第99話 バレてないと思っていた気持ち
とにもかくにも、スタイルについては、リミなら心配する必要はないだろう。
「まあ心配しなくても大丈夫だって。むしろ変な努力するより、そのまま規則正しい生活を続ければ、オッケーだよ!」
「そ、そうですか……」
わざわざ相談してくるくらいだから、何事かと思ったが……こう言っては悪いが、大したことない悩みだ。
いや、そもそも……なぜ、そんな悩みを持ったのだろうか。
思春期ゆえの悩み、と言えばそうだが。
それとも、なにか別の理由があるのだろうか。
「それにしても、いきなりどうしてそんなことを?
……あ、さては、好きな子に自分を良く見せたいとか!?」
「好き? そりゃ好きな人はたくさんいますけど……」
「いやいやそうじゃなくて、異性として、だよ」
考えられるのは、これだ。思春期の女の子が、スタイルを気にする……つまり、そういうことではないか。
リミの年頃なら、それくらいあってもなんらおかしくはない。
それに、由香、こういう話大好きだ。
教師になっても、こういった恋ばなには興味津々だ。自分のことは棚にあげて。
「いえ、別に……というか、好きな人はいませんけど」
「……へ?」
ウキウキでリミの言葉を待っていたのだが、返ってきたのは、予想外の予想外……斜め上どころか、真上過ぎる言葉だった。
いや、ちょっと待ってくれ。確かリミは、達志のことが好きなのではないだろうか?
確かに彼女自身の口から聞いたことはないが、これまでいくらもそういう素振りはあったし……
特に由香は、そう感じていたのだが。
「あれ……あれぇー?」
「ゆ、由香さん?」
「ごめん、五分ちょうだい」
自分の中でこうだと思っていたものが覆された時の人間は、動揺からわかりやすく、パニックになる。
今の由香がまさに、それであった。
それからたっぷり五分。なんとか落ち着いた由香は、最後に大きな深呼吸。
うん、だいぶ落ち着いた……と思う。
なにせ、今までリミは達志のことが好きだと思っていたのだ。それは由香の勘違いだったのだろうか?
いや、それにしては距離感というか、近すぎる気もするが。
「私のことはともかくとしても、由香さんは好きな人いるでしょう? たとえばタツシ様のことを」
「……ふぁっ!?」
まだ考えがまとまっていないところへの、予想外過ぎるボディブロー。再び由香の頭の中は、パニック。
というより、内容が内容だけに、リミの言葉を飲み込んだ瞬間、顔が真っ赤になっている。
「なななっ、にを!? わた、わしがたっくくんを!?」
そのせいか、言語がおかしなことになっている。
それは、リミの言葉が正解であると言っているようなものだが……そのことに、由香は気づかない。
ちなみに「たっくん」呼びは、リミも知っている。二人きりの空間で、周りにごまかす必要もないため、不思議に思われることはない。
とはいえ、今のは素でたっくん呼びだったが。
そもそも、なぜ、リミがそのことを……達志への想いを、知っているのだろうか? この気持ちは、達志はもちろん、幼馴染である猛にも話していない。
唯一さよなとは、お互いの恋を応援し合おうと、気持ちを話し合っている。
さよなは猛に好意を寄せている。だが、この十年それらしい進展は全くない。
もしかしたら、達志が眠ってしまっているのを気にして、自分から告白はできないでいるという可能性もある。由香に悪いのでは、と思っているのだ。
だが由香自身、気にしなくていいと話してある。それに、失礼だがさよなのことだから、達志の件がなくても、猛とは変わらぬ関係のままだったんじゃないかと思う。
どうやら、告白する勇気が持てないらしい。気持ちはわかる。
この十年間……いや、幼馴染の彼に想いを寄せていたのは、それよりも前らしいので、実際にはもっと長い片想い期間だ。
……とまあ、由香の想いを知っているのは、さよなだけであるはずなのだ。なのになぜ、リミまで知っているのか。
まさかさよなが話したとも思えないし……いや、まだ確証は持ってないかもしれない。だから、ここはなんとかごまかそう。
という、由香の浅はかな考えは……
「もしかして、バレてないと思ったんですか?」
この一言に、一蹴された。その表情はまるで、「こいつ、マジか……」と言いたげな表情だ。
もしかして、私ってそんなにわかりやすいのだろうかと、由香自身心配になってきた。
ちなみにこの感想は以前、達志がさよなに抱いたのと同じものである。
復学初日、連絡をくれたさよなに対して達志は、さよなが猛に昔から好意を抱いていることを言い当てた。
似た者幼馴染である。
これはもう、由香の気持ちは、リミにバレてしまっているということだ。
いやそれどころか、もしかしたら他の人たちにも?
……いやいや、それはさすがに。付き合いの長いリミだったからだろう、さすがに。
そう信じたい。
「由香さんほどわかりやすい人もそういないと思いますけど」
「待って、その言い方、他にもバレてるみたいな言い方なんだけど」
そんなにわかりやすいだろうか。
本人としては、うまくポーカーフェイスを演じられている方だと思っているのだが。どうにも周りからの、自分に対する印象と差があるように感じる。
だからまさか、リミの言葉は予想外であった。
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