自身にもわからない。

 けれどもしかしたら、いずれ恋敵が、現れるかもしれない。由香はそう感じていた。


「ちょっと、そこの公園に寄っていかない?」



 プシュッ



 缶のプルタブが空き、景気のいい空気音が漏れる。中からあふれ出してくる泡がこぼれてしまわないうちに、空き口に口を当て、中身をググッっと飲み込んでいく。

 しゅわしゅわした感覚が、喉を刺激する。


「ぷっはぁ! 仕事終わりの体に炭酸が染み渡るぅう!」


「言い方がおっさんみたいですよ」


 一気に缶の中身半分を飲んだ由香が、「くぅ~」とおっさんみたいな声を上げる。それを冷めた目で見つめるリミは、両手で持った缶の中身を、ちびちびと飲んでいる。

 公園のベンチにて休憩中の二人。ベンチに座ったリミと、近くにある自販機の傍に立っている由香。


 ちなみに由香が飲んでいるのはれっきとしたコーラであり、決してお酒などではない。


「すみません、おごってもらっちゃって」


「飲み物一本くらいどうってことないでいいのですよ~」


「……酔ってませんよね?」


 「うへへ~」と笑みを浮かべる由香だが、それはシラフかと疑いたくなる。

 そもそも、由香はぽわーっとしたところがあるため、普段と違いがないといえばないのだが。


「それより、おっさんみたいだなんてひどいなー。そういうリミちゃんだって、渋いの飲んでるじゃん」


「そうですかね?」


「そうだよ! そもそも『わさび炭酸味』ってなにさ!」


 リミが飲んでいるもの……それは緑色の缶に、とてつもなく興味を惹かれない名前が書いてある。いや、別の意味で興味は惹かれるが、絶対に頼まないであろうものだ。

 そんな由香に、リミは持っている缶を見せつける。


「おいしいですよ? ほら、わさびのつーんとしたあの感覚は炭酸で消えるって聞いたことありません? 聞いた話によると、ならいっそのことわさびと炭酸をかけ合わせれば普通に飲めるんじゃないかって考えから生まれたらしいです!

 素晴らしい考えですよね!?」


「余計な考えを」


 めちゃくちゃ目が輝いている。ここまで生き生きとしているのは、達志と一緒にいる時でもそうそう見れるもんじゃない。


「どうやらわさびを、炭酸水で液状にしているらしいんですが、その炭酸水というのも、業者さんの水属性魔法で特別なものを使っていて、だから後味もさっぱりしていて……」


「もういい、もういいよ。おぅえぇえ……」


 別に聞きたくなかった飲み物の製造方法の、全然聞きたくなかった妙に生々しい部分を聞いてしまった。

 それ以上聞いたら、同じ炭酸ということでこのコーラも飲めなくなりそうだ。


 というか、なんだ特別な水属性魔法の炭酸水って。なんかヤバいものじゃないのか。

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